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*罰ゲーム旅行* ガタンガタン、ゴトンゴトン… とある首都圏を離れてのどかな田舎へと向かっていく電車の中で、コータローは普段よりも少々大きめの荷物を抱えながら浮かない表情を…というより思いっきり不機嫌さを前面に押し出していた。端から見たらどう見ても今から遠出するような荷物を抱えているのに、コータローはちっとも楽しそうではなかった。 それもそのはず、今コータローの隣には決してお世辞にも好きとは言えない、ある男の姿があったからだ。一体何故こんな奴と遠出しなければいけないのか、もう腸が煮えくり返りそうになるが、コータローは少し考える素振りを見せてそれからガックリと肩を落とす。 ―クソックソッ、こんなはずじゃなったのによ!!― ちっとも現実を受け入れようとはせず、後悔ばかりだった。もう割り切って諦めて少しはこの状況を、この旅を楽しもうと方向転換させればまた違った面白さや醍醐味みたいなものが見えてくるだろうに。けれどコータローは当日になっても納得のいっていない様子だった。まあ明らかに人選ミスにも思えるが、実はコータローだって好きで嫌な相手と旅行になど向かってる訳ではないのだ。 では一体コータローの身に何が起きたのか、少し時間を遡ってみよう。 10日前― 部の買出しで近所の商店街までやってきたジュリと荷物持ちの為選出されたコータローは二人で、溜めまくっていた備品諸々の補充など様々な買い物に追われて、結果大量に買い物をすることになったのだ。すると何やらくじ引き券のようなもの手渡され、ちょうど今商店街で福引を行っているらしく、券一枚につき一度カラカラを回せるのだ。 なら早速と帰り際、数枚の券を手に持ち福引所へ向かった。まあこんなのは今まで二人とも当たった例はなくて、まあ気軽にガラガラと回して白玉ばかりを量産していたのだが最後の一枚…なんと二人に奇跡が起こる。 「ポケットティッシュばっかり大量に貰っちゃったよね、せめて最後くらい4等くらいは当ててよ」 「クッソ〜〜、白玉しか出ねぇぞ…本当に色のついた玉入ってんのかよ、よっし最後は気合入れていくぜ!」 もう半分諦めかけていたような、まだ運に縋り付くような、二人は微妙な心境で最後のカラカラを見守った。まあ白以外出てくれればもう文句は言わない。 カラカラ〜〜〜〜、コロン。 そして注目の玉の色、余り期待の色すらなかった二人の目だったが、目の前の光り輝く玉の色に思わず瞳を奪われていた。ビックリするほどの眩しさに呆然と口を開けて驚く二人、するとその時大きな鐘が鳴らされた。 カランカランカラ〜〜ン!!! 「おっおめでとうーーー!!!特等だよ特等!!!!」 『ええっっ!!嘘っっ!!!!』 思わず声を揃えて身を乗り出す二人、こんな人生で初めてのめでたい出来事に手を合わせて喜び合った。 「うお〜〜〜スマートだぜ!!!」 「すごいすごーい!!特等だよ?特等!!えっでで、特等って何!?」 「ハワイ旅行かっ!?」 「さすがにそんないいものじゃないけど、○○県の某一流宿温泉一泊旅行だよ!良かったな兄ちゃん!!!」 「マジかよっっ!!なんか急に運が向いてきたぜーっ!」 「へ〜っ、いいじゃない凄く!!私もこんなの当ててタダで旅行とか行ってみたいなあー」 まあ部費で得た福引チャンスとはいえ、やはり引いたのはコータローなので旅行の権利はコータローにある前提でジュリも話をする。ザワザワと周りが賑やかになる中で、二人は手にいっぱいの荷物のことをふと思い出して、ああいけない…と急いで学校へ戻るため商店街を後にした。 超上機嫌になったコータローは鼻高々の様子で、普段にはないオーラなようなものを漂わせていた。