*赤羽VSコータロー*


放課後の練習中での些細な出来事。

今日の盤戸スパイダーズの主な練習メニューはブロックの練習であった。これは主要メンバーを欠いてしまった今の盤戸には必要不可欠な練習であり、リードブロックの魔術師と呼ばれるエースの男・赤羽からその超技術の伝授を部員達がされる日でもあった。

皆、赤羽の周りに集まり、そのミラクルとも言えるテクニックを目の当たりにすると自然と歓声が湧き起こっている。素直に感動しているのだ。ただ一人面白くなさそうな顔をしているコータローを除いて。

「さっ…さすが赤羽さん!痺れます!」
「おお、この技術さえ会得できたら俺達にだってまともに戦えるぞ!」
「皆やろうぜ!」

「ケッ!」

意気投合する部員達の中で必然と浮くコータロー。だが誰もそんなコータローに構う様子はなく、ひたすら真面目に一生懸命に赤羽にブロックの技術を教わっていた。運動部らしい清々しい光景がそこに広がって、ますますコータローは取り残されていく。しかしそんな彼を粛正する者もきちんといて、マネージャーの沢井はコータローの首根っこを強く掴んで真面目に練習に取り組むように叱りつける。

「コータロー!ちゃんと赤羽の説明聞いてた!?」
「いてーな!赤羽の説明だぁ〜?あ〜半分くらいはな」
「もうっ、真面目に聞きなさいよ、あー…話聞くより実践でやった方が身に入るかも、ちょっと赤羽相手してあげなさいよ」
「はぁっ!?俺もやんのかよ!キッカー専門だってのによ」

もう赤羽とコータローとマネージャーと言えば、ひたすら言い争いする的の中心で、赤羽は一人天然まっしぐらであったが、マネージャーがコータローを叱る原因は大概この人絡み。というか大人な対応を見せないコータローに一番問題があるのは誰が見ても一目瞭然ではあるが。

しかしそれでも不思議なことにコータローと赤羽には縁のようなものが存在した。
少々他人同士ではない特殊な関係を彼ら二人は独自に築き上げている。
それを他の部員は知っているのかどうかは定かではないが…

けれど結局対立している図しか見たことがない部員達は、例え本人達にカミングアウトされたところで簡単に信じなどしないのだけど。
けれど確かに二人は心の奥深いところで繋がり合っている、いや…むしろもう………

「分かったよ、やりゃーいいんだろ!?こいつをぶっ飛ばせば問題ねーだろ!」

「……出来るもんならやってみなさいよ、先輩の体格でもあの赤羽を倒すことなんて出来ないんだから」

「よーし、おい!覚悟しやがれ!!」

一体あれほどの自信が身体のどこから湧いてくるのか、マネージャーや部員達は不思議でしょうがない。けれど打倒赤羽がコータローの大きな原動力になっているのも確かだ。張り合う相手がいないと調子が出ないのは何となく理解が出来る。

「ほらコータロー、一応メットつけて…危ないから」
「ああ?しゃーねーなぁ…」

そしてようやく向かい合うコータローと赤羽。
何が気に食わないのかひたすら睨みつけるコータロー、特に何も考えていなさそうなマイペースな赤羽。
しかしこの二人は…コータローの今の態度からは想像もつかないが実は……

「おら行くぞ…、らあぁあぁあ!!

この世の者とは思えない形相でコータローは必死に赤羽を押し始めた。
しかし悲しいかなビクともしない。
殺意まで出したコータローの押しは全くもって相手には通用していない。
それどころか逆に…

「敵がタックルに行くその瞬間―、踏み込むために一瞬だけ重心が後ろに下がる、そこをすかさず押し込めばどんな巨漢が相手でも…」

パァン!!

赤羽が淡々と原理の解説をしながら、何とコータローは吹き飛ばされる見本となってしまった。
呆気なく真後ろに弾かれて、まさに見っとも無い情けない姿を皆の前で晒される。
更に赤羽の…弦の鼓動がどうのこうのなどという発言まで飛び出して、どうやら相手を勢いづかせてしまう結果ともなった。

そしてやられっぱなしじゃ気が済まないのがコータロー。
ギリギリと悔しそうに歯軋りをして、何事もなく澄ました顔をしている赤羽を憎しみの眼差しで眺めている。しかしふとコータローは考えた…、珍しく。

