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―哀れな男3― また際どすぎる注文に南は一瞬戸惑ったが、ここで拒否してもまた同じ事を言われるだけで…南はもう戻れないところまできているんだと意を決して、右手の指を二本とも口に含み唾液で濡らして、また初めての試みに挑戦する。相手の目の前で拷問に近いことを強要させられ、恐る恐る手を後ろに回して東方の視線はなるべく気にせずに自ら解しにかかった。 思ったより狭い入口は南を困惑させて指一本飲み込ますのも勇気がいった。いつも無遠慮に押し広げられているが、いざ自分で慣らすとなると怖いもので指も身体も震えて無理が出来ない。思い切りが悪くなり守りの態勢に入ってしまう。けれどそんなことで東方が許してくれる訳もなく… 「南、早く入れて、じゃないと母さんがいつ二階に上がってくるか分からないから、のんびりしてたらバレるぞ?」 「くっ…はあ…はあっ…、んんっ!」 それは困ると南も急かされて、覚悟を決めて指を一気に奥まで潜り込ませる。すると自分の指なのに中は伸縮して異物を拒むのか執拗に絡み付いてくる。南は何だか自分の指に攻められているような気がして思考は乱れるが、小刻みに揺れるこの指は間違いなく自分のもので不思議な感覚に囚われた。妙に内部が熱くてそこから身体全体に熱が広がり南は息を荒くする。自然と指の抜き差しが早くなって、自分の指に突っ込まれて感じているのが虚しくて、またそれを正面から覗き込まれて羞恥は最大限に達した。 「はあっはあっ!…んっ、あ…っ!」 「ちゃんと前立腺に当ててるか?そろそろ指もう一本増やして南、随分と興奮してるんだな…自分から誘ってきたし、やらしいよ」 中心の昂ぶりが南の心情を鮮明に表して、明らかに変化を遂げたそれを東方は面白そうに眺めている。南が自慰まがいな事をしてこんなに興奮している。誰かに与えられなくても立派に南の身体は淫らな反応を示しており、指二本でもう堪らなさそうな表情をして喘ぎが勝手に口から漏れている。東方の指示どおり性感帯に指を擦りつけているのか、南の発する扇情的なオーラが強まっていく。 ビクン!と身体を跳ねさせて両脚が頼りなさそうにかたかた震えている。東方は見た目だけで南の状態を察知して、ようやく指を引き抜かせる。 そしていよいよそれを南に言いつけた。 「コレ…俺に跨って南が自分で挿れて」 とうとうここまで辿り着き、東方は猛り狂いそうな自身を南に見せ付け、最後の避けては通れない道を南に歩ませる。自分で言ったことは最後まで責任は取る…南はもう理性も半分吹き飛びかけだったが、勿論今度も相手の言うとおりに椅子に座る東方に跨り、恐る恐る自分に突き刺すそれを手で支えて位置を合わせていく。最も近い場所で痴態を見られて、これから身体が一つになるよう埋め込むそれに最接近して、南は自分もこうなることを望んだその当初の目的をようやく果たすことが出来るのだ。 もう今更恥ずかしがる余裕もなくて、自分で自分をはしたないと思いながらも入口にピタッと押し付けたそれをゆっくり体内に沈めていく。そして自分の指とは比べ物にならない大きなものを受け入れることへの難しさを南は身をもって知る。 「あっ!ううっ…!……いっっ」 容易く繋がらない相手と自分の身体に南は惑いながら、それでも必死で繋がろうと痛みも堪えて腰を下ろしていく。きっと東方も南が事を進めることに関してじれったいなと本当は感じているはずだ、でも一切手を出してこないのは自分が試されているからで、本気の程を窺われているからで、南はここで挫ける訳にはいかないのだ。口ではダメだったのだから、ここで満足させてやるしかない。 「んっ、んんっ…ふう、はあっはあっ…」 時間はないのに時間を掛けて南は少しずつ埋め込ませていく。一気に腰を落とせないのは、やはりその時の衝撃を恐れて踏み切れないのと強い快感を伴うことから羞恥も邪魔をしているらしい。 しかし突然階下から東方の母親の声がする。 「雅美ー、御飯もう食べたー?食器取りにいこうか」 最も怖れた事態が発生し、二人は驚愕して南はその反動で思わず一気にそれを奥まで咥え込んでしまった。強い衝撃から大きな声が出そうになったところを間一髪東方が手で塞いでやる。それからビクビクと震える南の身体を抱え込んでこの場から大きな声で母親に返事をした。 「あっまだ食ってるから後で持って下りるよ!」 