―夢魔の潜む部屋2―


千石はバカ明るい声で恐ろしい発言をし、もう充分とばかりに指を差し抜いてゴソゴソと自分の衣服に手をかけている。そしてたっぷり五日分の欲求が溜まった自身を取り出すとご馳走を目の前に喉を鳴らしてしっかりと足を広げさせて東方に声を掛けた。
「おーい東方、ちょっと今は遠慮してくれるかな?」
すると千石の呼びかけに素直に応じた東方は身を引いて、今から何が起きるのかと千石を観察している。
「じゃ南、力抜いててねー」
「えっ…、えっ…?」
足を折り曲げられた格好で南は少し顔を上げると千石が真っ直ぐ正面の位置にいて、さっきまで指があった場所にまた違う何かが押し当てられる。

「男とセックスなんて…初めて」

そんな言葉を皮切りに千石は南の中へ挿入を開始した。やっと訪れた瞬間に口のニヤケが止まらず自身の欲望を果たすためだけに腰を無造作に進めていく。すると今度は南が悲鳴に近い声を上げて、今まで生きてきた中で味わったことのない衝撃を受けてまたその痛みから表情を歪めた。それをいち早く見つけた東方は千石に言葉を投げ掛ける。
「南…痛がってるぞ…?」
「そんなの最初だけ!すぐ良くなるよっ」
千石の発言は大層無責任だと何となく東方は思ったが、だからといって自分がどうしてやれるわけもなく、ただ事態を見守った。
「…ひっ!せ、千石っっ…い、いたい…って…イッ!」
元々受け入れるようには出来ていない器官を使っての結合は当然無理があって、ましてや誰もが初心者の中で南だけに負担が大きく掛かりすぎるのだ。だが千石はやめてやる気がさらさらなく、痛いと言われようとも引けないところまできてしまったのだから最後まで突っ走る気満々だ。

「ああでも…ちゃんと南の中に入っていくよ?出来ないことはないって、大体夢の中で不可能なことはないよ」
千石は相手を言い聞かすように「夢」という言葉を巧みに使って、南が本当の眠りから覚めてしまわないように気をつけながら、また同時に夢の暗示をかけて不可能なものを可能にできる世界なんだと教え込ます。どうせセックスするなら両方とも気持ちいいほうが当然いい。
「うっ…んん…っ」
「ほら、もう言ってる間にオレの全部入るから」
南が落ち着いてきたのを見計らって千石は一気に奥まで熱を挿入する。南の足を掴みながら半分力任せに身体の中心を貫いた。額に汗をかきながら南の内部を直に感じる。ギュッと締め付けられて千石はしばし酔いしれた。
南もまた最初とは違う反応を見せており、千石の「夢」マジックに引っ掛かったのか感じているような声を上げ始めている。千石が軽く揺する程度に腰を振らすと南は甘い声を震わす。
そんな光景を千石がいいな…と堪能している時に、何故か視界が東方の背中により塞がれた。

―あ、あれ?なんだ?東方の奴…―

目を丸くし驚いていると、更に驚くべき事態が目の前で起こる。

―あ…―

千石は度肝を抜かれたような顔をして頬を掻く。

なんと東方がこの状況で身を乗り出して南にキスしたのだ。当然口に。
まあどういった心境でキスしたのかは予想がついたが、千石は敢えて尋ねてみた。
「なんで人が挿れてる最中にチュウしたりするかな〜」

「……南が可愛かったから…」

「ああそう…」
まあそんな東方の返答は軽く予想範囲内だ、別に驚くべきことじゃない。実際に千石も入れられて善がる南を見て可愛いと思ったんだから。
夢の世界の住人は…いまこの現実がまさしく夢だと思い込んでいるから、ある意味自分に正直な行動を取る。もしかしたら東方は南のファーストキスをうっかり奪ってしまったのかもしれない。でも本人たちは夢だと思っている、千石だけが現実を見ている。ちょっと南には気の毒かもしれないが黙っていてあげよう。
むしろそれ以上のことを今しているのだから。でも千石は何故か唇に触れたい衝動にはかられないのだ。

