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*看病(後編)* 「薬ー…だけど、どっかにあるかな?1階かな?」 さすがに来慣れているとは言え、南家の薬の在り処は知らない。すると東方の質問に南は慌てて真後ろにあるデスクを指差した。 「薬…朝に母さんが置いていったやつ…あると思う」 南の言う薬とやらを東方は探す。指先の方向へ視線を辿らせていくと、いとも簡単に薬であろう物体を発見した。東方はそこで安堵して、コップに水を汲んでこようと行き先を変えようとするが、視界に入った物体にどこか疑問を覚えてしばらくその場で立ち止まった。 そして彼はとんでもない物を目にする。 「………南」 「…何だ?薬…なかった?」 「いや…あったんだけど…その…」 「あー…あったならいいじゃんか、早くくれよ…身体ダルい」 もう限界…と呟いた南は、話し疲れた素振りを見せてベッドに蹲る。とにかく熱を下げて一時でも早く楽になりたい。明日は学校にも行くつもりだし、長い間倒れている訳にもいかなかった。 「早く…薬」 もたついてる東方にイラついて南は寄越せと手を伸ばす。今日何度目の差し伸ばしだろう…病人をこれ以上疲れさせないでほしい。 だが、南のそんな考えも東方の一言で覆されることなる。 「あ…実はこの薬さ……『座薬』なんだけど」 「………え?」 南はしばらく考えて『座薬』といった物がどんな物か記憶を辿って思い出す。そして相手が渋っていた理由を今ようやく理解した。座薬なんて投薬する場所は一箇所しかない。 「な…何でだ?わざわざ…座薬なんか母さん…」 「まあよく効くとは言うしな…とりあえず熱下げるにはこれしかないな…」 そんな東方の言葉に、南は驚いた。今の言葉…どう聞いても座薬を使う意味合いでしか取れなかった。まさかこれぽっちも使う気のなかった南にとって大ピンチであることは確かだ。 「えっ……そんなの、使わないぞ…俺、…や…やだよ…」 幾ら熱で頭がボケたって、そんな過ちは犯さない。 「そんな…折角おばさん用意してくれたのに使わないと悪いだろ?それに早く熱下げないと…」 「かっ母さんなんかどうでもいいよっ…嫌なもんは嫌だ。はあ…はあ…飲み薬…ないの?」 興奮すればするほど体内の温度が上昇していく。本当に勘弁してほしい。どいつもこいつも。 「ないから座薬が置いてあるんじゃない?まあ速効性だって言うしさ、ほら南」 「………待て。ひょっとして…お前が、入れるつもり…か?」 嫌な予感は数々的中させてきたけど、今度ばかりは的中しないでほしかった。まさか本当に座薬を使う…のはまだしも、投薬を東方が担うのか… 「ああ、俺に任せろ」 ―任せられるかあああっっっ!!!冗談じゃない!!!― 南は最後の気力を振り絞って首を横に振り続ける。どんなことがあろうと許せるはずが無かった。我侭だとか意地っ張りとか…好きなだけ罵ってくれて構わないから、座薬の投薬だけは勘弁してほしい。頭も下げるから… 「いっ嫌だ…絶対に嫌だ…はあ、はあ…」 だが身体はどんどんと薬を欲しがり悪化していく…でも南は今から気力で熱を下げる気満々であった。可能不可能は別として。 「何言ってるんだよ…ふらふらのくせに、ちょっと我慢したら楽になれるんだぞ?」 「い…嫌なものは…嫌だ…」 拒否を繰り返す南、このまま東方が引き下がってくれるのを待つ。けれども最後の最後まで頑固なのは南だけではなかった。東方も今まで看病を拒否され続けてきた分、何かしらムキにもなっている。 こんなことならお粥くらい食べさせてもらったらよかった。身体も好きなだけ拭いてもらったらよかった。 「南…熱を下げるにはこれしかないんだ。だから…俺が南に入れるか、南が自分で入れるかのどっちかしかない…」 ―自分で入れる?俺が…こっこいつの目の前で!?― それも大層御免な話であった。とにかく逃げたい…逃げたくてたまらなかった…でも身体は自由が利かない。むしろダルさが増す一方だ。徐々に息も荒げてくる。 「はあ…はあ…、んっ……はあ…」 「ほら…かなり具合悪いんじゃないのか?強がってないで早く楽に慣れよ南」 ―そんな事!簡単に言ってくれるな!!― 相手を信用していない訳じゃないけど…もしも座薬だけで済まなかったら…そう思うと南は凄まじい恐怖を覚える。 確かに身体はもう限界を超えているが、ここで崩れる訳にはいかなかった。頑なに拒否を続ける。でもこの気持ちも分かってほしいと無駄かもしれないがテレパシーも送ってみる。 すると相手の行動に変化が訪れた。 「…分かったよ、南」 どうやら東方に思いは通じたようだ、南はホッと一安心する。 だがそれもつかの間、次の瞬間に気がつけば東方は南が被る布団を捲り上げていた。 「えっっ…なっ!何!?」 「あんまり南が頑固だから…実力行使に出る、ほらっ大人しくしてろ」 まさかの展開に南は慌てて抵抗を試みた。だが只でさえ熱で力が入らないというのに、この馬鹿力男を止められる筈もなかった。 布団の中に潜り込んで来て、南の下の衣服に手を掛けた。 「まっ!待てって!