―触れ合う二人―


一緒にいるとふと寄り添い合いたくなる時がある。

同じ部屋にて他愛もない話を繰り返し、暇つぶしと称してゲームで遊んでみたり。だが結局一通り終えた後に妙な沈黙が二人の間に流れ、身を寄せ合いたくなるのだ。

主に先手を取って動くのは身体の大きい方、相手の様子を窺いつつ少しずつ距離を縮めてくる。勿論そんな状況に自分も気付かない訳がない、その友人としての線を越える儀式にも近い相手の行動に否が応でも身体に緊張が走る。

さっきまではまるでただの友達同士だった二人が、ひっそりと愛情を寄せ合う関係に変わる。互いに意思の疎通が取れている二人は今更そんな甘い時間にうろたえることもない…がしかし、寒くなくても暖を取るように身を寄せ合ってただ会話を交わすだけじゃ終わらないから南は時に困ってしまうのだ。

静かに落ち着き払った様子で、床に腰を下ろしていた南を正面から優しく抱き寄せる東方はとても穏やかな様子でその表情は幸せに満ちている。南だって幸せに思ってない訳じゃない、ただ少々照れてしまうのだ。

「………」

言葉を交わさなくても気持ちは伝わり、そっと南も手を回そうとする。だが何となく躊躇してしまい今日はそのまま相手の好きなようにさせる。
ここは南の部屋で家族も出払って誰もいない。突然ドアを開けられて飛び起きるような事態にもならない。
まあだからこそ問題もある訳で…

最初はただ抱擁していただけの腕がギュッと強く抱き締めるように想いが込められ、南は一瞬身体を強張らせるけれど、今度は額や耳に口を寄せられ頬がカッと熱くなる。きっと分かりやすいくらい紅潮しているだろうと軽く予測はつくが、そんな無駄口を叩いている余裕はない。

「あ…っ」

けれど何かを話そうとして口を開けると、何だか恥ずかしいような声が出た。別に喘いだ訳じゃない、それは相手も理解していると思う。

「なに?南…」

すると意地悪げに耳元で囁いてくる。
そんな相手に何となく腹が立ったような立っていないような、南は複雑だった。こう癒しを求めるように身体を寄せ合うのは嫌いじゃないのだ、むしろ好きなのだ。けれどその先の行為はそこまで耐性が付いた訳じゃない、やはり怖さもある。またとても痛かったりもする。
それを何て傷つけず相手に伝えたらいいか、そういう意味でも南は困る。

「その…何て言うか…」

上手く言葉に出来ずどもっていると、すかさず東方は心を読んでくる。あまりにも互いの存在が近すぎて本当に何でもお見通しだ。南だって東方の考えていることはよく分かる。

「ひょっとして嫌?…怖い?」

「………い、嫌って言うかその…怖いのは怖いんだけど…」

「だけど?」

有耶無耶にはさせず最後まできっちりと東方は南の言葉に耳を傾ける…と言えば聞こえはいいが、例え恥ずかしくて言い出しにくいことも黙らせはしない。しかし南と付き合うにはこのくらいの強引さは必要であろう。
すぐ強がって、普段から地味地味言われている割には人一倍プライドなど高かったりする、結構意外と気難しい。また相当の照れ屋でもあるから、あまり何でも南の言葉を真に受けてしまうと、そうじゃない!と突然ツンデレられてしまう時もある。東方自身は結構天然(結構?)と呼ばれたりするので、なかなか判断が難しい。

とにかく今回も東方は持ち前の優しさで(本人はそのつもりで)南に本心を打ち明けさせる。するとちょっと押し黙った後に、南はぼそりと辛うじて相手に聞こえるくらいの声で呟く。


「……痛いのが嫌だ」


そんな南の言葉は、まあ予測してた範囲内ではあるけど少なからずとも東方を驚かせた。一応拒否の姿勢を取られた訳だから。きっとこの場で、「じゃあ痛くしなかったらいいか?」なんて聞いたらゲンコツどころではすまないだろう。

痛いのが嫌だ=入れられるのが嫌だ

に変換しても問題はないかと思う。どれだけ慣らしても確かに痛くないことはないのだから。毎回南は辛い思いをしていると思う、だけど東方は東方でやっぱりより近くで(というより中で)相手を感じたい訳で…拒否されると当然寂しい。残念にも思う。だけど無理に推し進めてしまうのはさすがに気が引ける、なるべく南の許せる範囲で留めたい。

「そっか…じゃあしょうがないよな、なら触れるだけならいいか?」

すると南は至近距離でキョトンとした顔を見せる。正直可愛いと思った。

「え?…触れるって…もう触れてるだろう?」

確かに今は互いに身を寄せ合っている状態で、触れていると言えば東方は南に触れている。だが当然深い意味合いが込められている訳でもあり…南は瞬時にそこまで読み取れなかったらしい。