しかも色は金色だ。 「あーまだ夢みたいだぜ…本当に特等が当たったんだよな??偽物じゃねぇよな?」 「本物よ本物!でも本当夢みたいだね、いいなー羨ましい」 「ん?なんだよ?お前旅行に行きたいのか?」 「え?そりゃあタダなんだし!えっ何々!?ひょっとして譲ってくれるの??」 「バカ言え!!…………まあ…一緒になら行ってやってもいいぜ?」 そして余計なことを言ったコータローは手厳しい制裁を喰らう。ジュリの持っていた荷物も全て担がされる羽目となってしまった。 「おっ重い、重いって!!なんだよ!ちょっと言ってみただけだろうが!いい解決策だと思ってだな…」 コータローも行きたい、ジュリも行きたがる、しかもゲットしたのはペアでの温泉旅行招待、まあコータローの単純脳と歳相応のエロ脳が導き出した当然たる結果だ。まあ反感を買わない訳がないのだが… 「はいはい、一生言ってなさい、……でもコータロー実際それどうするの?お父さんとお母さんにプレゼントしちゃう?」 「はあ!?折角俺がスマートに引き当てたのに何で親に譲らなきゃなんねーんだよっ、当然自分で使うぜ」 「じゃあ誰と行くの?温泉旅行になんか…しかもペア」 「………」 そしてここで改めて問われて、確かに誰とこの幸せを分かち合うのか…思い当たる人物はいなかった。下手したら本当に親に譲るかまたは彼氏持ちの姉に奪われる危険性もある、姉の手に渡ることだけは死んでも意地でも避けたかった。ラブラブ旅行になんか行かせてたまるか!と反抗心剥き出しで。 「う〜〜〜ん…………………、誰も思い浮かばねぇ…」 「ほらやっぱり使い道に困ると思った、もうこの際プレゼントしちゃったら?」 そして行き場のなくしそうな温泉旅行招待券…折角の特等なのにそれをあっさり手放すには非常に惜しいとコータローはまだ権利を譲ることは考えていない。どうにか有効活用できないか…だがそう考えれば考えるほど一緒に行ってくれるいい人もいなければ幼馴染にも軽く話を流されて、何だか絶望的であった。 そんな盛大に悩んでいる間にも二人は学校へ着いて荷物の整理の為に部室へと向かう。 「………つーかマジで一緒に行ってくれる気はないか!?滅多にないタダ旅行だぞ〜?このまま黙ってたら誰にも気付かれないって!」 「だから行かないってば、一緒になんか行ける訳ないじゃない…嫌よ、大体バレないって言うけど絶対バレるから」 今度はハッキリと嫌とまで告げられて、もう頼る先も逃げ道もなくなったコータロー。このままみすみす逃してしまうのか…途端勿体無いお化けに取り憑かれそうになる。 「このヤロー!冷たい奴だなっっ、ノリ悪いぞジュリ!!」 「悪くて結構、じゃあそこまで言うんだったらノリが似てる人とでも行ったらいいじゃない、あっ部室入りまーす」 コンコンとノックだけをしてそのまま何も気にせずジュリは部室のドアを開ける、すると中にはちょうどジュリがコータローに対して皮肉ったタイムリーな人物の姿があった。 「ゲ……、あー重かった、さっさと練習に戻るぞー」 「ほらほらコータロー、目の前にいる人」 「あぁ!?……っ、そういや前にもンなこと言ってやがったな、どこが似てんだよ!!」 もうさっさと居心地の悪い空間はおさらばだとコータローは足早に部室を去る、そしてしつこくその話題を続けるジュリ。 「それが意外と似てるってば、例えば気合の入れ方とか、意気込んでる時とか、手法は違うけどノリは一緒なのよアンタたち」 「似てねーーーー!!!!俺はあんなナルシストじゃねぇ!!!」 「うん、安心して。人の事言えないからコータローも」 まあナルシストと聞くと自分にうっとりな映像を思い描きがちだが、要するにカッコつけなのだ、赤羽は極天然に…普通にそれを堂々とやってのけれるしコータローも天然含みのちょっと自惚れ傾向が強い感じで赤羽と向く方向が違う。 