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―思わぬ来訪者― 今日は9月21日、我ら盤戸スパイダーズ赤瞳のエース・赤羽隼人氏のお誕生日。 これは盛大にお祝いせねばと部員一同秋季大会中にもかかわらずこっそりと下準備を始め、しかしあまり時間は割けない事から、ささやかながら午後の練習を早めに切り上げて部室で祝ってあげる事となった。 一応簡単ではあるが部室の飾りつけとケーキとプレゼントが用意され、プレゼントに関してはあまり物欲のない赤羽が喜びそうなものを部員総出(若干一名除く)で話し合い、結局細かいものを個々で渡すよりも皆でお金を出し合って一つの物を贈る事に決めた。 そして当日部室で、何故かマネージャーであるジュリが代表で赤羽にそれを手渡し(他の誰も遠慮してまともに渡せそうになかったから)、開けても構わないか?と尋ねられたので、ジュリもそれを見守っていた部員一同も首を縦に振り赤羽は包みを開けた。 すると中から程よい大きさのケースが現れて、赤羽はそれを取り出し中を開けてみるとそこには品の良いサングラスが入っていた。しばらく皆の贈り物を眺めていた赤羽は、ふと今自分が身に着けていたサングラスを外し、それをそっと自分の赤い瞳の上に身に着けた。とても付け心地も良かった。 「…ありがとう、大事に使わせてもらうよ」 自然と感謝の言葉が零れて、それを聞いたジュリや部員一堂は良かったーと口にしながら気に入ってもらえて良かったと胸を撫で下ろしていた。しかしまあ若干一名だけ、部室の隅の方でムスーッとその微笑ましい光景を面白くなさそうな顔で見つめていた。別に何か不満がある訳でもなく、その者も半強制的ではあったが出費もしている。けれど普段から赤羽に対してそんな態度ばかりを取っているから、こんな目出度い日にも関わらず素直に「おめでとー」なんて言えるはずもなくて。 だから表情は不満顔でも文句は言わない。黙る事でこれでも自分流で祝ってやってるつもりではあるらしい。確かに突っ掛からないだけでとても部室が平和に見える。 それから二つのホールケーキに計18本のロウソクが立てられ火も灯され、さあどうぞ、と誕生日パーティーでは恒例のあれを今日の主役である赤羽に委ねられる。そして皆が見守る中、自分のすべき事を理解している赤羽はそっとケーキに近づいて… 「フー」 「おいそんなんで消えるか〜〜〜〜!!!!」 よりによっていつもの「フー」が発動されて、ここは的確にずっと黙り込んでいたコータローが赤羽にツッコむ。もう赤羽の一挙一動が気になって仕方がないらしい。けれども今回はナイスツッコミであった。 「ん?」 「ちゃんと息を吹きかけろ息を!!」 「火なら消えているが?」 「消える訳ねーだろ!!!って本当に消えてやがるーーー!!!(驚愕)」 「はいはい、もう黙ってて!今日はいらん事言わないってあれほど誓ったでしょ!」 まあそんな赤羽ならではの神秘を目の当たりにし部員一同は目をキラキラと輝かせ、そしてオチ的にいつもの漫才状態になってしまった。結局コータローは叱られる羽目となり、また自ら口を塞いで黙り込み始める。そしてジュリが軽快にナイフでケーキを均等に分けて、それが皆に配られた。甘い物が苦手な赤羽にもほんの少し振舞われる。ちなみに甘い物が大好きで大食らいなコータローにも今回は量があまりない事から皆と同じ量を分け与えられる。 そんなこんなで誕生パーティーはささやかながら行われて、そして無事に終了した。 後片付けも皆で行い部室を元通りにして、それから本日のアメフト部は解散した。 これで平和に何もかもが滞りなく過ぎ去ったように思えた… けれど一つの影はうごめいて… 皆に盛大に祝ってもらった赤羽は表情は変わらぬがとても幸せな気に満ちていて、感無量だった。