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―哀れな男2― 途端元気を無くす南の態度。しかし黙って聞いていたら何だかとんでもない事を言われているような気がする…東方はきっと南は無意識なんだろうなあと想像はついたが、だから余計に何と返してよいか言葉を迷う。どの路線でいくか重要な選択だ。とりあえず一通り悩んでおく。 ―誘ってる風にしか聞こえないけど…でも南は気付いていないんだろうなあ― それを単刀直入に指摘してやっていいものか、多分凄く意外な顔をしながら驚かれるのだろう。 「な、何だっていいんだぞ?元々俺がうっかりしてたのがいけないのであって…」 少し上目遣いで…まるで懇願するように見つめてくるから、東方は今もし自分の中での発情期の季節なら迷わずそのまま押し倒していただろう。別に今だってしたくない訳ではない、けれども何故か襲ってやる気にならないのだ。だから至極冷静にやっぱり南に単刀直入に伝えてやる。 「…つまり要約すると好きなように抱いてくれって事か?」 悩んだ末の結果がこれだ。そして南も予想通り意外な顔をしながら戸惑い驚いている。少し頬が赤く染まったが珍しく特に反論はないらしくグッと口を閉ざしながら大人しくその場に留まっている。つまり考えてはいなかったが相手に指摘されて南が別にそれでもいいと判断した結果だ。今の自分に文句など言えない…と顔に書いてある。その言葉どおり何をされても今の南は抵抗しないのだろう、黙って受け入れてくれる。 しかしそれでも東方は動かなかった。 自分が話したっきり南からの返答も途絶えて、きっと今頃南は生贄に出される娘の気分そのものなのだろう。だが東方もそれ以上言葉を続けようとしない、待ってるかもしれない南を半ば無視する形で唐突に机の上を片付け始める。それからドア付近に置いたバッグを取りに行こうと席を立つと何故か南もビクッと多大に反応を示して、それは意識してますと言っているようなものだった、けれどそれでも東方は南の側に寄ろうとはしない。邪な気持ちから放置プレイをしている訳でもない。 ただ何となく動きたくないだけだった。 東方が部屋中をうろうろする度に南は身を固くして、変な言い方をすれば今か今かと一種の期待か怯えに近い感情を持っている。しかし全く興味を示されず、さすがに南もおかしいと顔を上げる。東方はただマイペースに部屋で寛いでる様子だった。いつもの奴ならこういう状況になるとむしろ見逃してはもらえないのに今日に限って禁欲的な態度を見せる。もうどうでもいいと思われてるのか、南は縋りつくような視線を何度も何度も送る。東方が移動をすれば同じように視線で追って、南からすれば誘っているつもりはないのだろうけど明らかにそれは煽りに近い行為であった。 「なあ…」 恐る恐る声を掛けてみても東方は返事すらしない。 静まり返る部屋はやけに空気が重く、南は次第に気を落としてハア…と溜め息を吐く。 決して抱いてもらうためにここまできた訳ではないが、その方向に流れが傾いた今は嫌な気持ちなど持ち合わせておらず、むしろ肯定の態度を取っているつもりだ。それで少しでも誕生日を祝えるのなら本望だ、だがまだ東方が受け取ろうとはしない。非常に珍しい光景だ。 すると突然東方が何か思い立ったように椅子から立ち上がった。南も何事かと驚いて顔を上げると真っ直ぐ視線が合う、そして途端身体に緊張が走る。瞳の奥を見透かされるような熱を一瞬感じるが、やはり東方は手を伸ばそうとはしない…しかも故意的に。 「…夕飯取りにいってくるよ、そろそろ準備できたと思うし」 それだけを伝え終えると、あっさり部屋を出ていく。南は肩透かしをくらい目をパチパチと何度も瞬きを繰り返す。すぐに戻ってくるとはいえ、この状態でポツンと一人取り残され、さすがの南も東方にその気がないことを悟らされてしまう。捨て身の覚悟だったが、それすら拒まれてしまった。 「…何だよ、もうどうしろって言うんだよ…」 ベッドの淵にもたれながら疲労を隠せない南はぐったりと心身ともに疲れ果てる。こんなに頑なに心を閉ざされてしまえば打つ手はなくて、居座る気満々だったけれど本気で諦めて帰らなければいけないのかもしれない。引き際も肝心だと言うし、その気になってもらえないのなら抱かれる身としてはどうしようもない。 とんとん、と階段を上がってくる音が近づいて、部屋のドアが開けば二人分の食事を持って東方がそこに立っている。元々綺麗に片付いていたテーブルの上にそれを並べて、味噌汁のいい匂いが食欲を誘う。けれど何となく御飯を食べる気に南はなれなかった。東方から空気の壁のようなものが作られて深い接触を拒むような冷たさに、自分の存在価値など大したことはないなと南は改めて思い知らされる。 