「じゃあもっと可愛い南を見せてあげるよ」
千石から少し低い声が吐き出された途端、突然息を吹き返したように南を強引に追い立て始めた。その激しさから東方は慌てて身を引き、南は我慢できないような声をしきりに上げて千石が与える衝撃を一身に受け乱れ始めた。
「あっああっっ、はあっはあっ…んあっ」
二人の身体が大きく揺れて、千石は冷たいような視線で何も知らずに喘いでいる南を見下ろす。普段の真面目一本気な南を思い浮かべて、今目の前の光景と見比べそのギャップを楽しむ。勘違いとは言え実際男に抱かれてここまで反応が良いとは抱いてる方としても気分がいいし妙な自信もついてしまう。

―オレ、男とするのも向いてるのかな?いや〜罪だな〜―

エロ本を没収された腹いせに今回このようなことを起こした訳だが、正直一人でするよりも何十倍にも気持ちいい。締まりはいいし感度もいいし…少し病みつきになってしまいそうなほどだ。東方も羨ましそうな目で千石を見ている。

まあ…だがしかし余りにも南の声が大きすぎるというか鮮明すぎるというか…少々限度を越える異常事態ではあった。当事者はまあいいとして、ここで忘れてはいけないのがもう一人の存在であり、さすがに気付いてしまうように思う。
南の聞きなれない濡れたいやらしい声が響く中で眠っていられるのだろうか。

ある時、第四番目の人物である二年の室町は脳波をやたらと刺激するような不快な声をキャッチした。
―やたら、あーあーうるさいんだけど…―
合宿最終日でもあり、猛練習でヘトヘトだった室町は深い眠りについてはいたけれど、何かが邪魔をして一時的に睡眠を手放し重い瞼を開けた。
そして目の前に映る光景は…

真横を向いていた室町には、モロあの南部長が女の出すような喘ぎ声を上げまくって涙をこぼしながら快楽に溺れている姿を目撃した。そしてよく見ると南部長はほぼ裸で千石さんらしい人が何やら腰辺りに密着して…そうまさにセックスをしているようにしか見えなかった。

だが…そんなおぞましい光景を見たにもかかわらず…室町は相当この合宿で体力を消耗していたのか、今見たものの全てが「夢」に間違いないと勝手に解釈して再びコテン…と眠りに落ちていったのだ。要するに彼も現実逃避したのだろう。

そして同じ部屋でそんなピンチを迎えていたとは知らない千石と南は相変わらず繋がり合っている。卑猥な音を生み出しながら千石が突く動作に南も反応していいように腰が振られる。
「あっあっ…、あっ!」
我を忘れて快楽にしがみ付こうとする二人の熱さに東方もあてられながら、再度一度離れた場所に顔を埋めてしつこく胸を攻め立てる。
もう千石もそんな東方を不快には思わなくて、むしろ三人で楽しめてラッキーと思っている。どうせこの後代わってはあげるけれど、その時自分もちゃっかり参加させてもらいたいので。

「いいなー南、同時に攻められちゃってこの人気者」
何度も抜き差しを繰り返し、南が特に反応する場所を見つけて執拗にそこを狙って千石は合宿中の溜まりに溜まった欲求を全て惜しむことなく南にぶつけた。南も正気でない今は与えられる快楽にとても忠実で、彼もきっと態度には出さないけどその内に欲求を押し込めていたのだろう。
初めて味わう痛みと甘さが伴ったこの鋭い性行為に、南も取り込まれ先程果てたばかりだというのにもう中心の熱が二度目の解放を待ち侘びている状態だ。
「もっと締めて腰振って…そうしたらイかせてあげるから、それとも東方に下も触ってもらう?」
千石はまだ余裕の表情を見せているが、本当は限界が何度も訪れかけている。
「あっっ…んーっ」
「…え?下も…触ってやろうか…?この際だし、いいよー…」
東方は突起を口に含みつつ、するすると手を伸ばして敏感になっている南のものを掴んだ。その瞬間南から悲鳴のような声が上がる。

「あー…他人のなんか触るの初めてだ…といっても夢だけど…」
ある意味理性をもたない夢の住人その2・東方は、容赦なく棒を扱いて南を最後の瞬間まで追い詰める。千石の追い立ても当然止まないまま、とうとう南は快楽に耐え切れず二度目の射精を行った。またその南の絶頂の震えが中の千石を大いに刺激して、この時千石も果てる。
奥に埋め込んだまま精液を流し込んだ。