「あー…何て言うか、もうちょっと深く…というか、そのな…」

東方も上手く伝えられなくて言葉に詰まるが、南の反論は意外にもなかった。それはつまり肯定の意で東方は少しホッとする。じゃあとりあえず基本的なことからと南の照れて赤くなった顔を正面やや斜め上から見据えて、タイミングを見計らってそっと相手の唇に触れる。

そんなに久しぶり…という訳ではなかったけど、いつ触れても気持ちがいい南の柔らかくて温かい唇は東方のお気に入りだ。いつだって人目を忍んでキスとかしていたいと思う、けれど南は絶対公共の場では接近を許そうとしない。まあ部室ぐらいだ、不意に接近しても無理に引き離そうとせず油断してくれるのは。
けれど互いの部屋が一番落ち着くし、一番長く触れ合える。

軽く触れただけで終われるはずもなく、啄ばむようにキスを交わした直後、ゆっくりと深く交わろうとねっとり唇同士が唾液で湿って恥ずかしい音が耳につくようになる。東方は抱き締めていた腕を肩や後頭部に回して固定し、別に逃げられると不安がっている訳ではないが気持ちが先急ぐので吐息も荒く徐々に身体も高揚していく。

「なあ…舌入れていいか…?」

そんな切羽詰った東方の声が聞こえて南はちょっと呆れ顔だ。でも嫌気が差してる訳じゃない。

「…そんな今更なこと、聞くなよ…」

勿論相手の気遣いから出てくる言葉なのだろうが、正直南にとっては本当今更だった。今更何を言うのか、と呆れたくもなる。すると東方もちょっと可笑しく思ったのか笑みを浮かべて、それもそうだな…なんて口にはせず行動で表してみる。また南と触れ合って、今度は互いに口を開き舌を絡ませる。

「んっ…」

艶かしい吐息や声が漏れて、その生々しい感触に脳が痺れるような快感も生まれる。誰にも内緒で濃密にキスを交わして想いを埋めていく。今の二人は友達同士ではない、自分たちを知っている周囲の人たちにはとても見せられない姿だ。普段隠している分、たまにの触れ合いについつい熱が上がるのも頷ける。

「はっ…、ん…っ」

南だって没頭して、本能的により深いものを欲している。これも立派に相手と混じり合う行為だ、とろとろに溶けてしまって一体感を得られるまで続けたって構わない。そんなこと、うっかり告げたら相手が調子に乗るから南は口にしないけれども。自分だって欲してることを分かってほしいのだ。

ようやく離された時は互いに熱に浮かされたように酸素不足でぼんやりとしてしまう。一つの羞恥を乗り越えたように目つめ合うこともできる。ただそう長くは続かないけれど…

「おい、何してんだ…?」

南から疑問の声が上がる。何故なら東方がごそごそと南の衣服を脱がし始めたからだ。これはさすがに見てみぬ振りは出来ない。

「何って…触れたいなって思って」

「さっきしただろう」

「南にとってはキスだけが触れ合い?」

触れ合いにも色んな触れ合いがある、南は痛いのが嫌だと言っただけで触れるなとは決して口にしていない。だから東方的には止められる理由も分からない。決して痛いことをするつもりはない。ただこの掌で南の素肌を感じたいだけだ。

「そうは言ってねぇけど、何も脱がすことないだろ」

「え!?じゃあ服の上からまさぐってもいい?」

どうも会話が噛み合わない中で、突然東方から超ド級のとんでもない発言が飛び出した。しかも冗談ではなく真顔で本気で驚いたような顔で言っている。これにはさすがに南も大声を上げた。

「余計いやらしいわっっ!!」

思わず両手で身体の前をクロスさせ二の腕辺りを掴み、ちょっと怖じ気て隠すようなりアクションを取る。うっかり二人とも服の上から弄る様子など想像してしまい、あまりの卑猥さにうろたえてしまう。むしろ直接触れるより卑猥だ。
だがこの一連のやり取りで南はすっかり萎縮してしまい、これ以上の触れ合いとやらを許しそうにない。これには東方もしまった!と素で焦ってしまった。

「み、南、そのとにかく、もうちょっとだけ…」

「ダメだ!なんか途中で目的変わりそうだろうっ?今日はこれで終わりだ!」

「別に手で身体に触れるくらいなら痛くもないだろう?南がそれならいいって…」

「いいって言った覚えはない」

「そうだけど反論がないってことはいいってことじゃないか?」

どちらも引くにも引けず、さっきまでの甘い雰囲気が見事に崩れて言い争いを始めてしまう。東方の当初の予定も崩れて、南が一度意地になってしまえば引き下がらないのを彼はよく知っている。だからきっと南のためを思うなら折れなくてはいけないところなのだろうけど…何故だかこっちも意地になって引き下がれなかった。正直、まだ欲求が解消されていないからもある。