着々と食事の準備を進められて、少し恨めしい気持ちを抱きながら南はまた無意識にあの視線を東方に送り続ける。だが知らないふりをされ、また自分の意思は流された。南は大きく溜め息を吐いて今度は落胆したような表情を見せた、哀愁が漂い透明人間にでもなってしまったかのように己の存在を乏しく感じている。悲しみに暮れてしまった視線は妙に線が細く儚げで、また無意識に色気を出す南は無視を決め込む東方にとっては毒以外の何者でもなかった。 「南、何か言いたいことがあるんだったらはっきり言ってみろよ」 あくまでも遠回しで思わせぶりな態度しか見せない南に痺れを切らして東方はあえてその質問をぶつける。 「えっ…言いたいことって…、それは…」 だがどんな気持ちを口に出せばいいのか…むしろ口に出すことすら自分の中で許されるのか、南は混乱し結局何も言い出せない。さっきお前が口にしたこと少なからず所望しているんだ、なんて口が裂けても言える訳がないし。別にそれに固執してる訳でない、と南自身は認識している。 「ずっとずっと物欲しそうな顔で見つめてくるけど俺にどうされることを期待してるんだ?獣みたいに食いつかれること?それとも言葉で嬲ってほしいとか?」 「なっ!俺はそんなこと一言もっっ!!」 「言ってないよな」 東方に即答されて南は押し黙る。屈辱的な言葉を口に出されて頭に血が昇るが、相手の冷静な態度と瞳に圧倒されて思ったように感情は昂ぶっていかない。 「南ってずるいよな…だって俺が襲ってくるのをただそこでジッと待ってるだけだろ?誘いかけるような目で訴えてはくるくせにさ、いざ始まったら全部俺のせいにするために」 東方の頭の線が一本切れたのか、沈黙から一転反撃に移り南を言葉で追い詰めていく。 「そんなこと俺は思ってもいないぞ!!」 「また無意識だから性質が悪いんだって…酷いこと言うかもしれないけど、こういうことがある度に南は常に被害者面して全部俺に罪を被せるんだ、手を出したのはそっち!ってさ、明確な意思表示をしないまま知らず知らず自分を餌にしてるんだよ…特に今日なんかそうだ」 次々と連なっていく東方の言葉は確実に南の胸を突き刺していく。 「なあ…したいって思うんなら俺に任せっぱなしじゃなくて自分から手でも何でも出してこいよ、セックスしたいって思ってるくせに善人面なんかするな、自分だけ楽するなよ…それともそんな度胸持ち合わせていないって言うのか?動けよ自分からもさ、俺に頼ってばっかいないでたまにはその気にでもさせてみろよ」 少し言い過ぎたか?とは思ったが言いたいことを全て言い終えた東方は、これから食べそうにもない夕食の準備を一応終えて、また定位置である椅子に腰を掛ける。南には背を向けて、もう様子は窺わなかった。 だが後方で立ち上がる気配… 「…俺が楽してるって……?自分から動く度胸すらないって……?頼ってばっかで何もできないって……?」 声が僅かに震えている、哀ではなく怒に満ちた声。 そして怒りは爆発する。 「バッ…バカにすんなーーーっっっ!!!」 ここが東方の家だとは、すっかり頭から抜け落ちている南の叫びが部屋に響き渡った。東方はくるりと椅子を反転させて南の方を向くと、何と既に目の前に南が仁王立ちの如く威圧感を放ちながら迫力満点で立ち尽くしていた。しかしここでいつもの東方なら土下座で謝る展開が繰り広げられているのだが今日は違う。むしろ負けじと南の鋭い視線に真っ向からぶつかっていく。 しばし睨み合いが続き、東方が浮かべたこれからの予想は、多分このまま最高潮に腹を立てた南が飯も食わず帰ってしまうんじゃないかという予想。言ってしまえば南の好意を踏み躙ってしまったのだから仕方がないと言えば仕方がない。わざと怒らせるようなことも確かに言った。だが双方の譲れない思いは、めでたいはずの東方の誕生日を泥沼化へ走らせてしまう。 これは一度頭を冷やすため、ここで身を離してしまうのが得策かもしれない。 そう思えば、東方は少し気が抜けて南からの刺すような視線から目を逸らし大きく息を一つ吐く。きっとこの時点で南の堪忍袋の緒は切れ、そのままドアに向かって進んでいくだろう。そうすればやっとこの部屋に安泰は訪れるのだ、後味は悪いだろうけど。 そして一瞬東方の視界から南の姿が消えた。 ―ああ…激怒したまま帰るんだろうな、案外我慢強くないし…― そんなことをぼんやり思い浮かべていると次に聞こえてきた音で南が一体どこに消えたのか東方は知ることになる。 カチャ。 ―ん?― この聞き慣れた金属音は……東方は思考を巡らせ何かに思いついた時その場所を見つめる。視線を少し下に落とし自分のベルトの辺りを見た。