例えこれから誰もいない部屋に帰ろうとも、明日から又大会の為の厳しい練習に臨まなければならないことも苦には思わなかった。元々苦でもないのだが。 皆にもらったサングラスをかけたまま夜道を帰っていく。それだけで幸せだった。 そして部屋の前まで辿り着き、赤羽は鍵を取り出してノブに差し込む。だがいつもと同じように施錠の開く音がしなかった。それよりも鍵が回らない。 「??」 赤羽は不思議に思いつつも、ひょっとしてとノブを回してみる。するとドアはいとも簡単に開いていった。つまり鍵が掛かっていなかったのだ。 ―??…確かに今朝施錠の確認はしたはずだが……??― とにかく中へ入って状況を確認しようと赤羽は靴を脱いで部屋に上がる。すると突然目の前に人影が現れた。驚いて正面を向く赤羽だったが、そこには意外な人物が立っていた… 部室でパーティーとやらが終了した後、一同は解散となったがコータローは寄るところがあると言って同じ方向へ帰る者にジュリを託して、一人個人行動を取っていた。周りから見ればどうにもこうにも怪しさ満点だったが、コータローはさっさと遠くへ去っていく。ジュリも呆れ顔だけど、別に止める理由もないと部員たちと帰っていった。 晴れて自由となったコータローは最初から何かを狙っていたようにこそこそとうごめいて、そしてどこかへと向かっていく。 ―さあ、ビビらせに行くかーっ― そうコータローは今、赤羽のマンションに向かっていた。 何故かと問われれば、多分今日が赤羽の誕生日だからであろう。だからなんで普段仲良くないコータローがこんなこそこそ隠れるように赤羽の元へ向かっているのか、そこが一番の疑問だろう。けれど意外と二人は複雑な関係にあり、一重に仲が悪いとか、実は友情が芽生えかけてるんじゃ?とか、え?付き合ってる?とか、そんな単純な言葉では言い表せない。とにかく理屈ではないので考えたら負けなのだ。 ふんふんふんと妙に上機嫌に片手にコンビニ袋を提げて、更にもう片手に愛用のクシで髪を整えながら(これはただの癖)コータローは行く。もしも留守だったりしても、以前自分の誕生日に赤羽から貰った合鍵があるから、いつでも自分は出入り自由というわけだ。大した特権だと思う。 軽快な足取りは行き慣れている証拠なのか迷う様子もない。学校では、皆の前では、あれだけ不機嫌そうな顔をして赤羽に対しても敵意剥き出しだというのに、案外影で二人で会う分にはコータローは抵抗がなかった。むしろ人目を気にしない分、等身大で接することが出来るらしい。 しかし何故、皆の前では仲良くできないのかが疑問である。まあ仲良く…という言葉にも語弊はあるのだが。ただの天邪鬼かもしれない。 そして部屋の前までやってきて、早速コータローはその手にある合鍵で開けようとするけれど、よくよく考えてみれば留守でない限りわざわざ侵入する必要もない訳で、ここは一先ず行儀よくインターホンを鳴らす。けれど何度も鳴らす、飽きるまで鳴らす、中から音がするまで鳴らす。 もうこれだけの一連の動作で一体誰が訪れたのかは、頭の良い赤羽なら瞬時に分かる事だろう。 それから間もなくしてバタバタとドアの向こうから音が聞こえる。どうやら驚いたのかビビったのか、慌てて駆け寄るような音が。モニターで来訪者の顔くらい確認しているはずだから。 ガチャ。 そしてドアは開かれた。 「ようーっ、しょうがねぇから来てやった………、ぜ?」 いつものように軽く挨拶するけれど、何故か途中で言葉が不自然に途切れて妙な疑問形になる。コータローは目を大きく見開きながら、何度もパチパチと瞬きを繰り返して目の前の光景をマジマジと見つめている。そして少し焦った。 「えっ…、あれっっ??」 焦るのも無理はない、何故なら目の前に立っていたのは赤羽ではなかったのだから。 女性…というよりかは、自分よりも少し幼い少女がそこに笑顔で立っていた。 「どちらさまですか〜?」 