*週末デート*


運動部に所属する男子中学生というのものは基本的に休みの日は週一で大概日曜日と決まっている。もちろん大会間近となればその休みも消されるわけで、なかなか暇を持て余すということはない。だが今は幸運にも大会間近ではなかった、週末には必ず休みのある穏やかムードがどことなく流れている。まあそれぞれ休日の過ごし方もまばらであり、この機に勉学に励む者や友人または彼女と外出してゆっくり過ごす者もいるし趣味を持つ者は個人でそれを楽しむ者もいる。

「今度の週末どうする?」

練習帰りに山吹中テニス部に所属する東方は、帰路を共にする相手に話しかけた。自分の隣で練習疲れなど表に出さない我がテニス部部長の南は少しだけ眉をひそめて何かを考えている様子だった。きっと週末に予定が入っていたかどうかを思い直しているのだろう。
でも実は彼らは週末に毎回顔を合わせることが多くて、他人が見れば「他に一緒に過ごす相手はいないのか」と指摘されてしまいそうなほどだった。先週も先々週も二人は飽きずに週末デートを続けている。
まあ男同士なので『デート』と呼べるものではないかもしれないが、これもあながち嘘ではなく、彼らは同姓同士にもかかわらず異性に寄せるような想いを互いに秘めあっている。そして既に隠し持っているレベルではなくて、要するに特別なお付き合いを致しているのだ。
いつもの週末デートコースは、まず東方の趣味が優先されて、その次に南の趣味を東方が手伝う。

ちなみに彼らの趣味とは…
東方雅美→ジムに行く
南健太郎→切手収集

ちょっと風変わりな趣味ではあるが毎回それを週末に繰り返しているのだ。あとたまにテニスもする。
ジムで思う存分身体を動かした後南の家に行き部屋に閉じ篭りつつ切手を眺めて整理したり、時には新たな切手を探し求めて旅立つこともある。それと金魚の水槽の水替えや犬の散歩もしたりする、なかなか有意義な過ごし方(もとい派手)であると南は断言する。東方も何の文句もなくそんな可愛い南に付き合っている。決してバカになんてしていない!

「週末か…まあ特に用事もないし、またジム行くのか?」
「おお行く行く!すっかり身体を動かすのが趣味になってるよ」

―毎日練習であれだけ厳しく指導してやってるのにこいつまだ余裕持ってんな…また明日から更にきつ〜く絞ってやるか…―

南は東方のそんなはしゃぎぶりを見て決意を新たにする。しかし体力バカにも程がある。自分もスタミナはある方だと思うが相方のは異常だ。その部分だけは勝てる気がしない。
「ふーん、じゃあ朝10時にいつもの場所な。ま、俺も身体動かすのは嫌いじゃないし、むしろ好きだし」
「ああ、いつもの場所な…ってまだ早いだろ、週末の話だぞ?」
「分かってるよ言われなくても、早くに決めておいても別に損はないだろ」

毎週毎週こんな感じで彼らなりのコミュニケーション取っているのだけど…例え男同士で特別な関係とはいえ甘さが足りないように感じる。それは南が悪いのか東方が悪いのか…多分南。まあ必要以上にべたべたしたって気持ちいいものではない。

「じゃ、まだ明日も明後日もあるけど週末に」
「遅れるなよー南」
「俺は遅れたことなんかねーよ、お前がいつも俺より少し早いだけだろ」
「…そりゃあ、まっ待たせたくないから」
「………(またさり気に恥ずかしいことを)」

ほら…やっぱり南のせい。


そして明日も明後日もあっという間に過ぎて(東方が)お待ちかねの週末。いやいや南も実際は意外と楽しんでるって。
『いつもの場所』なんていう待ち合わせ場所が既にあってしまう二人の週末デートの日。これが部が忙しくなってくるとそう(外で)会えなくなるので楽しむなら今の時期が最適だ。