「はーい、じゃあお願いねー」 しかし上手く切り返したおかげで会話は無事終了し、部屋に踏み込まれる危機を脱して東方はホッを胸を撫で下ろす。だがやはりのんびりはしていられないようだ。 「南…怖かったな、心臓止まりそうになったよ」 東方はそっと声を掛けるが、もはや南はそれどころではなく、ぐったりと身体的にも精神的にもキたらしくて身体を大きく前に預けてくる。そんな南を見て少し苛めすぎたか…とやっと反省の心を持ち始めた東方だったが当然ここで終われる訳がなく最後まで行為はなんとしてでも続けるつもりだ。 「なるべく早く終わらせないとな…」 そう呟くと、南が重たそうな身体を持ち起こして沈んだ状態の身体を僅かに浮かせ、なんとそれから一気に下ろしにかかる。つまり指摘されなくても自主的に動いているのだ、さすがにこの状況に驚いた東方は南を愛しい目で優しく見つめる。きっと南なりに急いでいるのだ、危機的状況を一度迎えたことで。まさになりふり構わず何度も何度も腰を浮かせ自ら抜き差しを繰り返している。 「あっ…ああっ…、んっ」 そんな一生懸命な南の姿に打たれて東方もようやく穏やかな気持ちを取り戻す。気持ちが和らぎ、本当の意味で南にその気にさせられた。 「…積極的な南ってたまんないよ、でも物足りない顔してるな…ほらもうちょっと腰浮かせて…」 冷たく言い放つのではなく優しく言葉を掛けて南の腰を浮かせる。 それから突然息を吹き返したように東方は激しく挿入を繰り返して何度も何度も南を突き上げる。 南はようやく与えられた衝動に身体を熱くして自分も出来る限りタイミングを合わせて腰を振り落とす。 「あっ!ああ…っ、ふっ…んんっ!」 自分の意志のみで動いていた時と相手の意志が加わった時の快感の強さは半端でなく後者の方が大きくて、南は必死にしがみ付きながら声をあまり出し過ぎないように気をつける。 「ああ、やっぱり気持ちいい…っ、深いところまで入ってさ…、感じる?」 そんな声も今の南には遠くにしか聞こえず、もう挿入されている音しか体内には響かなくて壊されそうなほど激しく突いてくるから朦朧としている。快楽に支配されて他のことが何も考えられない。もう前も疼き始めて、どこかに擦り付けたくてしょうがない。 「俺…南のここだけで精一杯だから、そこは自分で触れよ」 腰に当てている手を回せない代わりに、また南の好意に付け込んで調子に乗ったイヤラシイ要求をする。けれど今日の南は本当に従順で素直にそこを自分の手で擦り始めた。真っ赤になりながら欲求を満たす為だけにどこまでも乱れ散る。 東方も締まりを直に感じてなかなか離してくれないのを無理に揺り動かし内側を自身で引っ掻き回す。悩殺的な南の姿を目の前にして興奮しない訳がなく終わる瞬間まで見つめていようと痛いほど視線を浴びせる。自分で自分を慰めている姿なんてまさしく初めてで、どこを触ると気持ちいいのか南の手つきを観察する。 「そういう風にすると気持ちいいのか?」 そして東方が話し掛けると南も面を上げて目を合わせる、すると南は雪崩れ込むように東方との間を一気に埋めて不意に突然唇を奪う。南が奪う。身体中のどの場所も混ざり合うように貪りついて舌を必死に絡ませ合う。水音が響いてイヤラしさは倍増し、ねっとりと何度も角度を変えてその感触を味わう。するともう体力がないのか南は苦しそうにして呼吸がもたず二人は離れ、南は東方の肩に顔を預ける。 「ハアッハアッ、ああ…!ん…っ」 「今日の南…本当にみたことないくらい可愛いよ…もうどうしよっか?」 もう限界も近いが新たな新天地を見つけた気分で、もっと濃密な時間が欲しいと東方は我がままと分かっていても願ってしょうがない。家族のいる家でこんなにお互い熱くなってしまって…見つかってしまったら本当に取り返しがつかないけれども終わりがくるのは惜しく…だがそろそろ解放してやらないと南の方も色々ともたない。 とにかく今は快感を追い求めて、また腰の振りを激しくする。まさに南が自分の上で踊り狂うように淫らに乱れて中心を弄りながら目を虚ろにしていた。終わりたくないと願ってもそれは届かぬ願いで…身体がどこまでも熱くなり自身が脈打って快感が体内で弾ける。 「もっ、あっあっ…ん、ああっっ!!」 「んっ…んんっ、ンッ!」 必死で抑えても嬌声は漏れ続け、ついに甲高い声を発して南は手の中で射精した。 東方も南とほぼ同時に果てて中に白濁を流し込む。 思わず呆然とするような強い快楽の波に飲まれていった。 完全燃焼した直後、二人は本当に燃え尽きたように息を切らして抱き合いながら余韻に浸りあう。 