まあ様になるからいいのだが、コータローは少々嫌味くさい。どっちにしろ高校生らしく堂々としてて、いっそ清しいものだが。 「だから赤羽となら案外上手くやっていけるんじゃない?誘ってみたら?」 「アホ言え〜〜〜!!!誰が誘うか行くか!大体なあ〜男同士で行ったらキモいだけだろ!しかも二人!有り得ねえよ!さすがのアイツだって御免だって言うと思うぜ俺は」 「そうかな?」 「そりゃそうだろ!ああ…むしろアレがいいなんて言いやがったらむしろ俺は行ってやってもいいぜっ」 「へえ〜、ねえねえ赤羽ー」 そしてガチャッとドアを開けてジュリは早速楽しそうに赤羽に投げ掛けてみる。 「コータローがさっき福引でペア温泉旅行なんて当てちゃったんだけど、それを是非赤羽と行きたいんだって!」 「言ってねーーーっっっ一言もそんなこと!!!!おいコラ!!!」 誰が是非行きたいだ!と怒りを露にする。そんな不名誉なこと、言うわけがないとジュリに睨みを利かせながら。男同士でキモい!と反論する。けれどジュリの言葉を聞いた赤羽の返答は実に期待を裏切らないものだったのだ。 「……温泉ペア旅行?ああ別に構わないが?」 「ほーら、きたきた!!やったじゃないコータロー!おめでとう〜!!」 明らかにこう返されることを予測していたジュリの作戦勝ちだった。さっきのコータローの言葉を決して忘れちゃいない。赤羽がいいと言ったら行くとはっきり口にしたのだ。まあその時から罠にはめられていたようなものだが。 けれど当然コータローは憤慨する。 「きたきたじゃねぇ〜〜〜!!!全然嬉しくない!!!て言うかお前もなにあっさりとOKしてやがんだよ!!いけるかっっ男同士でしかもお前と温泉旅行なんかよ!!」 もう当然の主張を繰り返すが赤羽は普通にこう答えた。 「温泉は好きだ」 「つまり相手は誰でもいいって事かよっふざけんなああああ!!!」 うわーん!!と思わず大泣きしてしまいそうなコータローだったが、隣にいるジュリも見逃してくれそうになく、ポンと肩を叩いて微笑みながらこうコータロに告げる。 「男に二言はないよね?いってらっしゃい!!赤羽と!!」 「嫌だ嫌だ嫌だ〜〜〜!!!行きたくない行きたくない!!」 「楽しみだな…日はいつなんだ」 「最悪だあぁあぁあ〜〜〜〜!!!!」 「ちゃんと行ってきたっていう証拠写真撮ってきてね?当日は駅まで見送りに行くから!」 こうして福引で当てた特等は、壮大な罰ゲームとして使用される事となった。 そして電車の中に戻る。当然コータローの隣には無表情の赤羽の姿、先程から一度たりとも会話を交わしていない。朝からジュリも逃がすまいと部屋に閉じ篭るコータローを引っ張り出して駅で待ち合わせした赤羽にその男を突き出した。相当暴れたが、自分で言ったことくらい男らしく責任取れ、とまで言われてしまってはもう何も言い返せない。 口は災いの元、もう二度とこんなアホな賭けには乗らないとコータローは誓う。今回は確かに自分が言ったことだし、とりあえず我慢して一泊二日耐えることにした。 けれど赤羽とずっと二人っきり…周りに人はいれどもこんな気まずい空間はない。しかも赤羽はやっぱりマイギター持参、ただでさえ目立つのに…ギターのおかげで見知らぬ人の視線が自然と男二人組みに注がれている。まだ赤羽の部屋の中で二人きりの方がコータローとしては慣れている、こんな二人で外出など初めてのことだった。 ―あ〜〜今から憂鬱だ、マジで何話しゃーいいんだよ…、こんな黙り込んでたらまるでお忍び旅行みたいじゃねぇか!!― もちろん今回の旅行に関しては親にも伝わっているし、許可もある。全部ご丁寧にジュリが話していた。 ―旅館でも二人きりか…気まずすぎる― でもまだ外にいる分は周りにも人がいるから恥ずかしいけど気も紛れるだろう、けれど旅館の部屋の中なら完全に外界から隔離されたような気分に陥って更に辛さ倍増だ。シーン…と静かな中豪勢な部屋で過ごさなければならない。辛うじて話せる内容はアメフト絡みか盤戸のことくらいだ。それか後は…ちょっと身体同士でコミュニケーションを取ることもある。 ―…………でもなんか温泉旅館とかでそんなことしたら何だかノリノリみたいで嫌だな、狙ってたみたいでも嫌だしよ……すごく期待してるみたいな…、よし!エッチは絶対しない!決めたぜ!!― 赤羽とわくわく旅行なんてまっぴらゴメンだと、むしろコータローも温泉を目当てに今からいくと考えれば同行する男の存在など気にならなくなるかもしれない。あくまでも自分が当てた温泉旅行を消化する為に…楽しむ為に向かっているのだ。 ―お、何だかちょっと気分が晴れてきたぜ!そうだ!温泉だ!横にいる奴は所詮オマケ!俺なりに楽しむぜ!!― 悟りを開いたのか、一気に上機嫌になったコータローは電車の中なのに鼻歌を歌いながら手はガッツポーズを見せている。それを隣から見た赤羽は、随分楽しそうで気合も入っているな…と変に勘違いするのであった。 結局電車の中で二人は一言も会話を交わすことはなかった。怪しい二人組みだ。 そして長い間揺られていた電車から降りて、ようやく目的地の駅に辿り着く。けれどここからも決して近い訳ではない。 「ここからはどういった道のりだ?」 「俺が知るかよ」 会話終了、というより下調べなどしているはずのないコータローに聞くのがそもそも間違いなのだ。仕方なく赤羽はコータローから案内を受け取って次の行動へと移す。どうやら次はバスに揺られるらしい。送迎バスもあることはあるが、事前に連絡しておかないと当然だが迎えは来ない。ここで待つより自ら動いた方が早く旅館に着くと判断した赤羽はテキパキと動く。色々めんどくさそうなコータローは無言で少し赤羽から身体を離したまま後をついていく。 バスが到着して無事に乗れた二人だけど、そこでもやっぱり別々に座った。空いているし窮屈な思いをしてわざわざ狭い二人席に腰掛けることもない。スポーツマンだし二人ともそこそこ身体は大きい。 赤羽はバスの中で案内に軽く目を通す。そういえば何もコータローから旅行に関したことは告げられていない。今初めて知る情報ばかりだった。元々案内を持っていたコータローも全く目を通していなかったようだが。 「……なるほど」 「ふん!そんなんまで細かくチェックしてんじゃねぇよ、適当でいいんだよ適当で」 「だがやはり先に資料には目を通しておくべきだ」 「あっそうかよ」 又すれ違う二人だが、旅は順調に進んでいる。 赤羽もバスの中ではさすがに熟読はし辛いのか、もう案内の紙をたたむ。 そしてやっと目的地の旅館まで二人は辿り着いた。けれどコータローの感動は薄い。赤羽は表情が変わらないのでパッと見では喜怒哀楽は判断できない。ようするにクールなご到着だった。 中に入ると着物を召した女性に歓迎を受けて、コータローはちょっぴり嬉しそうだ。受付は赤羽が済ませて、荷物を運んでもらい部屋まで案内される。館内もとても綺麗でまだ新しい建物だと思われる。 部屋まで辿り着くと和室の部屋に若女将と二人は足を踏み入れる。そしてお茶と茶菓子が振舞われて二人は旅の疲れを取る。けれど目の前に赤羽が座っているのを見るたびにコータローはテンションが下がる。思わず、はあ…と溜め息を零してしまうくらい。 「随分とお疲れのようですね、お二人はどのようなご関係ですか?」 「えええええ〜〜〜〜!!!!いや別にそんな俺らは別にただのっっ!!」 