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―千石からの贈り物2― どうやら覚悟を決める時がきたらしい。 ふと東方は部室のドアに視線を向けた。静かにそこに佇んで辛うじて外部から遮断してくれている一枚のバリア。しかしそれはロックされていない力弱き門。人の手によって開けられてしまえば、この世の終わりだ。 悪い方向へと、どうしても考えてしまう東方。マイナスな事ばかりを頭に思い浮かべて、身体が竦む。 でも無駄に時間を今の状態のまま費やす訳にもいかないのだ。 南が苦しんでいる。 怯える心に自ら喝を入れて、意識を朦朧とさせ震え上がる南の、涙を滲ませた目尻に唇を落とす。するとまた過剰な反応を見せた。 「うっ……ああ…」 「ちょっと…ゴメンな?南」 一言だけ謝罪の言葉を述べると、身体を覆い隠している下のジャージを引き下げて現れた肉の塊の割れ目に濡れた指を潜り込ませた。 「いっっ、ううっ……あ」 閉ざされた内部へと繋がる道筋に、男らしい骨格の太い東方の人差し指がゆっくりと飲み込まれていく。指から伝わる内部の体温が燃え上がるように熱い。 指一本を丸々含ませ終えると、南が物欲しそうに無意識だろうけど力を込めて伸縮させてくる。 ならば望みどおり少し乱雑に指を途中まで引き抜き何度も奥へと突き立てた。 「あっ、んん…ふぅっ…、ううっ」 身体を未だ硬直させたまま南は与えられるがまま嬌声を上げる。まるで全身が性感帯に変貌したかのようだ。 「…辛くない?…もう少し…」 既に返事が返せない状態の南に話し掛けても無駄なのだろうけど、横暴な人間とだけは思われたくない東方。あくまでも紳士的な態度で相手の負担を減らす事を第一に考える。 散々蠢いた指を一旦外へ抜いて、今度は中指も同時に中へと戻ってきた。二倍以上に増えた質量に南はくぐもった声を上げるが、嫌がる素振りは見せなかった。 先の行為の準備の為、内壁を擦り指を中で回転させて見たり、念入りに慣らしていく。だらしなく口を開けたまま南は喉を震わす。 身体のどの部分にも、もう力が入らないのかジッとしている。 校内の部室という場所が場所だけに行為は手短に行わないと第三者に発見されてしまっては大変だ。ゆっくりと南を解してあげたいけど、時間がかかりすぎてしまう。それに今日は異常に発情しているせいか、痛みに歪む顔を見せない。 触れば触るほど快楽を得ているようだ。 東方は指を取り除き、自分の前を開けて南の足を掴んだ。そして身体を仰向けに寝転がせて足を広げさせる。途中で引っかかったままのジャージが少々邪魔をして、一瞬東方を戸惑わせた。 ―脱がせた方がいいのかな?…いやいやでも万が一逃げ出す事態になった時に、南が困るかも…あーでもこれから邪魔のような気もするし…さあどうする― こんな時にまで思考タイムに陥ってしまった東方。 少々南が不機嫌な顔で相手を睨みつけている。 とんでもない格好のままで放置される程腹立たしい事はない。 ―いやいや…よく考えたらこのまま入れたら南の背中が痛いんじゃないか?下は布団じゃないんだし…さあどうしようか?― 「そうだ!」 ようやく何か閃いたらしい。止まっていた時間がやっと動き始める。 「南、ちょっと身体起こせるか?」 そう言いいながら腕を南の背中の下に差し入れて、グイッと身体を浮かせる。 「…っ?」 しかし余力のない南は起こされた身体を東方の胸に預けるしかない状態だ。 すると東方がロッカーを背にして腰掛けた、南は意味が分からないまま相手に縋りつく。 「ほら、ここ床が冷たいし痛いだろ?俺の上に乗って」 そんな突然の申し出に、既に自分の意思を放棄したこの身体をどうすればいいのか…南は少し困った表情を見せる。 すると東方が再び自分の身体を起こしてくれて向き合う形となった。ならばそのまま自分が少しだけ足に力を込めて乗りかかればいいのか… だがやはり中途半端に脱がされたジャージが邪魔なような気がする。 