…うっ…はあ…はあっ…よせえ…」 大声を出せば頭に響き、体力も著しく低下した。抵抗なんて…相手にとってはしていないようなものだった。 一気に衣服を剥ぎ取られ、布団の中で小さな攻めぎ合いが続く。南も必死で足を動かして相手を追い出そうとする、しかし東方は諸ともせず南の剥き出しの脚を掴んだ。 「はっ離せっ…何するんだよっ…はあはあ…」 布団の上から相手の頭部を数回叩く、もう体内の熱という熱が沸騰し始めたかのようにとにかく熱い。病人に対して何てことするんだ…と南は絶望感を漂わせた。 「安心しろって南、入れるのは俺慣れてるから」 しかも布団の中でとんでもないことを口にされ、南は思わず奴の顔を蹴った。上手く命中したかどうかは定かでないが。 ―ダ…ダメだ……本当にもう力が入らない…苦しい…― 抵抗をし続けた結果、南はもはや成す術もなく東方の好きなようにとされていた。もうこうなったら相手を信じて座薬の投薬を待つしかない。とても不本意だが。 「南…もう諦めた?最初からそうやって静かにしてろよな……よっと…」 いつもみたいに南の脚を左右に開かせて、場所確認のために指先を奥へ忍ばせる。すると距離感が微妙だったのにも関わらず、指先は座薬投入口に軽く触れた。 「わっ!…なっ何やって……」 「あ…ゴメン、一応場所確認…でも座薬の入れ方ってこれであってるのか?」 ―知るかっっ!!― 南は心で叫ぶも必死に痴態を耐える。とにかく入れるならさっさと入れてほしい。そして早く解放してほしい… そんな願いを込める南であったが東方はというと… ―座薬ってこのまま入れていいのかな?一応…ぬ濡らした方がいいのか?あの時みたいに…― こっちも未知の体験で四苦八苦していた。視界不良の中何とか南のために働きたい東方、病人の布団に潜って脚を開かせて自分の身体を寄せて…全く変態みたいだと今更だが呆れかえる。 とにかく何もかもが分からないなら、安全策をとるべきだ…そう判断し東方は自分の人差し指を唾液で濡らして再び奥へ宛がった。またもや南の身体が大きく跳ねるけれど、構わず指を先へ進めてた。 ―南の体内…すっごい熱い…― 冷静にそんな事を分析している時、南は羞恥に苦しんでいた。 ―えっ今のは座薬?えっっ…指だけ?…いつもの感じと一緒なんだけど!どうなってるんだ!― 「ちょっ…なっ何やって!…早く座薬っ…入れろよっ」 耐え切れず忠告して、今度こそ薬を待つ。東方も早々に指を引き抜いて座薬の袋を取り外した。自分の指の体温で溶けてしまわぬ内に薬を投入した。 「うっ……うう…」 体内に異物を感じ、南が嫌悪感からかくぐもった声が零れる。これは薬なんだと頭で理解はしても、卑猥な行為を強要されているみたいで気が気でならない。ツルンと勝手に体内へと侵入してくる。 東方もただ必死で失敗しないように、慎重に指の頭で薬を奥まで滑り込ませて無事に中まで入ったことを確認すると指を引き戻した。微妙に締め付けてきた内壁の感触が少々頭を抜けない。でも看病第一なので。 「お…終わったよな…?」 体内に薬が残っているのを体感している南は、これでようやく全てのことが終わったんだと大きく息を吐き出した。力の篭った体内は解除され、平穏が戻ろうとしていた。 その瞬間ガサゴソと布団が怪しく動いたけれども、今の南に何かを察知できるほどの洞察力は備わっていなかった。 安心する南の胸の上から突然ガバッと布団が開かれて、そこから東方が顔を出し一言。 「うん、終わったよ」 爽やかな返答ではあったが、突然布団の中からの登場に南は驚きを隠せず思わず東方をグーで殴っていた。 「わ〜っ!突然そんなとこから出てくるなっ!」 ボグッと鈍い音が鳴り、東方は一発KOで沈んだ。別に下心があって真上に現れたわけでもなかったのだが。 とにかく布団から追い出されてた東方は、新たなタオルを水で絞って今度こそ南の額にそれを乗せる。冷やされて気持ちいいのか、南はそっと瞼を閉じた。きっとそのまま眠りにつくのだろう。 しばらく東方は南の様子を伺っていたが、特に悪い変化もなく、薬が効いているのか穏やかな表情で南は眠っていた。そんな南を見届けて東方は静かに立ち上がりこの場を去ろうとした。 最後にまた南の寝顔を覗き、ベッドに手をつき腰を屈んで、軽く押し当てるように唇を合わせた。勿論それくらいの接触で安息を得てる南の眠りは覚めやしなかったが。 それから東方は何となく逃げるように部屋を去り、南の家を出た。明日は元気で派手な南の姿が見れますようにと願って。まあ今日でもある意味元気な姿は見れたけれども。 もう南のいない学校に戻る気も起こらない東方は、そのまま自宅へとどこか上機嫌な顔で帰宅するであった。 ちなみにその頃山吹中では… 部長は欠席、その相棒早退(と言う名のサボリ)、エースは管理者がいないことをいいことに他校へ偵察(と言う名の女の子ウォッチング)どうも残りの締まりのないメンバーで練習をこなしていたらしい。 しかも仕切りは二年生の室町君がやっていたそうな…頼りになりますね、彼。 やっぱり(地味でも)南がいてくれないと! 山吹中テニス部は始まらない。 END. |