そんなただの質問に深読みしてしまったコータローがみっともなく取り乱してしまい、それではまるで二人は随分親しい関係だと告げているようなものだった。目を大きくして驚いている若女将もそんなコータローの様子ににっこり笑みを浮かべている。今度は赤羽が溜め息をつきたくなったがここは落ち着いて冷静に答える。 「同じ高校の同級生です、今日は彼から誘いを受けました」 そしてフォローしたつもりが何だか更に誤解されてしまいそうな返答でコータローはだらだら冷や汗をかく。真顔でとんでもないことを言い出さないうちに話を切った方がいいかもしれない。 「ああ〜〜、俺が福引で当てたんで、今回その…こいつと来たのは罰ゲームみたいなもんです」 「旅館の方に失礼だな」 「いえいえ結構ですよ、仲がいいみたいで羨ましいですわ、どうぞごゆっくりと」 それから簡単に旅館や温泉の説明を受ける、するとここでテンション下がりっぱなしのコータローにとってとんでもない新事実が発覚した。 「当館の露天風呂は時間帯によっては混浴となりますので、どうぞ注意なさってご入浴ください」 「えっっ!?混浴!?」 そして恥ずかしながらもそんなキーワードに高校生らしくコータローは反応を示して、また若女将に微笑まれている。とりあえず今はその喜びをグッと堪えて一通り説明を聞き終えた。そして若女将は一度も笑みを絶やさぬまま退室されて、それからはもうコータローは遠慮なしにのた打ち回る。 「おいっ聞いたかっ!!ここ混浴あるってよ!!神様は俺を見放しちゃいなかった!希望が残されてたぜ!!!っておい!赤羽聞いてんのかよ!」 もう既に室内の探索に乗り出している赤羽にはそんな話題は当然耳にも入っていないし全く興味もなかった。そして室内に何かを探しているような素振りを見せる。 「おい、なにやってんだよ?」 「…………室内に露天風呂はついていないのか」 「はあ〜っ!?そんな豪勢なもん、ついてる訳ねーだろ。特等って言ったって所詮は商店街の福引だぜ?ただで来られるだけありがたいと思えっ!つーか混浴の露天風呂があるのに室内の露天なんか必要ねーだろ、大体俺とお前しかいねぇのによっ!家族風呂みたいなのがあってたまるか!」 「ああ、すまない。今まで室内温泉がない部屋には宿泊したことがなくてな、お前には感謝している」 「それ嫌味か、このヤロー…」 でもこの嬉しくない面子との旅だが、混浴という希望が生まれてコータローは一気に上機嫌だ。混浴の時間帯があるらしいからその時間帯を狙って温泉に行けば万事OKである。赤羽なんかと部屋でよろしくやる必要はない。 「まっいいや!さっさと目当ての温泉にでもつかってくるか!あ〜楽しみだぜっ」 「待て、まずは時間を確認した方がいい」 「まあそれもそうだな、確かここに時間表がと……お!ちょうど混浴の時間帯じゃねぇーか!」 「ならもう少し時間を置いていこう」 「アホかああああ!!!!今すぐ直行だろ普通はここでっっ、まあだったら俺一人で行くからお前は勝手にしろよ、じゃあな」 「フー、君の音楽性を疑うよ」 けれどだからといってこのまま放っておくことも出来なくて、仕方なしに赤羽はいざとなった時のコータローの暴走を食い止める為に自分も同行する。また露天風呂は男性の時間帯に入浴しに行けばいいのだから。 「なんだよ結局お前も来んのかよっ、本当は意外と好きなんだろ」 「彼女の代わりの見張りだ、この旅の間のお前の管理は一切俺に任されている」 「チッ!でもこのことはジュリには内緒にしとけよっ、お前も同罪にされるからな!」 「…フー」 余計ないざこざに巻き込まれかねないと、内緒の件は了承する。だが羽目を外せば容赦なく赤羽自ら鉄槌を下す。そして報告義務はないから何も言うつもりはない。 だがこの時、赤羽は何故か少し緊張していた。