品の良い声に、可愛らしい笑顔、少しお嬢様っぽい服装…栗色のウェーブの掛かった綺麗な長い髪、コータローは思わずその場で固まった。何も答えられないまま視線だけをその女の子と交わす。 ―えっ…あれ?部屋間違えたか?、いやっでも…ここだろ?、つーか可愛い!!― 完璧に混乱しているようだが、しばらくしていつもの見知った顔がその少女の後方から現れる。 「理沙、勝手に出て………、ん?コータロー」 「ん?おおーっ!赤羽!!えっちょっと待て、これはどういう…っ」 まだ上手く状況を読み込めないコータローは、この瞬間に様々な仮設を頭に打ち出していた。こんな夜更けに可愛い少女が赤羽の家に?けれど何となく見覚えがあり誰かの面影のある美しくも可愛らしい少女は、特定の女性というよりも赤羽の…… 「あ、お兄ちゃんのお友達?じゃあどうぞ上がってくださいっ、ひょっとしてお祝いに来てくださったの?」 「えっええっ、い…妹っ!?なんで…、あっいやまあっ一応祝いに…みたいな…ん?」 「とにかく中へ入れ、余りこの場所で大きな声を上げると近所迷惑になる」 こうしてコータローは中へ迎え入れられたのだが…一応いつものリビングのソファーに案内されるが不思議マークが全開で、また部屋中に甘い香りが広がっていた。これは…ケーキ? 「俺もさっき帰ったばかりで驚いたんだが、どうやらわざわざ関西から家族代表で俺の誕生日を祝いに来てくれたらしい、今キッチンでタルトを作っているんだそうだ」 「へっへえ〜〜、マジでビビったぜ…何事かと…、つーかやっぱ兄妹だな、顔の系統が一緒だぜ…」 するとまたひょいっと妹が顔を出す。 「もうすぐ焼けるから、もうちょっと待っててね、お友達さんも良かったら一緒に頂いてくださいね」 「えっあっどうも、サンキュー」 まだこの状況に慣れないのかコータローはギクシャクしたままだが、この状況でむしろ兄は動き出す。そういえば紹介がまだだったな、双方に互いの紹介をした。 「理沙、彼は盤戸高校の同級生でチームメイトの佐々木コータローだ。コータロー、妹の理沙だ、よろしくしてやってくれ」 「初めまして佐々木コータローさん、よろしくね、赤羽理沙です。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」 「おおっよろしく、佐々木コータローだぜ、コータローでいいよ」 やっと互いに名乗りあい、何となく気さくな雰囲気のコータローに赤羽の妹は口元にフフと笑みを浮かべる。それからまたキッチンへ消えていく。そしていつの間にか目の前に出されたコーラをコータローはグイッと喉へ押し込む。どうやら赤羽が用意してくれたらしい。赤羽の手元にもブラックコーヒーがある。そして簡単に夕食代わりにもならないがつまめる物も置かれている。とりあえず買い食いはしたが腹は減っていたのでコータローはそれに手を伸ばした。 「あれがお前の妹か…そういや前に写真で見たことあったけどよ…実物はもっと可愛いな、羨ましいぜっ」 「だが少し天然が過ぎる…先程もこんな夜に相手の確認もせずドアを開けて…」 「お前に天然が過ぎるとか言われたら妹もおしまいだぞ、つーかそういう家系かよっ!人の事は分かっても自分の事は何も分かってねぇんだなー、テメーはよ!」 最もなコータローのツッコミだったが、それに関して赤羽は特に何もコメントせず、何もなかったように普通の質問を口に出してきた。 「ところで、どうしたんだ…こんな時間に」 ―天然めっっ!!!― 上手くはぐらかされたというより、特に気にしていないというか、むしろ自分には関係ないみたいな態度で自身の天然に関しては総スルーだった。だが一々突っ掛かってもしょうがないと仕方なしにコータローも天然とはまともに相手をしない。だが普通の質問も何だか答えにくい内容でもあった。 