東方は今日もやっぱり南よりも早く来ていて、待つという行為に喜びすら覚えている。南は性格的にドタキャンなんて絶対にしない人だから…更に理由もなしに遅刻もしないし必ず来てくれるという確証があって、この南を待つ数分間がやたら幸せなのだ。
「おーっす、やっぱ早いなお前…」
すると早速待ち合わせ時間5分前に現れた南は、東方の姿を今回も自分が見つける形となった。
「おはよう南、そりゃあ待つことが習慣みたいになってるから」
その時南は…こいつ悪い奴につかまらなかったらいいけど…と相方を少し心配した。

「それじゃ行くか、時間言ってあるんだろう?」
「ああ言ってある、早く身体が動かしたくてうずうずする」
「だったら今からみっちりマンツーマンでしごいてやってもいいんだぞ?」
「………(何して?)」

当然テニスですが。

まあ気を取り直してジムへ向かった二人。もう東方も南ですらすっかり顔馴染み状態で遠慮なく設備を利用させてもらっている。
「俺ちょっとあっちで軽く走ってこようかな、南は?」
「ああ俺はこっち…」
気合充分な南から滲み出るオーラはやけに神々しくて東方は思わず目を瞑る。手にはしっかりとボクシンググローブが装着されており南の真剣な視線の先には少々色褪せている黒っぽいサンドバッグが吊り下ろされている。もう南はジムに来ると毎回あれに向かって自らの豪快なパンチを繰り出している。

―みっ南の目が怖い!!なんか今日はやる気だっ!―

東方はそろそろと南の側から離れてランニングマシーンに乗りかかる。ここからでも南の姿は十分捉えることができるので、いつも様子を眺めながら走っているのだ。とりあえず速度は遅めに設定して足を走らせる。そして南も始めたみたいで鈍い音が耳に届く。
どこで覚えたかは知らないが綺麗なフォームで右手、そして左手を唸らす。南がスポーツ万能なことは前から知ってはいたが、本当に何をさせてもコツを掴むのも早ければ飲み込みも早い。すぐ様になってしまうのだ。

―今更だけど…凄いな南は…形も綺麗だしスピードもあってパワーもあるし―

ジロジロと南の肉体に怪しい視線を送りながら、ちんたら走っている。自分とは明らかに性質の違う…何をさせても万能な身体は正直羨ましく思う。パワーだけなら間違いなく自分の方が上なんだが、南の場合何と言うか…一撃必殺型なのだ。
「…ん?」
すると東方は突然声を上げる。どうやらあんまり熱烈な視線を浴びせすぎたせいで南がお気付きになられたみたいだ。一瞬手を止めてこちらをギラリと睨んできた。
「こわっ…別に見てたって減らないのに…」
もちろんこれは独り言だ。二人の間には多少の距離もあるので大声で呼ばない限りは聞こえないだろうけど何故か南はずっと不機嫌なままでサンドバッグを揺らしている。

すると突然何かが弾け飛ぶような音が大音量でジム内に響いた。

バァンッッ!!

「うわっ、何だ!?何だ!?」
「すっげー音、どうしたんだ?」
「おーい大変だ、サンドバックが潰れた!!」
「ええ〜〜っっ!?」

―っっっ!!!―

周囲が騒然となる中、ゆったり走っていた東方も驚きのあまり開いた口が塞がらず顎が外れたような状態になってしまった。目の前で起こった惨劇を一瞬も逃さず見ていた者にとって衝撃的過ぎるこの光景は身体の芯から震え上がらせた。

「おいおい大丈夫か南君?もうこのサンドバッグも古いからなあ…」
「あっ大丈夫です…スミマセン、思いっきりやっちゃったら壊れたみたいで…」
「まあ仕方ないね、新しいの出すか…もう壊さないでくれよ〜」
「本当にスミマセン…」

そんな恐ろしい会話は東方にも筒抜けで、嫌な汗がじわりと額に滲んできた。
―ダメだっ俺絶対この先一生南には逆らえない!もしかして浮気なんかしたら殺されるかもしれない!!しないけど…―
南の脅威の破壊力を見せ付けられて、あわあわと慌てふためく…何も悪いことなんてしていないのにこの男は。