それをコータローはすかさず見抜いてくる。 「んん!?おいおいなんか様子が変だぞ、さては緊張してるな?お前」 にやにやと嫌な笑みを浮かべながらコータローはからかうように告げる、すると赤羽もそれを肯定する言葉を告げた。 「ああ……大浴場は生まれて初めてだ」 「いつも貸切風呂か〜〜〜〜!!!!ムカつく〜〜〜!!!それとも室内露天か!ただの自慢話でビックリだぜっっ!!」 とんでもない次元の違いに憤慨し、コータローはもう赤羽など無視してさっさと男湯の暖簾をくぐる。赤羽も少し遅れてそこをくぐるが、人はそんなに多くはない。けれどコータローはやたらと人の視線がこちら側に向けられている気がして何となく気後れした。まさかこの邪な気持ちに気付かれているのかと冷や汗をかくが、どうやら人の視線はコータローでなくてその後ろの赤羽に向けられているらしい。 「ん?」 なんでだ?とコータローも他の人と同じように赤羽を見るが、よくよく考えてみれば物凄く目立つ風貌をしてるので注目を浴びてしまうのはある程度仕方がなかった。その赤い髪に赤い瞳をしていれば自然と視線も集まるだろう、普通なら見かけないものだから。 ―……大浴場に入ったことない、か……、納得だぜ。やっぱ人目のない室内風呂で慣れてやがるからな― 「…ま、あんま気にすんなよ」 こんな見られるとさすがに辛いか…と、そんな赤羽に対して気遣いを見せるコータロー。しかし意外と赤羽はあっさりしている。 「何も気にしていないが?」 「……あーそうかよ、そういやそんな繊細な奴でもなかったよなっ」 けれどどうやらいらぬ気遣いだったようだ。 もうコータローも人の視線も特に気にせず、さっさと服を脱ぎ始める。隣に赤羽はいるが赤羽も何の気兼ねもなく服を脱いでいる。そして二人とも腰にタオルを巻いた状態にまでなって、改めて顔を合わせる…が妙にコータローは気恥ずかしかった。こんな見知らぬ地で相手の裸を見ることには慣れてなかったから。服の上からでは分からない鍛えられた身体はバランスがとても良くて、そしてどこか男の色気のような物を感じさせる。それは残念ながら自分にはないとコータローも思っている。 「何だ?」 「なんでもねーよ!クソッ、結構鍛えてやがる!」 「お前ももう少し筋力アップを図ったほうがいいかもしれないな」 「うるさい!!人の身体に口出しすんな!!」 どうせ鍛えたところで赤羽のような身体にはなれないのは分かっている、これはきっと赤羽だからこそ感じる一つの魅力のような物なんだろう。何となく悔しい。知っているようで知らない相手の身体、意味深に触ったことがあったとしても筋肉とかそんなこと考えてヤってはいない。 ―あーっ!なしなし!!今回の旅行ではいっさい夜の話はなし!― それは自分の中で今回定めたルール、そういうのを考えることすら禁止にしている。 そして大浴場へとやってきた二人はまずは身体を洗って綺麗にしてから、温泉につかる。その心の隅々まで癒されるような心地の良い湯に二人は大きく息を吐く。コータローも空いているからか態度がでかく、大きく両腕を広げて鼻歌なんて口ずさんでいる。赤羽も湯の中で脚を組んで縁にもたれた。ようやく訪れた安息の瞬間、今だけは余計な言い争いもしない。 「あーーいい湯だぜー、たまんねーなこれはよ」 「ああそうだな、生き返るようだ」 だがしばらくそうやってつかっていると、コータローは少々落ち着かない様子で周りをキョロキョロとし始めた。そしてあるドアに注目する。 「どうかしたのか?」 「見ろよ、あそこ。あのドアの向こうが露天風呂だろ?」 「ああそのようだな、しかし今の時間帯は…」 「意気地のない奴はここにいてろよ、俺はちょっとコミュニケーションをはかってくる!」 2へ続く。 |