戸惑う南に東方は首を横に振った。 「違うよ、俺に背中向けて…ほら」 南の身体を引っくり返して、とりあえず膝の上に座らせる。そして南の後ろから耳元へ低音で囁いた。 「…身体、少しだけ浮かせて?」 途端ゾクリと全身に電流が走り、南は思わず息を荒くした。身体の奥が疼いて仕方がない。言われたとおりに震えながらも身体を浮かせた南に、東方は口元で笑みを浮かべて自身の先端を慎重に入口へ含ませた。 「あ…っ、ああ……あっ」 明らかに指とは違うモノが奥から突き進んでこようとしている。直に触れている感触がやけに生々しく感じて、南は足から一気に力が抜けていくのを感じた。 「あっ……もう…っ」 弱弱しい声を上げて脱力していくその身体に、東方はギクリと身体を強張らせた。 「えっっ、ちょっと南っ?おいっ…あっ!」 「ああっっ!」 一瞬瞼の裏で火花が散ったように東方は感じた。 完全に脱力した南の身体が自分に寄りかかっている。 そして性急と言うより不慮の事故で一気に深く繋がりあってしまった僕ら。あまりの痛さに東方は顔を歪めた。激しく息を乱し、必死で呼吸を整えようと身体を落ち着かせる。 「みっ南…急に……だっ大丈夫か?」 そう言う自分は汗ビッショリで、間違いなく体温が1、2度ほど上昇と思われる。 「あっあっ…、んん…っ」 南は足を折り曲げて、待ち望んでいた衝撃に身体を小刻みに震わす。何度も跳ねるように体内に潜むものへ刺激を与える。 「うっ…南…、ちょっと…急かすなよっ」 なりふり構わず今日は欲しがる南に、今の時点で負けそうになった。 このままでは何もできないまま全てを絞り取られていきそうだ、東方は気を持ち直して南の太腿を掴んだ。両手で柔らかい内側を押し上げて、ようやく自らの腰を使い律動を始めた。 「うあっ、ああっっ……んっ」 何度も深く突き上げられて、南の敏感な身体が宙に舞う。大きく目を見開いていつの間にか真っ暗な天井を夜空だと錯覚させた。 「あ…っ…ああっ」 快感に喘ぐ身体がまるで自分のものでないかのように、言うことを聞かない。南は途切れる事のない快楽の波に飲まれながら、気が遠くなりそうになる。 「どう?……気持ちいい?」 囁かれる声でさえも自分を奮い立たせる。 「…本当に、今日の南は…どうしたんだ?…ん、なんかすっごい締め付けられる…」 その内の熱さにも驚かされる。なけなしの理性が全部吹き飛びそうで本当に気が狂いそうだ。背中を預けてくるその素直さにも愛しさを感じずにはいられない。 ―あ〜なんか……南が凄く好きだな〜…― 身体を動かしながら頭の中で当たり前のことを幸せそうにイメージする。ふと突然そう強く思う時があるのだ。今ははっきり言って余裕など持ち合わせていないけど。 「んっ、ハアッ……ああっ」 一方からの刺激だけでなく、南も自分のいいように腰を揺らし始める。普段では滅多に見られない貴重な映像だ。 放課後の部活終了後に誰もいない薄暗い部室で二人っきり、部員と部長がモラルを忘れて激しく絡み合う。学校内で発する事のない艶やかな声と淫猥な濡れた擬音が静かに響き渡る。 決して誰にも言えない二人だけの秘密。 東方は自分の限界を近くに感じると、南の痛いほど膨れ上がってる性器を再び手で包み込み解放を促す。 「ああっ、んっ…ふうっ、んんっっ」 抑えられてない濡れた声に、寒気が起こるほど芯でゾクゾクと感じながら一気に下から奥へと貫いた。 「あっ…んっ、あ…アアッッ!」 南は全身を大きく震わせて、快楽に弾けとんだ。豪快に欲望を吐き出すと、その後すぐ奥の方にも熱いものが放たれたのが分かった。 「ハアッハアッハアッ…」 二人で息を荒くして、快感の余韻に浸る。繋がりあったままだが、南は全体重を東方に預ける。それを受け止める側も両手を南の身体に回してそっと抱き締める。そして南の右肩に頭部を乗せた。 