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―誕生日の苦悩3― 「まあ…南がそこまで言うならいいけど…」 それでも東方は寂しくて、固く塞がれている南の口元にそっと自分のを重ね合わせた。すると南は少し力を抜いて気を許してくれたのか応じようとこちらに合わせてくれる。 何度も角度を変えて柔らかい唇の感触を味わいながら、舌先で口を開けるように意思を促した。最初は拒否の姿勢を取っていた南だったが相手の粘り強さに折れたのか最後は相手を口内に招きいれた。 愛情を確かめるように舌を絡め合い、相手の首にしがみ付いて南も行為に没頭しているようだ。 ようやく離された時は、互いの間に透明の糸を引き、南は腕を解いてまた目をそむける。 「南…これも余計なこと?」 その東方の質問には答えられなかった。 南の下の衣服に手をかけて、ベルトを解いていく。カチャカチャと音がする度に南は恥ずかしそうに横を向きながらシーツに顔を埋める。手際よく下着とも足から抜き取ると、電気をつけなくてもまだ明るさを保っている南の部屋だから視界は極めて良好だ。頬も一段と紅潮しているのが分かる。 東方は右手で南の性器に触れる、するとビクッと南の背が跳ねた。それから南は一切自分と視線を合わさず、ただ与えられる度にくぐもった声を上げている。 ―……一応南の誕生日だし、サービスしといたほうがいいのかな…― 手を上下に滑らせながら、冷静にとんでもないことを思いついている。きっと南は口に出して決して望まないことを今実行しようと目論んでいた。 東方は胸元辺りに位置していた頭部を密かに降下させて、ある程度膨張した南のそれに躊躇なく舌を這わせた。濡れかかった先端をペロリと舐め上げ南を驚かす。 「えっ!?あっ……ちょっと、なっ何してるんだっ!そ…そんなこと!!」 大変な状況に気付き慌てて頭を引き剥がそうともがくが、東方は微動だにしなかった。 「いいよ。コレされると気持ちいいだろ?大人しくしてろよ」 とんでもない申し出に南は必死で首を振りながら、頭部を離そうと押している手の力を強くする。しかし次第には口に挟まれ生暖かい感触が敏感な部分を包み込むと南の抵抗は必然と弱まる。快楽が強くて全身に力が入らない。抑えているつもりの声も勝手に口から漏れ出し、目に涙が溜まる。 精を無理やり搾り取られるようにされて南は熱くなる身体を止められず震えが走った。しかしまだ吐き出そうとはしない。 ―いつもの強がりだな、仕方がない― もう限界なのに楽になろうとしない南に更なる追い討ちをかける。喉奥まで南のモノを飲み込み舌で裏側に刺激を与える。ボトボトと液を先端から滲ませ、南が泣きそうな声で鳴いている。 「ああっ、ちょ…っ、うっ!んんっっ…」 何も考えられないくらい追い詰められて目を瞑り、今度は何も見えなくなった分感覚が鋭く働いて嫌な音も耳が勝手に拾い上げてしまう。逃げ場を失った南に待ち受けていたものは甘く強烈に痺れる快感だった。 相手の口内だということも忘れて南は果てる。 途端、東方の口に大量の液が放出された。それを全て頂くと言わんばかりに、先端をきつく吸い付けた。そして、じゅる…と捉えた蜜を喉に流し込んだ。 南は息を荒くしながら、快楽の余韻からかまだ小さく喘いでいる。抵抗する力すら失いグッタリとベッドに横たわっていた。東方はそんな南の足を軽く押し開け、自分の指を口内へ含み充分すぎるほど濡らして南の身体の奥へと宛がった。 一本の指でそこを何度も往復し丹念に解していく。やはり今日は南の誕生日だし、痛い思いだけは極力させたくはなかった。なるべく気持ちいい思いをしてもらって今日は休んでもらおう。 そして再びサービス精神旺盛となった東方は、中に潜む快楽を指で擦りつけた。 