「ハアッハアッ…あ…っ」
練習中よりも明らかに息を切らしている南。ここまでされて普通気がつかないものなのか疑問だが、千石の生まれ持つ運の良さがきっと発揮されているのだろう。ここでうっかり覚醒されても誰もが困る。
「あ〜〜気持ち良かった!中出しなんて初めてだよ、サンキュー南」
やっと本来の目的を果たした千石は清々しい表情で南に礼を言う。だが南はそれに対する返答を返す余裕が既にない。むしろよく理解はしていない。
ずる…と南から身を引いた千石は満足そうでしばらく余韻に浸っていた。でも同じく南から身を引いていた東方と目が合い、ニィっといやらしく笑いこんなことを告げる。

「それじゃあ東方、お次どーぞ」

「………俺?…俺もしていいの?」

「どうせなら皆で気持ち良くなろう、それに夢なんだから深く考えないでいいって!東方もどうせ溜まってるんだろう?じゃあ解消させたら?」

「……うん…、合宿なんて…ほぼ禁欲生活だもんなあ…」

千石の口車に上手く乗せられた東方は、もう何の疑問も感じずに先程まで千石がいたポジションに移る。そしてごそごそと自身を取り出し始めた。

―いやーまさか地味'S同士のセックスが見れるとは思ってなかったなあ…二人とも完全に騙されてるし…、一応見つかった時のことも考えて東方にもヤっといてもらおう、むしろ本人もまんざらじゃないみたいだしね〜―

千石は観察モードに入るが、二人が本番に入る前にあるものに目がいく。
「んん!?」
思わず目を見開いてジーっと視線をそこに合わせてしまった。
東方が寝ぼけながら今手にしてるもの…つまり男性器な訳だが、さっきの千石と南のセックスを見て興奮して勃起をしているのは分かるが、問題はそのデカさであって、ちょっとやそっとじゃ拝めないような雄の姿がそこにあった。
「は、はあ〜〜〜……すげっ」
「ん?千石…何か言ったか…?」
「いやいや、とても立派なものをお持ちで…」
「ははっ」
―うおっ笑った!しかもちょっと得意げに!夢の世界ってすげー!起きてる時あんなこと言ったら普通に怒ってきそうだもんなあ―

今度は千石が休憩する番だが(もちろん途中でチョコチョコ混ざる気ではいるが)楽しみが一つ増えたような顔をして、わくわくと今は二人を見守る。東方が南の足を持ち上げて先程千石が散々荒らした秘部に自分も同じく熱を宛がう。
「おーい、ちょっと南が怯えてるぞ?君デカいからー」
「…ん?」
千石の突然の声に一点しか見えていなかった東方は少し腰を引いて南の顔を見た。すると確かにこれから自分の身体を突き刺そうとしているものを見て怯えて震えている様子が伺えた。
「大丈夫だって……、俺初めてだけど夢なんだし、上手くいくよ…」
その時千石は心で密かに、あっやっぱり初めてなんだ…と冷静に東方の言葉を聞いていた。
「あっ…でも…、お前もっ…するのか…?」
「……いや?」
「え……それはー、よく分からない…んだけど…痛くないか…?」
「それは俺に聞かれてもなあ…、多分大丈夫だと…夢だし都合良くできるよ…」

淡々と夢うつつ者同士の会話が進み、とりあえず合意はできたらしくてようやく東方は再度南の秘所にものを押し当てた。途端、南の身体がビクッと跳ねて表情に怯えが戻るけれど、挿入される際に千石との行為の名残でそこがグチュグチュに濡れたままだったので思ったよりもスムーズに事が進みだした。
それでも多少の痛みは感じるのか南は歯を食いしばりながら相方の侵入に耐えている。
「うっっ、…あっああっ……んっ」
「ああ…すっごい熱い……南の中、濡れてるし…気持ちいい」
他人の体内に侵入してその直接的な快感を得て、東方がその快楽の虜になるにはそう時間は掛からなかった。初めて誰かと繋がりあって男の持つ欲望が溢れ出し、南のことはあまり気にしないで東方は自身の挿入を一気に最後まで行った。棒全体が柔らかい粘膜に包まれたような、甘い甘い感覚が走る。そして時には内壁で強烈に締め付けてくる。