しばらくの間そうして時間を過ごした… しかしいつまでもこんな状態のままで落ち着いていられる訳もなく…東方はとりあえず直結部分の解除を南に求めた。 「ほっほら…そろそろ、腰上げて…」 「ん……うっ…」 たどたどしい南の動きに、自分も協力しようと腰を掴んで力を込めるが、なかなか思うように南の身体が離れない。 それどころか…… 「みっ南…あんまりっ、そのっ…ちょこちょこ…動っ…」 自分以上に南の力が抜けているのは知っている、だから一気に引き抜かれず、何度も進んでは戻ったり、妙に力まれたり… ―まずい……ちょっと……― 元気を取り戻してきたのかもしれない。 こう見えてもまだ若いから… 東方はこの事態に両手で頭を抱えた。 案外我慢強くない我が身を呪う。 すると前にいる南が微かにこちらを振り向いたような気がした、きっと気づいているんだ。半分呆れ返ってるのかもしれない。 「え〜っとその…これは…」 言い訳を必死で考えて、どう自身を抑制しようかと対策を練る。 だが、次の南の一言で…東方の悩みは全て闇へと葬り去られるのだ。 「…いいよ、…もう一回…しても…」 暗転。 「ハアッハアッハアッッ!!」 そして今、二度目を終えたバカモノ二人。 「ちょっ、もう今度こそ抜くからな!ほらっ…、南っ!」 真っ赤な顔をしながら、今度こそピリオドを打つために、更にグッタリした南にそう呼びかける。 同じ過ちは二度繰り返さないように、南の身体を前に倒し手を床につけさせ腰も立たせて、安心して東方は自ら引き抜いた。すると支えを失った南の身体がふらりとそのまま横へと流れるように倒れこんだ。 「南っ!?大丈夫か!」 慌てて近寄ると…息苦しそうで真っ赤な顔で脂汗をかいている。どうもただ普通の高熱に魘されている状態みたいだ。まあ高熱に普通も異常もないのだけど… 「えっ!?本当に具合悪いっ!?た…大変だ…」 とりあえず上半身だけでも楽な姿勢が取れるように、図体の大きい自分の身体を支えにして、もたれさせようと東方は奮闘する。 しかしそんな忙しい状況に限って、何らかにより意識を別方向へ飛ばされてしまうのだ。 ピリリリリッ、ピリリリリッ この着メロ設定の施されていない…今時珍しい携帯の着信音が鳴り響いている。 部室の入口近くで。 そう、東方がここに入ってすぐ…放り投げたカバンの中から聞こえてくる。 ―え…俺のか?…こんな忙しい時に誰だか知らないけど、出れる訳が…― しかもグループ設定もなし!何年前の携帯だ、いや最新のかもしれないが設定方法を知らないの可能性も…むしろ東方自身がそのような機能を必要としてないのか…こんな微妙なところで彼の謎が深まる。 早く出ろ〜〜としつこく訴え続ける携帯を無視し、目の前の南に集中する。しばらくすると携帯も静かになり、やっと落ち着いて対処もしてやれる。 「ほら、俺にもたれて……って、ん?」 ピリリリリッ、ピリリリリッ なかなか相手側も引かない、きっと意地でも持ち主を捕まえる気だ。暗い部室の中で無機質な音だけがやたらうるさい。気に止めないように必死で音を除外し続けてきた東方であったが、あまりのしつこさにカチンときて、南の身体をゆっくり床に下ろすと怒りを露にした表情で携帯へと向かった。 そしてディスプレイで相手を確認すると… 「ん?千石か…やっぱりそんな気はしてたけど……はい、もしもし?」 ≪あっ、ヤッホー!オレだよオレ、ラッキー千石。何々…そんな不機嫌そうな声出して…あっそだそだ!プレゼントどうだったあ?≫ この場でこの雰囲気で…テンションの高すぎる声を聞かされて、南じゃないけど何故か無性に腹が立った。まあこっちの事情が相手に知れてないのだから、当たり前なんだけど……知られてたらもっと嫌だし。 ―プレゼント?あ〜そういえばそんな事千石言ってたな…すっかり忘れてた、どこだ?― 今の今まで千石の言葉を忘れていた東方。慌てて部室内を見渡し、それらしき物体を探す。