すると話の終えた南がずかずかと東方の元にやってくる、未だ軽くランニング中の東方の正面に身体を置いた。
「み…南…」
「お前…人のことジロジロ見るのよせよな、ジーッと見られたらお前だってやりづらいだろう」
南はそう言って、お返しとばかりに自分の視線を一直線に東方へと向けた。片時も相手から目を離さずひたすら追い続けている。だがしかし、その時の東方の感想はと言うと…

―うわっ、すごい南に見つめられてる!なんかドキドキする…―

むしろ喜んでいたり。逆効果。

「ゴメンゴメン、張り切ってる南を見るのが好きなんだ」
「気持ち悪い!!」
「ひどっ…その言い方…」

やたらキレ気味の南に圧倒される東方であったが、微妙に頬を赤らめている南を発見してまた嬉しそうに笑ってしまう。なんだ…照れてるだけか…と結論づけば心にゆとりが生まれて南なんてこれっぽっちも怖くなくなってしまった。もちろんあの破壊力は恐怖だが。

「なに笑ってるんだよ、大体お前こんなちんたら走ってんじゃねーよ、もっとスピード上げろ!ほら!」
余裕な表情の東方を見て癪に障ったのか南は腹いせとばかりにマシーンの速度を一気に上げていく。グングンとスピードが増していって東方は遅れないように大慌てでついていく。今まで気を抜きすぎていたせいか必死になって走る東方の姿はとても愉快なものだった。

「ははっ、ほらほらもっと速く走れよ!」

「鬼ー、この鬼!!ちょちょちょっと本当に速すぎっっ!!」

まさに素敵な週末デート前半であった。

そしてあれよあれよと言う間に時間は過ぎていき、正午前になると彼らはいつも帰り支度を始める。予算の都合で短時間しかいられない学生という身分の辛いところだ。まあそれでも服が身体に張り付いてしまうくらい汗をかいていて、スポーツマンらしくとても清々しい二人だ。 ジムを出る前には必ずシャワールームを利用して汗を流し落とす。

「あー朝からいい汗かいた…こうやってシャワー浴びてる時が一番気持ちいい」
「俺はちょっと疲れたよ、南にいじめられたから」
「人聞きの悪いこと言うな」

ザーと定期的な音が鳴る中で、隣同士でシャワーを浴びている二人。幾ら個人単体で利用できるよう設計されていたとしても声は当然筒抜けで、自分たち以外に利用者がいないことから普通に会話を交わしている。

「これから飯どうする?どこかで食うか?別に俺ん家で食ってもいいけど」
「ああ、何かコンビニで買っていくよ」

午後の予定は南の家に寄って今度は相手の趣味に東方が付き合う番だ。朝から軽く汗を流して昼からは部屋に篭って切手で語り合う…何とも両極端だ。正直、東方は本当に南の趣味に無事ついていけているのかが疑問だ。
まあしかし好きな人の楽しみは自分の楽しみでもあるから、きっとお互いそれなりに幸せなのだろう。

「じゃあ俺先に出てるぞ南」
東方がそう声を掛け、自分一人だけ先にシャワールームを後にする。濡れた髪や身体を丁寧に備え付けのバスタオルで拭いて、下の衣服を身にまとう。上半身は裸のままでタオルを肩にかけ置いてある椅子に腰掛けた。ふう…と心休まる瞬間である、うっかりコーヒー牛乳でも飲みたくなってしまった。すると寛いでいる途中に南もシャワールームから出てきて、髪をわさわさと豪快に拭き始めた。
「あー気持ち良かった」
そんな感想を漏らしつつ、既に椅子でまったりしている男を発見して南は自然と東方に視線を向けた。そして衝撃的なものを目にする。