「あっ!んっ……っ!」 また息を吹き返したように南は内に熱を篭らせる。しつこく攻め立てられも身体は素直にそれを悦ぶ。意識を切り離したくても言うことを聞かない。 ―これが終わったらもう少しだ…もう少し我慢すれば…― 解放される―と南は、身体は嫌がってもいないのに頭の中だけは早期終了を願っていた。それなのに今日ときたら指の挿入時間がやけに長くて、身体的にも精神的にも焦らされる。 ―もういいからさっさと済ませてくれ!長時間まだ明るい中で放置するなっ― やっと二本に増やされて、まだ先程と同じことを繰り返している。 ―もうすぐ…かな、早く早く!― 終わらせてほしいのか、それともただ欲しいのか… ―でもこれで何とか義理は返せるな…あいつも何も高価なもの寄越さなくたって…ん?― お返しのメドも経ったし心に余裕が出来た南だったが、ここで何かに気付く。 その頃体内の指はまだサービス精神旺盛だった。 ―あれ?なんか俺…大事なことを忘れてるような…今日って確か…― 南が地雷を踏む寸前、着々と準備を進める東方の指がとうとう引き抜かれた。そして本番に向けて自分の張り詰めたものを衣服から取り出して数回手で扱く。 全ての準備が整い、いよいよ後は昂ぶった自身を挿入するだけだ。 緊張気味の表情でヘマを起こさないよう慎重に足を更に広げさせて、その奥まった場所に身を寄せる。 まさに密着するほんの手前の出来事だった。 「なあ、今日って何の日だっけ?」 突然静かな声の南に話し掛けられて、思わず身を止める東方。こんなタイミングで一体何を言い出すのか…恐る恐る南と視線を合わせた。 「あ…それは…南の誕生日」 「だよな」 微妙な会話の後、二人の間で僅かながら時間が止まる。そして当然寸止め状態で非情に辛い東方の心情、もう腰を速く進めてしまいたかった。しかしそれも出来ず… むしろ行為再開に不穏な空気すら流れ始める。 「何で…俺の誕生日に、お前にこんなことさせてやってるんだ?…何か、おかしくないか?」 その南の言葉を聞いた瞬間、東方は頭上に5tハンマーが落ちてくる気分を味わった。ゴーーン…と全身が鐘になったような感覚に陥る。つまりショックだったという意味だ。 「いやっ…南それ!始める前にも俺ちゃんと言ったんだけど…でもツベコベ言うなって…」 だが東方もこの状態では今更引き返せない…もう一分一秒でも早く中に入りたくて自身がうずうずしているのだ。生殺し状態だけは勘弁だ。 「でもっ…やっぱりおかしいよな?そうだよな?」 お返しする事ばかりに気を取られていて、相手が望むものが身体なら…とここまでやってきたが土壇場で別にそこまでしなくてもいいのではないかと思いつき、ここにきて天秤が我が身に傾き始めた。やはり自分の誕生日に多少の快楽は伴うとは言え、痛い思いまでしたくはない。 南はようやく目を覚ましたのだ。 しかしここで当然納得の行かないのが東方。別に無理強いをしてこの状態まで辿り着いた訳ではない。一応お互い通じ合えるものがあったから今の自分たちがあるのだ。幾ら途中で過ち(!)に気付いたとはいえ行為中断はありえない。 「そっそうは言うけど、もうここまできたんだから最後まで付き合えよ。ちょ…もう限界っ」 支える手があやしく震え始めて、禁断症状が出てしまう前に東方は欲望のお導きのままに、自身を南の柔らかく解したあの場所へ押し当てた。すると熱いものが触れた瞬間に今度は南が驚きの余り身を引いて、二人は繋がりあえなかった。勿論残念なのは東方…だが、もう残念などという生易しい感情は蒸発して体内には残されてはいない。 理不尽な拒否に対しどんどん怒りが込み上げてきて、目の前の南を睨みつけた。すると相手は一瞬怯んだのか、開いていた足を閉じ膝を折り曲げて、相手の真正面を拒み横の姿勢を取る。 