「触れたい、南に触れたい」

「うるさいっ!恥ずかしいことを何回も繰り返すな!」

「絶対気持ち良くするから」

「だっだからお前は何でそういうことをっっ!!」

妙に真剣な東方の様子に対し、珍しく気迫負けしそうな南だったが次に発せられる言葉にほんの少し身体から力が抜ける。

「南のことが好きだから」

「…っ!……いや、知ってるけどさ…」

「俺も、南が俺のこと好きなの知ってる」

それだけを言えば、後は至極嬉しそうで幸せそうな表情が目の前にあって、南に対して南が対象なのにまるで惚気られているような、毒気を抜かれる笑顔がそこにあった。

―なっなんて顔するんだよっ!デカい図体してるくせに可愛い顔しやがって!―

口には出さなかったが、東方は相当な幸せオーラを放っていた。勿論そう思ってもらえているならこれほど嬉しいこともないが、やはり南は気恥ずかしい。色んな意味で恥ずかしい。そして自分がその言葉で、笑顔で、絆されてしまったことを知り、再び接近して身体に触れようとする手が伸びてきたけれど振り払えやしなかった。

「少しだけだぞ!少しだけっ」

思わず強がりのような声が出るが、東方は優しい笑みを絶やさず再度服を脱がしにかかる。山吹の白い学ランの前をはだけさせて、中のシャツを捲り上げた。南は突如肌が外気に触れて恥ずかしさを覚えるが、実際はこの先の方がずっと恥ずかしい思いをしなければならない。

東方の大きな手が直接肌に触れ、まるで感触を確かめるように肌の上を滑らせていく。南は必死で目を逸らしながら来るであろうあの感覚に備えていた。すると案の定胸の突起に指先が引っ掛かるように触れて、その感覚は予測できたものだったけど南はピクッと身体を一瞬震わせた。その後も断続的に相手の指先が転がすように触れてきて、思わず身体を後ろに反らしてしまいそうになるが何とか耐えて刺激にも耐える。

「っ…!」

唇を噛みながら声も抑えて、決して悪戯のつもりでない東方の指先や掌の動きに翻弄されそうになるがしっかりと自分を保とうと努める。突起を摘まれる度に頭に血が昇りそうになるが気を紛らわそうと必死で別のことを考えてみたり、感じない努力を行っていた。当然東方にもそんなパートナーの心の動きは筒抜けである。けれど他に気を取られるくらい自分の愛撫がまだまだ甘いのだと思い、もう少し南をこっちの世界に引き寄せようと少々強引な手に出る。

「あっ!…はっ」

相手が油断している隙に顔を直接胸に寄せて、先ほど南の唇に触れたその口先で朱色の突起を含み湿らせて強く吸ってやる。するとさすがに声が出たのか南は自分の胸にうずくまる東方を見た。けれど何かを言わせる前にもっと突起に執着して、舌で舐めたり優しく挟んでやったり、時には強く吸い上げて、こっちに集中させる。
南の身体が自然と後ろに押されて、完全に横にはならなかったけれど、南は必死に両肘をついて身体を支える。もうほとんど圧し掛かれていると言っても過言ではないが、やはり完全に覆い被さられる訳にはいかない。

「ちょ…ちょっとっ…、はぁっ…」

少し調子に乗り過ぎているように思えるが、今更この行為を南も止められなく、とりあえずは東方の行動を見守る。けれど見守る余裕も徐々になくなってくる、あまりにも胸を吸われて弄られて何となく意識が朦朧としてくる。明らかにこれは感じている。

「南…」

また低い声でそんな優しく囁くから身体が反応してしまう。舌が膨れて立ち上がった突起に絡まりつき、押しつぶすようにしたり表面を何度も舐め回したり痛くない程度に優しく歯を立てたり、ただ触れ合うでは済まない行動の数々だ。次元を超えている。

「あっ!もう…っ、いい、だろう…っ?」

そろそろやめさせようと胸から剥がそうとするが、その前に東方がそっと南の下腹部に手を当てる。

「っ!」

「こっち…きつくない?」

的確に状況を判断したと言わんばかりの東方に南は身が竦む思いをした。そりゃあれだけ執拗に丁寧にいやらしく触れられたら誰だって反応してしまう、また特定の相手なら尚更。自分の身体のことは自分が一番理解しているつもりだが、でもそこまでは…という気持ちが強い。東方は見過ごすつもりなどないのだろうけど。