―っっ!!なっ…なんだアレッッ!!ー

目を丸くして仰天した南は東方の剥き出しとされている腹部から目が離せなくなってしまった。
ふと目に飛び込んできた、その逞しく割れた腹は南の動作を完全に奪っていた。

―め…めちゃくちゃ腹割れてる〜〜っっ!!…いいいつの間に!―

南の記憶の中で、東方の腹がこんな激しい割れ方は確かしていなかったはずだ。とは言っても、ここ最近奴の腹をジーッと真剣に眺めた記憶もないので、むしろ南は東方の異常なまでの身体の鍛えようを今の今まである意味不気味に感じ取っていた。
一体どうしたらそんな腹が出来上がってしまうのか…不思議でしょうがない。
もう喉のすぐそこまで「おかしいだろ、その腹!」と言い出ししそうになったが、そこはさすがに本人の自由なので南は必死で叫びたい衝動を抑える。そして見ぬ振りをした。

「さっさあ俺もさっさと着替えよっ、は、腹も減ったし」

だが誤魔化したつもりでも南はうっかり『腹』という単語を口に出してしまって、一人で慌てふためいている。相当動揺しているようだ。

東方は南のあの拳から繰り出される破壊力が怖くて、南は東方の異常に鍛えられた肉体(割れてる腹)が恐ろしくてしょうがいない…人にはそれぞれ長所というものがあるけど、微妙に二人とも化け物じみている。いやいや化け物地味ているのだ。

「ところで東方…」
「ん?なんだ?」

「人の着替えをジロジロ見るのはやめろ〜〜〜!!!」

―バレたか…―

南からの鋭い指摘を受けて、東方は仕方なく視線を殺風景な空間に泳がせた。
しかしジロジロ見るの好きだね…東方の趣味に南観察も是非付け加えてほしい。


そしてようやくジムを出た二人は、途中でコンビニによってから南家へと向かうのだけど何故か二人とも妙な空気を背負っていて口数が少ない。先程までいたジムでの出来事が二人をそうさせるのか、どことなく気まずいような雰囲気が漂っている。
だが折角の休日を一緒に過ごしているのだから(毎週一緒だけれども)楽しまなくては損だ。まさかずっと黙っている訳にはいかない…それは東方も南もよく分かっている。

「あ〜…今日は切手探索の旅に出るのか?」
「あっいや、今日は家で整理でもしながらゆっくりしようかな〜って…」
「ああ、そっか…」

会話終了。
なんてことだ!一生懸命会話しようと思ったらこんな情けない結果に!
まあ会話なんてものは変に張り切ってするものではない、自然と生まれるものですから。

朝からは絶好調だったくせに今は調子を狂わされたような顔をして二人はコンビニ弁当をぶら下げながら道を行く。のんびり歩いていても南の家は遠くなくて気がつけば到着していた。
「ほら、入れよ」
「ああ、どうも」
不自然なほどに余所余所しい。もう慣れ親しんだ家だと言うのに。

南は「ただいまー」と家の中にいるであろう家族に聞こえるよう声を張り上げて叫んでいる。しかし誰からの返事が返ってくる様子もなく、不思議そうに辺りを見渡した南はリビングへ入っていく。するとそこに一枚の書置きが残されていた。それを手に取り目を通した南はハア…と溜め息を吐く。
「また弟連れて飯食いに行ってんのかよ…」

「あれ南、おばさんは?」
「俺を抜いて家族で外出中〜、どうせ自分らだけ美味いもの食ってるんだろー」
「まあまあ俺らは俺らでコンビニランチでも楽しんでようぜ」
そんな虚しくて何の救いもない東方の一言に南は更に溜め息を吐きながらテーブルの上にコンビニランチとやらを広げた。
二人で手を合わせ行儀良く挨拶してから、朝に消耗した分を補充するかのように昼食は多めに摂取している。まあ食べ盛りの子供ですから。