「別に暇だったから寄っただけだ、つーか妹来てるんだったら学校でシャワーでも浴びときゃ良かったぜ、ぜってー汗くせぇ…」 「祝いに来てくれたんじゃないのか?」 「ブホッッ!!!いっいきなり何言うんだよ!!コーラ吹いたじゃねぇか!!ちょっと驚かせに来ただけだぜ!」 しかし実際は赤羽家によって驚かされる羽目になったのだが。まあ特に追求はしないと赤羽もそれ以上何も言わなかったが、先程の汗臭い発言を聞いて普通にこう切り返す。 「いつもみたいにシャワー、使ってくれて構わないが?」 コータローは特に使用の許可など求める事なく、いつもなら勝手にシャワーなり何なり自分の思うように行動している。だから妙に遠慮している様子のコータローは珍しく感じた。 「あぁ?…んな…妹の前でよ……やっぱな……」 「??汗の臭いの方が気にならないのか?シャワーを浴びてもいつもみたいに裸で出て来なければいいだけの話だ」 「うるせーーー!!!人を裸マンみたいに言いやがって!!パンツは履いとるわパンツは!!」 「………妹の前ではそんな下品な言葉は使わないでくれ」 パンツパンツと連呼するコータローに不審感を表して、とにかく妹のいない間に浴室へ放り込んでしまおうと赤羽はほぼ無理やりコータローときっと着替えでも入っているであろうカバンを一緒にそこへ押し込める。という自分もシャワーを浴びたかったが、一応客人に先を譲るも、何となくコータローと妹を二人だけにさせるのは危険だと兄ならではの直感が働いていた。さすがに犯罪まがいの行為はないとしても、何か余計なことや妹に相応しくない内容を無闇やたらに言葉にされてしまう恐れがある。 とりあえず厄介を浴室に閉じ込めておいて、赤羽はようやく一人ソファーに凭れて休息を取る。自分の誕生日がこんな賑やかになるとは想像もしていなかった、だが非常にありがたいことでもある。また夏の盆以来である妹との再会も、赤羽の張り詰めた精神を癒すものとなった。波長の合う兄妹で、赤羽は昔からこの妹を可愛がっている。 するとそんな妹の声がリビングに響いた。 「お待たせ〜、できたよマロンのタルト!美味しく作れてるかどうか分からないけど甘さは抑えてあるから、あれ?コータローさんは?」 「ああ…ありがとう、嬉しいよ。コータローなら今シャワーを浴びてるよ、練習の後で汗が気になるんだろう」 「そう、あっコータローさんってケーキとか甘いの大丈夫なのかな…結構大きく切り分けちゃって…」 「それなら心配ないな、放っておいたら1ホール丸々食べてしまうよ」 物凄い言い草の赤羽だったがそれはあながち嘘でもなければ、きっと1ホールくらい簡単にコータローなら食べ尽くしてしまうだろう。決して大袈裟ではない。そんな兄の返答に妹も安心したのか、ホッと安堵した様子で、そしてまた兄のその言い草がとても面白かったのか口に笑みを浮かべている。 「そういえば随分前だけどお兄ちゃん、ここに一人残るって決めた時どうしても一緒にアメフトをしたい相手がいるって言ってたよね…それってコータローさん?」 「…よく覚えているな、ああそうだよ、でも本人にはその事は内緒にしておいてくれ」 「どうして?仲のいいお友達なんでしょ?ちょっといつものお兄ちゃんの友達のイメージとは違うけど」 妹の知っている兄の友人のイメージとは、元々あまり家に連れてくることはないけれど、知っている限り音楽仲間かやはりどこか大人びたイメージがある。けれどコータローはそのイメージには合わない、大人びてはいないし歳相応な元気いっぱいの高校生に見える。感情表現も豊かで嘘のつけなさそうなタイプだ。 「………アイツのことをどう説明すればいいか…難しいな、言葉で説明するよりも直接話した方がきっとよく分かる、友人と言うよりはチームメイトだな」 「でもチームメートなだけでわざわざお祝いになんて来ないでしょ?友達っていう関係よりも濃いチームメイトってこと?