つまり防御体勢に入ったのだ。 やり場のない感情をどこに追いやればいいのか分からない東方は、自分の中だけで事態を完結させようとする南の態度に更に腹を立てた。もう抑えられない欲が危険な方向に暴走を始める。 目の前の心も身体も開かない南に対し下腹部の疼きが止まらない。 気が付けば、南の上辺を向いている腰を痛いほどに掴んでいた。 そして暴言が吐き出される。 「何?そんな格好して…後ろから挿れられたいのか?」 南に逃げる猶予など与えず、無理矢理こちら側に背を向かせて腰のみを力づくで持ち上げた。それはまさに一瞬の事で南には一体何が起こったのか…状況を判断するのにさえ時間がかかってしまった。だがそれを東方が待ってくれることはない。 隙を逃さず入口に再度自身を宛がう。南は血が凍る思いをした。 そして逃れる術もなく無遠慮に硬くて太い…沸騰しそうな熱さの杭を打ち込まれた。身が引き裂かれような痛みに南は拳を強く握り締め、ただ耐える。シーツに額を押し付けた。 「んっ、んんっっ!…うぁっ…」 一呼吸おかれる事もなく内壁を突き進み、あっという間に全てを埋め込まれた。 腰だけを浮かせた状態で深く繋がり合い、しっかりと腰に固定されている両手が逃げることを許さない。その場から一歩も離れられなくて、呻くことしか出来なかった。 すると突然激しく腰を突き動かされて南は冷めかけていた欲を叩き起こされる、身体の内部から中心に熱さが増し意識が朦朧とする。声が止め処なく溢れ、きっと後ろの野蛮な男はさぞ喜んでいるのだろう。 ―今日はっ…何の日だ!誰の誕生日だ!どいつもこいつも俺を何だと思ってるんだ!― 貪られるまま身体を好き勝手食われ、その上乱暴に扱われて…南は別の意味で泣きたくなった。もう既に涙は零れているけれど。 こんなこと悔しいはずなのに受け入れを可能としてしまう慣れたこの身体が憎らしい。また感じてしまう自分も最低だ。後ろ手でまたもや反応を示している性器を握られ、淫らに腰を揺らしてしまう。そしてまた奴を悦ばせるのだ。 ―もう…悲しくなってきた。何も今日こんな仕打ち受けなくったって……もう嫌だ― 快楽に呑まれながら意思を手放してきたけど、もう我慢の限界だった。 南はゆっくり後ろを振り返り、自分の肉体を支配している男と目を合わせた。 その瞬間、相手の動作は一時的に止まる。 「……今日は、俺の誕生日だよな」 余力がないのかボソリと呟かれ、東方は身を固くする。南の一言で最低限の冷静さを取り戻した顔だった。 「え…あ…うん、…おめでとう」 どういう体勢で「おめでとう」を言うんだ、この男は! それは南の心の叫び声。 初めてこの哀れな自分を救ってあげたいと心底思う。 「だったらっ、……もう少し、優しく…してくれよ」 「!」 目も当てれぬ悲惨な状況に、南は自分だけが逃れる事を選ばず、共に納得して時間を過ごすことを選んだ。これにはさすがの野獣と化していた東方も我を取り戻し、静かにそこで反省する。怒りに身を任せる事がどれだけ危険なのか身をもって知った。 「ゴメン…こんな酷いこと、するつもりじゃなかったんだ…ゴメン、本当にゴメン…」 「もっもう分かったから…とにかくそのっ……早く…どうにか…」 熱を帯びたままで、中途半端に終えられたら今度は南が辛くなる。この体勢からは解放されたいけれど、いつものように…やってくれるなら… 「あ…そうだな、じゃあ…」 普段どおりの東方に安心した南は、とりあえず一度解放されるのを信じ力を極力抜いて引き抜かれるのを待った。しかし意外な行動に出た東方は抜くことはせず、そのままの状態で体勢を変え始める。南の足を掴みゆっくりと反転させていく。 「えっ、そ…そのままっ!ちょっちょっと!