そしてキレイに平らげた後は小休止を取りつつテレビを見て、のんびりと食後ムードを漂わせている。また日当たりもよく心地良い気候が眠りを誘う。
「う…何だか急に眠くなってきた…あーねむ…」
「これから切手とか眺めるんだろう?絶対南寝るぞ、無謀だ」
「あー寝るな…間違いなく、と…とにかく上行こうぜ…」
「はいはい」
東方は上にあがる前に後片付けをと…台所に置いてあったゴミ袋を見つけて手に持ち、テーブルの上のゴミを無造作に放り投げていく。ここは一応南家なのだが本人が少々使い物にならなくなっているので。

「悪い、サンキュー…上あがるぞ」
うとうとしながらも礼だけは忘れない律儀な南。目を擦りながら移動する、途中どこかにぶつからないか東方は少し心配になった。だが真っ直ぐきちんと自分の部屋に向かってくれている。
ドアノブを回しガチャリと音を立てて整理整頓されている自室へと南はゆっくり足を踏み入れた。
「あ〜マジ眠い……朝張り切りすぎたかな…」
「………」
自室と言う自分の領域へ帰ってきた南は、更に心休まるからかここで眠気を一気に放出させる。もうこのままふらふらとベッドにでも倒れ込んでしまいそうな勢いだった。
でも南一人だけなら文句なく寝入ってしまうところだろうけど、一応良く見知った仲とは言え客人を招いている最中なのだから南としても必死に眠らないでおこうと自分と格闘しているらしい。

だがこの時、東方の頭のネジもどこかへと一本振り飛ばされていた訳で…

「南、その眠気覚まし…俺が手伝ってやろうか」

「ん〜〜?別にへい…きっっ!」

突然南の身体が震え上がる。
一体何事かと働かない頭を叩き起こして状況を察してみると、どうやら自分の身体が僅かに宙に浮いているらしい。しかも腰付近に手を回されて東方の力技で持ち上げられているみたいだ。こう見えても南は身長178cm、体重66kなのだが…

「なっなんだ!?なんだ!?」

咄嗟のことで暴れるという手段にも出られなかった南は、宙に浮いたまま移動開始させられベッドまで運ばれる。そして丁寧に身体を横に下ろされた後、パチパチと目を見開いて見下ろしてくる東方を見つめる。
「…ね…寝かせてくれるのか?」
恐る恐る尋ねてみると東方は「ああ…」と淡白に答えた。しかし言葉にはまだ続きがあって…
「俺も一緒にな」

そんな脳天直撃な一言をやる気充分!上着を脱ぎながら投げ掛けて、自身もベッドに身を乗り上げてきた。だが当然南もただ黙っている訳もなく…

「ぎゃっ…ぎゃ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

自分の危機的状況を理解した南はとにかく第一に叫んだ。そして圧し掛かってきた男の身体を押し上げようと慌てて手に力を込めるが後の祭りで、最初に油断をしていた分隙をつかれて大きな身体に捕まってしまった。

「ちょっ!もう完璧に目が覚めたっっ、おかげ様で目が覚めたから!!」

「あっそう?…それは残念だなー、寝ぼけた南も可愛かったのに」

眠気なんて一気に吹き飛んだ南は「もう平気だから!」と相手に言い聞かせながら脱出を試みるが東方に見逃してくれる気がさらさらないので押し倒されたまま会話は続く。
「お前っ…何だ急に!!この色ボケッ」
そう罵倒しながら南はハッと何かに気付き、そっと部屋の壁にかけてあるカレンダーに注目した。すると何かを思い出したのか一気に威勢がなくなっていく。

―あっ!もう前から1ヶ月経ってるじゃねーか!しまった…全然気がつかなかった!!あ〜くそっ、月に一度こいつは突然発情するんだよな!!―

そんな特別な事情を思いだし南は軽く打ちのめされる。

だが東方は至極楽しそうな声で…

「あー…久しぶりに南の身体…、ちょうど食後のデザートも欲しかったところだし…まあ正直シャワールームからやばかったんだけどな」

「俺は食後のデザートかっっっ!!!」

しかもシャワールームからなんて嫌な告白も聞いて、南は怒りに任せて一撃必殺の黄金の右腕を奴の腹に一発強烈なものを喰らわせた。
…がしかし、その瞬間鈍い音が鳴って身体に鋭い痛みが走ったのは何と拳を繰り出した南の方だった。
「イッ、いってぇ…っ!」
「ふふふ、俺の勝ちだな南」
勝ち誇った顔の東方は、するすると南に例の腹を見せて勝利宣下した。
南のパンチ力を上回った鉄壁の防御力を誇る腹筋に、趣味がジム通いの男の密かなプライドを見た。洒落にならないくらい鍛え上げている。そして揺るぎないその自信。