「い、いいよ別に!そんなのは…平気だし」

「じゃあもう少しジッとしてて…」

「人の話を聞いてるか!?」

カチャカチャとあろう事か許可を取る前にベルトを外しにかかっている東方は、南の言葉を真に受けない。目の前で欲情を露にした南を放ってはおけず最後まで処理するつもりだ。あくまでマイペースに事を進めていく東方に対し南は押され気味で、勿論感じてしまった自分が一番いけないのだと分かっていながらも、これ以上は非常に危険な気がした。既に流されかけている自分にここははっきりと断った方がいいのだろうけど、正直身体が快楽を欲してしまっている。早く解放されたいと熱が篭っている。

「待て待てーっ!それはいいっ本当に!!大体なんで俺ばっかり…っ」

「それこそ気にしなくていいよ、南に触れてるだけで幸せだからさ」

また東方が男らしい優しさを見せて微笑むと南は赤面して言葉を失う。妙に献身的な相手の態度に戸惑いながらも、実際に反応を示し始めてる性器を取り出されては何も対処できなくなる。

「んっ…ちょっとま…っ!」

慌てて横になりかけていた身体を起こし相手の肩に掴まるが、南の強がりは通用せず東方はゆっくりと性器を揉み扱いてやる。それだけで堪らないのか南が肩にうずくまってきた。

「ほら南、俺に手を回して肩にしがみついて」

支えが欲しい南に対し自ら進言して、そうさせやすい状況を作る。きっと色々恥ずかしがって南は無理な体勢なまま我慢をしてしまうから。けれどあまりそういった好意を素直に受け取らないのも南だから、どうかな?と東方は思っていたが、次の瞬間南が自分の言葉どおりに抱きついてくる。まさに意外だった、自分で言っておいてなんだが。思わず本音が口を出た。

「どうしたんだ?今日は随分素直だぞ南…」

明らかに驚いている口調だった。南もそれに気付いたのか、こんな風に返してくる。

「いつも素直だろうが…っ」

「ええー…?」

ちょっと互いに和んだ瞬間だった。だがそんな会話もここで途切れて、東方の手が性急にだがあくまでも優しく南を昂らせていく。濡れた先端に指先が触れて南は完全に余裕を失う。

「あっ、あ…!」

必死に東方にしがみつきながら顎を肩に置くようにして声を必要以上に抑えはしなかった。艶かしい吐息を肩や項辺りに吐きかけるような状態である、声を出してもこれなら表情は相手から見えないので南も多少開放的になっているのかもしれない。身体を相手に委ねて快楽が与えられる。どんな相手の手の動きにも過敏に反応して南は正直堪らなかった。

「ああ…ふっ、ん!」

「南…気持ちいい?感じてる?」

その答えは口で言わなくても今の南と密着している状態の東方ならば容易に想像はつく。きっと今南は目に涙を浮かべながら快楽に溺れそうな自分と必死で戦っているはずだ。みっともない自分を抑えようと我慢しているが、身体の方は正直で欲望に忠実で早く精を吐き出したいと願っている。もう随分濡れた感触が東方の手にある、滑りがよく多少強く擦っても痛みは感じないだろう。

「ん…あっ、あっ…!」

珍しく感じるがままの嬌声を上げてあの南が快楽に酔っている。自分がそうさせているのだと東方は嬉しくて仕方がない、強く抱き締められる度に愛情を感じる。あの部長として立派な(周りがどう思っているかは知らないが東方にとってはこれ以上にない最高の部長だ)南が自分の前だけ乱れてくれる、触れれば素直に感じてくれる、これが幸せでないはずがない。

ビクビクと南自身が手の中で脈打ち、そろそろ限界かと手の速度を速める。解放を促して楽になってもらおうと、今までの経験上なるべく南が弱いと思われる箇所にも触れた。すると南の身体が面白いくらいに小刻みに揺れる、そんな従順な南に東方も興奮した。触れているだけで身体が熱くなる…いや、ずっともう熱い。

「ほら南、イって…我慢しないでさ」

「ん!んんっ…あっ、ああっっ!」

ずっと愛撫を受けていた南は、これ以上我慢できず東方の言葉どおりこのタイミングで絶頂を迎える。相手の掌に精を吐き出して、その射精感に身体が快楽で震え上がる。制御不能になった身体を完全に相手に預けて息も切れ切れに疲弊した姿を見せる。また声を抑制しなかったことによって、随分得られる快感が強くなった。行為に否定的でない自分はどこまでも目先の欲望に没頭できると知ってしまった。

「はぁはぁっ…、あ…」

身体を落ち着かそうとするが興奮はなかなか冷め止まず、東方もそんな南を心配してとんとんと背中を優しく叩いてくる。そんな行動に癒されつつ南も何だか幸せを感じている、こうして触れ合っていると心が満たされていくのだ。また身体的な欲求も解消させてもらったから。


2へ続く。




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