しばらく誰にも邪魔されずにそうして時間を過ごした。 そしてようやく落ち着きを取り戻し始めた頃に二人は繋がりを解く。 行為の残骸を拭いて着衣を正し、南は力ない様子で床の上に寝転がっている。 「…凄く良かったよ、南…」 時に沈黙を破るように東方が椅子から話し掛けて南のご機嫌をうかがう。半ばケンカ腰で始まった今回だから余計に気になってしまった。でも東方は今になって少し重要なことに気付いて、一瞬「あ…」と戸惑うが自分からはさすがに南に言えそうにない。 そして何も気付かぬ南はただ一つのことに必死なままだった。 「……疲れた、でも誠意は…見せてやっただろう…」 そうだ発端は南が東方の誕生日のことを失念していたことから始まったのだ。あれよあれよと意地のぶつかり合いからエスカレートしてここまで走り切ってしまった。東方も南の言う誠意は確かに先の行為で強く感じたし嬉しくもある。だがやはり気になることが頭から離れない。 「でも晩御飯、すっかり冷めちゃったな…味噌汁とかさ…」 「あっでも食うぞ!折角用意してもらったんだからな、よいしょっと」 もういつもの南は身体を起こしテーブルの前まで移動して手を合わせる。正直食欲があるのか微妙なところだったが箸を持って遅くなった夕食に手をつけ始める。続いて東方も椅子から下りてテーブル前に移動し共に飯にする。二人ともさすがに冷めた味噌汁は飲めなかったが、ぬるい御飯とおかずで腹の飢えを満たしていく。 すると突然南がこんなことを言ってきた。 「東方…その本当に悪かったな、誕生日忘れてて。でも一応これで許してくれるか?」 あることにドキッとした東方は少々困った顔をしながら、「もういいって」とだけ返しておく。でも更に驚いてしまったのが次に出された南の言葉だった… 「まあその…、誕生日おめでとうな?」 東方は吹きそうになったのを必死で堪えて目を丸くしながら真剣そのものの少々照れた南と目を合わせる。パチパチと何度も瞬きをして何も気付かぬ南に対し「はあ〜」と溜め息を吐く。南は「何だよ」と拗ねた口調で言ったが、これはもう心を鬼にしてきっちり教えておかねばいけないと東方は心を決める。 「南…そのありがとう、でも俺の誕生日…明日なんだ!また意地になってて忘れてないか?」 ・・・ ・・・・ ・・・・・ ・・・・・・ 「ああ〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!」 南は口にあった飯をブフーと吹きながら箸をカランカランと落として驚愕する。一応ありがとうと言わせる目的は達成できたけど、むしろそれ以前の問題で南は愕然とした。しっかりと途中までは覚えていたはずなのに、またうっかりと抜け落ちていてショックはショックだったが何よりも今は… 「明日っ…そうだ明日じゃねーかっお前の誕生日!!じゃあちょっと今日俺は…っ、お前の誕生日でもないのにあんな事しちまったのかあ〜っっ!?とっ…取り消し取り消し!!さっきのなし!!」 明らかなフライングで事の重大さに気付いた南は一心不乱に暴れ吠え始める。東方も実は行為の終わった後くらいに気付いていたのだが、折角ここまでしてくれたというのに南が不憫で不憫で仕方がなかった。自棄になるって恐ろしい…まあ自分的にはオイシイ思いをさせてもらったので一日早いプレゼントとして受け取ることは別に構わないのだけど。まあむしろ南もオイシイ思いはしていたと思うのだけど、これは自惚れだろうか? NO〜〜!!と取り乱す南を見て哀れに思いながらも、ここは冗談でも言ってやって場の空気を換えようと東方は一言南に告げる。 「まあまあ…で、肝心の明日は何してもらおうか?…なーんて…」 これで笑いと少しの怒りでも取れればいいなと言い渡した東方なりの思いやりの言葉だが…その思惑は見事に外れて… 「うわ〜〜〜〜っっっ!!!もう勘弁してくれ〜〜〜!!!」 今日余程思い切ったらしい南は壊れていく一方だった。 これこそ誕生日を忘れた真の仕打ちなのかもしれない。 やはりせめて恋人(!)位置にいる人の誕生日だけは決して忘れてはならない…と南の中では立派な教訓になった。 しかし南はもうショックで塞ぎ込んで、それ以上折角用意してもらった晩御飯は結局喉を通らなかったという。 どちらにしろ散々な結果に終わってしまった東方の誕生日…もとい前日であった。 南の払った犠牲は思ったよりも大きい。 けれど東方は嬉しそうに微笑むのだった。 END. |