「なんか…我慢できない…、南…」
「あっ!ああっ…ひっ…うう…」
理性を失った穏やかな獣は言葉で相手を攻め立てることはなくても、行動で立派に自分が持つ激しい欲望を中で擦りつけていた。容赦なく奥へ何度も突っ込み、また引いては奥を再び目指す。その単純な行為をひたすら繰り返している。
端で見ている千石も東方の豪快さに呆気に取られて迫力負けしてしまいそうになるが、反対にこの状況を楽しんでもいる。大迫力の映像に胸を躍らせている。

―わー…東方すごいな…、南もなんだかんだで感じてるみたいだし…単純な動作を繰り返しているだけなのになあ…やっぱこの二人は身体の相性もいいのか…、ちょっとジェラシー―
まだ女の子慣れしている自分よりも初心者マークの東方の方が相手を悦ばせているなんて正直信じたくない。プライドの問題もある。こんな情けないことがあっていい訳がない。
―まあでも、やっぱりオレの方が断然上手だよなあ〜、しょせん東方は二番煎じ…南も二回イって感度も上がってるだろうし…うん!オレの勝ち!―
結局千石は頭の中で自分の都合のいいように解釈してこの自問自答に決着をつけた。それと同時に瞬時に切り替えも行う。
「おーおー二人とも激しいねえ〜、また勃っちゃいそうだなあ」

目の前で千石の毒牙に掛かったノーマルな二人が、性別の壁を越えて抱き合っている。南も千石と東方という大きく異なったタイプの二人を相手にして、その違いをしっかりと肌で感じているようだ。東方には千石のような意地悪な部分はあまり見受けられず、ただ一心に南と交わっている。真剣な表情で汗まみれになって…
「ああっ、ん…あっ、あっ」
南にも相手の必死さが伝わって、また千石と比べて圧迫感なら東方のほうが上なのでより激しく感じる。何度も大胆に抜き差しを繰り返されて、過敏な身体が衝撃に震え声が止められない。
「んん、あっ…んぁっ…あっ、ふぅ…」
またこの小部屋に快楽の満ちた甘い声が響き始める。

そして再び不吉な影が……彼が目を覚ます。

「ん〜〜、またなんか…あーあー聞こえ…て…、うるせー…」
眠りを手放したくない室町は虚ろなまま、薄っすらと瞼を持ち上げる。
すると相変わらず南部長が女みたいに喘いでいて、懲りずに誰かとセックスをしている。
「…んん〜?今度は東方せんぱい…かよ…、もうこんな夢、訳分かんねー…ZZZ…」
相手が千石から東方にチェンジしているというショッキングな映像だったのにもかかわらず、やっぱり室町は疲労感から抜け出せなくて、これも「夢」だと思い込みそのまま布団に沈んでいった。

つまり再び、千石と南と東方は助かったのだ。
ラッキーマンの存在がやはり大きいのだろうか?

「こんなに見せ付けてくれちゃってー、興奮しちゃうじゃん、オレも」
千石はペロリと上唇を舐めて、ただの見物人だった彼はようやく動き出し二人の元へ近寄る。東方も南も近くの千石の存在に気付いたようだが、それぞれ口を聞く余裕もないらしく行為は順調に進んでいる。
寝転がる南の隣に腰を据えた千石はジッと南の顔を見つめる。もちろんその間も東方の攻め立ては続いている。南は相手が動く度にいやらしい声を上げており、つまり千石にそんな様子をずっと観察…もとい視姦している。
「あっ…んん…っ」
「ん?オレなんか気にせずに思う存分声出しなよ南、結構そんな南の声気に入ったから…っていうか凄くイイ顔…」
「なっ…なんだよっ、二人…して…」
「ああ本当…イイ顔…」

普段は絶対に拝めないような表情を見せられて、千石は基本的に女の子大好き人間だけど、ゾクゾクと心臓を鷲掴みにされるような高揚感を味わっていた。見ているだけなんて元々無理な性格ではあるが千石は我慢できず南の頬を舌で一舐めした。それから滲む汗を舐め取るように顔の表面のあちこちを舌先で移動して、だが決して口には触れず南を舐め回す。顎から首筋にかけてツーと舌を下ろし、鎖骨の窪みに吸い付いて南の反応を確かめる。
我ながら変態くさい…と千石は思いつつもこの衝動は止められず、また至近距離で南が喘ぎ啼く姿を目に焼き付ける。こんな堂々と見せてもらえることはこの先どれだけ長い人生でもあることはないだろう。
今日はある種の宴だ。


3へ続く。




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