するとそこには確かに躍起になってベルトを外そうとしている膝立ちになった南の姿があった。額に血管が浮かびそうなほど怒っている様子の南だったが、東方が予想していた方面とは大きく食い違った結果となった。どうやらその高いプライドを傷つけてしまったらしい、できないと決め付けられて本人が納得せず…ならばと仕掛けたきた格好だろう。 驚きは隠せない東方だったが、まだ冷静に上から言葉を投げ掛ける。 「下に母さんいるんだけど…」 「知るか!」 だが南はたった一言で重要だと思えるその東方の言葉をあっさりと一蹴する。 カチャカチャとベルトを完全に外して前を開いてやり南は無作為に東方のものを衣服から取り出す。まだ萎れていて柔らかいそれを両手で包み、相手の了承など得ずにさっさと先端に舌を滑らす。実はこんな積極的な南でも口でするのは初めてで東方は物珍しい目で南を見下ろしながら一部始終を見物する。一切自分は口出しせずに南の本能に任せる。 怒りが多大なエネルギー源となっている今の南に怖いものなど何もないらしくて、初めての試みでも躊躇せず舌を動かしその唇で挟み込むように刺激を与えている。生温かい口の感触にぞくりとしながらも東方はなるべく快感は表に出さないように表情を抑える。意地になった南をじっくり殿様気分で大きく構えて、必死で奉仕する姿を目に焼き付ける。 はあ…と息は少し荒くなるが平静を装い続けて苦しそうに咥え込んでいる南に欲情を駆り立てられる。時々歯が当たって痛い思いをするが、その度に頭を押さえて無言で気をつけてくれと訴える。 南もまた涙目になりながらも、甘く見られた自分がこんなにも悔しくて、ならば目にもの見せてくれようと強引ではあるが手っ取り早く相手に本気を示しつける。今日この状況でなければ決してこんなこと南から進んでなど有り得なかっただろう。 「うっっ、ふっ…、んん…っ!」 南の努力の賜物か、口の中のものは質量も硬度も増している。 苦い汁が口腔に溜まり、もっと奥までと咥え込んでいくが途端吐き気にあい南は慌てて口からそれを吐き出す。口の端からだらりと液を零して手で口を塞いでいる。 「無理するなよ南…」 「べ…別に無理、じゃないっ…、ううっ…ゲホッ!」 勢いで始めて見たものの慣れない行為でうまく愛撫してやれない自分を南は情けなく感じ、このままでは終われないと再度試練に立ち向かっていく。大きすぎて咥えきれないなら舌でと表面を這わせて横からも裏側も丹念に舐め上げていく。時折吸い付くようにし悦ばせるにはどうしたらいいか南なりで必死に考える。何とかイかせてやろうと手も使って扱いていくが東方はまだまだ精を吐き出す気配がない。下手なのは分かっていたことだが口での愛撫の難しさに南は軽く打ちのめされる。 「うっ、ううっ…はあ…、はあっ」 誠意を見せようとまたモノを咥え込もうとするがその苦しさに長時間耐えられず、それは到底快感など与えるには程遠いものだった。たどたどしく先端だけを口に含み吸い上げて、喉に唾液と共に苦い汁も流し込む。南は限界を感じてふるふると震えながら口を離す。そして呼吸を整え、また少し落ち着いた頃にしぶとく向かおうとするが今度は東方の制止が入る。 「…っ?」 「もういいよ、それより南ちょっと立ってくれるか?」 あまりの下手加減さに愛想を尽かされたのか南の挑戦はここで終わりを告げられる。中途半端にしかできなくて不甲斐ない気持ちでいっぱいの南だったが立てと言われて何だ?と不思議な顔をしながら見上げる。 「もう苦しくて限界だろ?そんなに心残りか?もっと咥えてたい?そんなに俺の好き?」 「…っ!別に、そんなっ!」 昂ぶりを見せる東方の下腹部を一度見て、南はすぐに目を離し言われたとおりに立ち上がる。今度は東方を見下ろす形となって何が言い渡されるのか緊張してしまう。だがその気には一応なってもらえたらしい… 「下の服、脱いで」 やはり自分では手を下さない東方、全て南の意志で欲を曝け出していく。南が少し渋る様子を見せると「なんでもいいって言ってたよな?」と諭し逆らえない空気を作り出す。南も自分が言い出したことだと最後まで責任は持つ覚悟で、言われたとおりベルトを外し下の服を全て足から抜いて奴の眼前に下腹部を晒す。むしろこうなることを目指して南は口で奉仕したのだから、相手がその気になれば自分は今度こそ大人しく従うしかない。 先程の行為もあってか上気した頬はキレイに朱に染まっていて視線はまだ力強さを失ってはいないけれど南は羞恥に耐えている。少し反応を示しているそれに視線が向かうのは必至だ。だがあくまでも冷静な東方は笑みも零さず更なる注文を南に押し付ける。 「指、口で濡らしてそのまま後ろを自分で解して…」 3へ続く。 |