―ううっ、さすがに無駄に腹は割れてねーなーこいつ!!―

捕まったが最後、必殺技右ストレートが効かない今、南の腕力でこの状況を打破することは到底不可能な話だった。だからこの場は仕方なく諦めて、月一恒例の儀式でもあるのだから好きなようにさせてやろうと南は全身の力を抜いた。
すると早速儀式の開始を告げる合図が南の口元に落とされて、南は目を閉じ未だに慣れない行為だけれども相手の求愛に必死で応えようと心も身体も開いていく。

週末デートはまだ中盤に差し掛かったところだが、昼夜を問わず濃密に触れ合って今日一番の山場を迎える。南の眠気も無事晴れて、これが終われば長々と切手語りでもしつつ相手が疲れているところを見計らって、今度は奴の眠りでも誘ってやろうかと密かに目論んだ。もちろん自分を放ったらかして寝こけたりなどしたら南は容赦なく東方の頭上に雷を落とすだろう。
そんな恐ろしいプランを立てて我ながら鬼だと南は思うが、まあせいぜい今は相手に楽しんでもらって存分に酔っていただこう…と柄にもなく甘い声など上げてみた。

―ああ…久し振りだからか、俺…がっつかれてるかなあ…―

今はまだ冷静に頭で別のことでも考えていられるが、もう少ししたらそれも否が応でも出来なくなる。相手の手が伸びる先を細かく気にしながら南は頬を朱に染めていく。恥ずかしい箇所を光の元に晒されて舌で愛撫されて背がピンと張った。

―あっ…くそ…、もうダメだ…―

快楽行為に不慣れな身体はどこまでも流されやすくて南は少し自分を情けなく思った。
でもこれが終わればまた東方は東方に戻って自分も自分に戻れる。
まあどっちが本当の自分かなんて分かりやしないんだけど。

とにかく南は今日の敗北を教訓に新たなる目標を自らに掲げた…ひたすら相手の防御力を上回るパンチ力を身につけようと。男として…これ以上簡単に押し倒されてたまるかと。だが東方も南の意気込みに対し黙って見守っている訳もなく、東方自身も筋力アップを図ってくるものだと思われる。
きっと事態は平行線のままだ。

それでもそんなある意味痛い彼らなりのコミュニケーションが彼らの関係を支えているのだ。

そして来週もまた、二人は週末デートを重ねていく。

一ヵ月後には再び同じ状況を迎えて…


END.



はい、東南いちゃいちゃ話でした!(そっそうか!?)
SSを書くのは4ヶ月ぶりでしたがまた話が無駄に長い感じでスミマセン。
このネタも下手したら1年前くらいから頭にあったのですが、
それを今頃になって必死に引っ張り出してきて形にしてみました。
昨年以上に東方が南に首っ丈です(笑)この素ボケ天然!
でも南もまんざらじゃなくて(笑)更に夫婦色が濃いです。
二人で毎週ジムに通ってたら可愛いなあ…と思います。
そして南の家に寄ってもう一汗かくと(笑)いい迷惑!!
うちの東南でエッチが月一ペースなら断然遅いほうですよ(笑)
今年は暴走を抑えてゆっくりと愛を育ませたい意気込みです。
でもエロ妄想は尽きないので、南も嫌がらない程度に頑張りたいな(笑)
相変わらず後書きのくせに内容にほとんど触れてません…
ここを書くとなると、色々忘れちゃうんです。
とにかく楽しんでもらえましたら、もうそれだけで充分ですのでv
★水瀬央★


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