よく分からないけど…」 「そうだな、そうかもしれないな」 コータローのいない間に兄妹の話題に上って、意外と意味深な会話を交わしている。こんな事、本人がいなくて相手が妹だからこそ話せる内容だ、と赤羽は思う。 「でもお兄ちゃん、何だか楽しそうだもんね、好きなんだなって分かるよコータローさんのこと」 その好きという意味も勿論友人として、いや戦友としての意味合いで妹は話している。だがさすが赤羽の妹だけあって更に女性特有の鋭い勘も持ち合わせていて、とても確信めいてる、と兄は感心する。けれどそろそろ心の中を暴かれるような尋問も終わりにしたいと赤羽はコータローがこの場に戻ってくることを願った。きっとそろそろ時間的にも出てくる頃だろう。 すると… 「あ〜〜さっぱりしたぜ、おっもうケーキ出来てんじゃん!早く食おうぜっ」 全て準備万端の状態だった。バスタオルでガシガシと髪を拭き、目の前の栗の乗った美味しそうなタルトに目を輝かす。ドカッと豪快にソファーに座り早速それに手を伸ばす。赤羽もそれを見て、じゃあ頂こうかと言った後行儀よく手を合わせて妹が作ってくれたマロンタルトを食し始める。 「ングング……うん、うん、うまい!!これすっげー美味いぜ!」 「ああ美味しいな、また腕を上げたんだな」 「良かった〜、まだたくさんあるから良かったら言ってね、お兄ちゃんもコータローさんも」 「ああ、君でいいって、さんとかそんな妙に余所余所しいじゃねぇか」 「そっそう?じゃあコータローくん、コータローくんってとっても面白いのね」 「その上カッコいいんだぜ?スマートだろ?」 「スマート……うん、よく分かんないけど!」 随分楽しそうに会話をする妹とコータローを見て、赤羽はそれをじっくり観察するように眺めていた。妹も随分興味深々な様子でコータローを見ている。やはり先程あんな話をしたからか、余計どんな人なのか気になっているらしい。けれどとても楽しそうで、気に入っているには違いはなさそうだ。すると変だが兄として赤羽はちょっと寂しくもなる。 「ねえねえ、学校でのお兄ちゃんってどんな感じなの?」 「うーん、まあ一言で言えば変人だな!」 「あははははっ、おかしーー」 「随分な言われようだな、俺から見ればお前の方がずっとおかしいよ」 「なんだとー!俺は極普通の生徒だぜ!お前と違ってな!!」 「フー、自意識過剰だな」 「言わせておけば〜〜〜っっっ!!!このシスコン!!」 そしてついつい妹の前で二人は日常で交し合うような噛み合わない会話を始めて、コータローが怒り狂っている。赤羽も呆れた様子で何となくムキになっているのが分かる。それを思わず黙って眺めてしまった妹は、その二人の色んな意味での激しさに口を挟むことは出来なかった。何となく二人だけの世界を見たような気がした。日々、こんなコミュニケーションの取り方をしているんだ…と圧倒されるけど何だか一生懸命なコータローとちょっと子供っぽく相手をする兄を見てむしろその光景は微笑ましかった。 ―お兄ちゃん、すごく楽しそう!良かったーこんな人が近くにいてくれて― けれどあまり長時間放っておくとどこまでもエスカレートしてしまうので、コータローがペペペッとツバを吐きかける前に止めるのが一番いいタイミングだろう。そんな仕組みを妹は勿論知らなかったけれど、何となく肌で感じて唐突に違う話題などを振ってみる。 「あ、ああ〜〜そういえばお兄ちゃん、冷蔵庫がほとんど空っぽだったよ?ちゃんと食べてる?台所の戸棚にはいーっぱいインスタント食品が蓄えられてたし」 「ん?ああ…ちゃんと食べてるよ、心配しないでくれ」 「嘘つけ!なんか夢中になったらすぐ飯抜くくせによ!!この前も夜中突然思い出したようにカップラーメン食ってたろ!匂いで分かんだよ!!」 そんな鋭いコータローの指摘に少し困った表情の赤羽、珍しくコータローが一歩リードしている。けれどその指摘は少し危うさも含んでいた。 2へ続く。 |