…んんーっ」 局部の力が弱まった隙になるべく負担をかけないよう気をつけながら、何とか正面で向かい合えた。やっと拝めた南の顔は今の体勢変えのせいか真っ赤に染めあがり、上気するように息遣いが乱れている。 「あれ?…今のひょっとして結構感じた?…かき回されるの、好きだもんな」 「…っ!…う、うるさい!」 南は照れの極地から東方の顔面を掌で押し退ける。一応入ってるんですよ、お前ら。 「えっと……それじゃ、うっ動いてもいい?」 急に消極的になるから南だって調子が狂う、夜は二重人格なのだろうか?と疑問が湧く。でももう断る理由もないので… 「…いいよ」 優しく微笑みかけて、普段滅多に甘えない南が東方の首元に抱きつき、早く身体的にも満たされるのを待った。当然南にこんなことされて嬉しくない訳がない東方は感動しながら律動を開始する。 身体の中心を貫かれて、その激しさ故しがみ付く腕に力を込めた。 「あっ、ああっ…ん…っ!」 「どう南?……気持ちいい?」 その答えを聞く必要はなかった… 互いに絶頂の瞬間を迎え、熱を持て余す身体が共鳴しあう。 やっと本当の意味で深く繋がり合えた彼ら… 最後の最後は何とか幸せな気持ちをそれぞれ分かち合った二人の愛物語であった。 事後。 南は私服に着替え東方は制服を着直して、二人ともベッドの側面に凭れながら穏やかな時間を過ごしている。つまり一時的に爆発的に体力を消耗したので力が入らず、ぼーっとしているのだ。一段と薄暗い空が時間の経過を物語っている。窓を開ければ涼しい風が入り込んできて微かに残る体内の熱を冷ましていく。そしてそこには今日東方から貰ったマイナスイオンが出るとされる例の置き物が飾ってあった。 つまり癒される瞬間真っ只中だ。 親は相変わらず忙しいのか、まだ帰宅しない。 「飯…どっか食いに行くか?服装バラバラだけど」 そして東方のその誘いに曖昧な返事しか南は返せなかった、特にこれから予定を入れてる訳でもないのだが、外出する気力がないというか、もう少しこのまま二人で時間を共有したいというか、南自身にもそのはっきりとした意思は掴めなかった。 「もうすぐ母さん辺り、帰ってくるとは思うんだけどあ…何か色々買い込んで来そうだ」 「そっか…、じゃあそろそろ俺帰るわ。あんまり長居すると悪いし」 「…えっ?」 「…っ、………あっいや、まあ…俺も特に用事はないんだけど…」 予想外の南の反応に東方は立ち上がる事が出来ず、結局再び座り込む。あんなに帰ってほしくなさそうな顔をされたら帰れるはずがない。これはやっぱり…甘えられているんだろうか?そんな南に遭遇した事がないので判断が難しい。 ―もしそうだったとしたら……ヤバイ、嬉し過ぎる…― 勝手に顔がにやけてしまい隣の南が不審な目でこちらを見ている。 「何笑ってるんだ?一人で…」 「うーん…、幸せなこと」 「ああ、そう」 時間を持て余すことは不幸ではないと感じる。 二人で一緒にノンビリしていられるのなら。 素っ気無い会話しか交わせなくても距離が離れる事はない。 互いが離れる事を拒み、今の自分たちが存在する。 波乱万丈な15歳の誕生日を迎えた南であったが、きっと彼は幸せであったのだろう。 隣の男がそう感じさせるから― …しかし余りにも二人が幸せすぎて、千石の企みの事など全て一切記憶が抹消されていた。もうそんなことは正直どうでもいいのだ。互いが互いの事情を知らなければ変に追求する必要性もないし、それに結果として新婚夫婦並みのラブを手に入れた二人なのだから問題なしだ。 今回は斧を持って追い掛け回す事はない。 平和的解決がまるで夢のようだ… でも唯一千石だけが見当違いの静けさに悔しがって寂しがるのだろう。 つまり最後には必ず愛が勝つのだ! 都合良く3人で幸せにはなれない。 END. |