しかし思い当たるような物は何一つ見つからなかった。 必死で暗闇の中、目を凝らしているのに。 だから正直に東方はその旨を電話の相手である千石に伝えた。 どこにあったのか…と。 ≪え?なかったっ?そんなはずはないんだけど……ええっ本当にそれらしき物見つからなかった?≫ 何度も「本当になかったのか?」と尋ねられて、その異様な慌てぶりに不信感を抱いた。 「じゃあ、なんだったんだよ…お前が用意してくれた物って」 得体の知れない物を探すより本人に聞いた方が早い。内緒だけどまだ部室にいる訳だし。 「え?あれだよーーー、欲情した南」 ・・・ ・・・・ ・・・・・ バキャッ! 凄まじい破壊音と共に、東方の掌に残った物体は人力で大破された哀れな携帯の姿だった。強制的に終了された千石との悪魔の通話。 この時初めて東方は『人に対する殺意』というものが心の中に芽生えた。 明日、朝のニュースで自分の名前が呼ばれても構わない…とさえ思った。 そして一生分の怒りを体内に封じ込めたまま、東方はこの場の惨劇の後片付けを始めるのであった… 結局…弱った南をジャージ姿のまま、自分の背に乗せて家まで運び… 「あら、東方君?…えっあっ健ちゃんっ!?大丈夫〜っ」 インターホンを鳴らすと仕事から帰ってきていた南の母親が玄関から顔を出した。そして既に顔見知りの息子の同級生を確認し、後ろで死んでいる息子を発見した。大層な慌てぶりだったが、東方は必死で簡潔に事情を保護者に伝える。 「あの……ちょっと南、ヘバったみたいで」 確かに決してウソではないな! トドメは案外二度目だったのかもしれないし。 「あっ俺、南の部屋まで運びます、全然平気ですから」 心配そうな南の母親の横を、申し訳ない気持ちいっぱいになって通り過ぎる。慣れたように靴を脱いで(南のは母親が脱がして)東方は二階に上がり、南の部屋へ到達した。 「ほら、着いたぞー南。もう大丈夫だからな」 だが相変わらず返事はない。完全にショートしてしまっている。 「よいしょっと…」 ゆっくりと南の身体を下ろしベットの上にかけてある布団を捲って、その下へ寝かせた。しばらくして母親が冷やしたタオルを手に持ち、息子の側に駆け寄って額に乗せていた。すると心なしか南の苦渋の表情が柔らかくなったような気がした。 「ごめんなさいね、東方君。わざわざ運んできてもらって。また健からちゃんとお礼言わせるから…」 「ああ〜いや!いいんです!こんなことくらい。それよりも南のことよろしくお願いします…多分この調子じゃ明日の学校は無理だと思うんで…」 胸がチクチク痛む東方。 「そうね…しっかり休ませるわ、でも本当にありがとう。健にこんなしっかりしたお友達がいてくれて私凄く助かるわ」 チクチクチクチク…(無限大)うっかりショック死しそうな東方の内心。 「あっじゃあ…俺これで失礼します」 最後は半ば逃げるように南家から飛び出してしまった。南の母親から感謝の言葉を聞く度に、ちょっと寂しくなってしまう… 「はあ……いつか顔向けすらできなくなるかもしれないな…」 長身の男が思いっきり猫背で、夜道を寂しげに帰る姿はどこか涙を誘うものがある。 ―とにかく明日は千石だ!何があっても千石を問い詰めてやる!!― 復讐に燃える男の決意、しかしこんなに張り切って…明日の復讐方法を寝る間も惜しんで考えに考え込んだ東方君であったが… 次の日…千石も欠席で、見事に逃げられるのであった。 しかも自分の両親には携帯を壊してしまったことに、こっ酷く怒られて…全く誕生日とその翌日は人生において最悪の記念日となった。 だが更に翌日、復活した南がチェーンソーを持って千石を待ち伏せしていた。ニュースに名が載るのは実は南の方だった。 当然冗談ですが… 二人が学校での再開を果たした時、地味’Sらしくない余所余所しいダブルスを部員の前にて披露するのであった。 頑張れ、若ゾー! END. |