―あれ?何で倒せなかったんだ?―

赤羽を睨むのをやめて、ひたすら同じことを頭で考え続ける。
考えて考えて考えて――――

もう座り込んだまま考え込むコータローのことなどうっかり忘れかけらていた時…奴は真剣な顔つきで立ち上がる。そしてずかずかと再度赤羽の前に立ち塞がった。
一体これから何が起こるのか…と部員達もマネージャーにも手を出せないような空気を二人は醸し出し始めて、コータローは次の瞬間こう言い放つ。

「おかしいじゃねぇか…昨日は倒れたのに今日倒れねぇなんて変だろ!!」

そしてその言葉の意味を大半の者が理解できない中、面と向かって投げ掛けられている赤羽は一瞬ガクッと膝を崩しそうになり明らかに動揺している様子だった。アイシールド付きのメットを被っているから、その表情は他の者には一切悟られていないが、こう汗がじわりと滲み出ているような…そんな雰囲気だった。
しかもコータローは真顔!!!冗談でもなく本気でそんなことを言っている…

「は?昨日…?」
更に周囲でもぼつりと呟かれ始めて、コータローもまだ何か言いたげで、赤羽は咄嗟に自衛本能を働かせる。
またコータローが口を開いた瞬間、ギャーーン!!と飛び切りでかい音を鳴らして、コータローの口が塞がれるまで赤羽はひたすらギターの音を響かせ続けた。勿論、とんでもないこと言っているコータローの言動を他の者に聞き取らせない為。大体口パクでも赤羽には何を言っているのかが筒抜けなのだ。
「わーっ!!赤羽うるさい!!ちょっとギターッッ〜〜!!」

ギャーンギャーンギャーン!!!

まさに放送禁止用語を隠すように激しいギターの音を辺り一帯に轟かせている。

そしてようやくコータローの口の動きが止まるとギターの音も同時に止む。部員やマネージャーはホッと胸を撫で下ろし耳を塞いでいた手を離す。

赤羽はもう動揺した様子など見せずに「フー」と息を吐いて、静かに口を開く。

「練習を……再開しよう」
それだけ伝えると、突然右腕がメキメキと唸り出し逞しくなったその筋肉で覆われた右腕をコータローに目掛けて容赦なくその身体を数十メートル吹き飛ばした。重心のテクニックなど一切使用せず、ただの力技で問答無用に制裁を下した。間違いなく息の根を止めた…これ以上野放しにしておくと何を喚き出すか分からない…、赤羽は冷静に状況判断をしてコータローを致し方なしに消すことに決めた。

「…死んだ?コータロー…」
「死んだかもな…あの威力じゃあな…」
部員達も既に無事を誰一人信じちゃあいない。

けれども、しぶといのが佐々木コータローだ!!!

地獄の淵から舞い戻り、背中には情熱の炎を背負って、まさにフェニックスの如く蘇って来た。

しかし赤羽の眼力は未だ健在で、いらぬ事を言わぬよう牽制を仕掛けている。
だが相手はそんな利口なタイプではなくて、ひたすら本能のままに思ったことをすぐ口にする直情型タイプなのだ。だから赤羽が危惧していたことを、今度は未然に塞がれてしまう前にコータローはさらりと皆の前で堂々とそれを口にする。

「昨日はあっさりベッ(ギャーン!←自主規制音)の上で倒れたじゃねーか!!さては手ー抜いてやがったな!ああ!?」

そして場がシ―――ン…とする中、部員達はそんなコータローの言葉に顔を歪めながら、は?ベッ(ギャーン!)?とガタガタと震え始めている。更にふと赤羽の方を見れば、立ち尽くしたまま汗をかいて痛ましそうに頭を抱えている。

「…フー…言葉がないよ、君には…」

たいそうお困りの様子だった。

あれだけ赤羽が隠したがっていたのにも関わらず(普通は隠す)コータローは何に遠慮することなく本当に本能のままに言い放ってしまったのだ。その重要性も理解せず。


「ええええ〜〜〜!!!否定しねーの!?肯定しちゃったあああ〜〜!!」


更に赤羽の肯定とも取れる発言に対して皆驚愕し、二人を除いた盤戸のメンバー全員が今心を一つにした。


そしてコータローと赤羽の密接な関係…つまりホモがばれた瞬間でもあった。


END.



かなり趣味に走らせてもらいました(笑)VS勝負はコタの勝ちだな…
ちょっと頭で妄想しているコタ赤がやたらコタが赤に切れ気味で、
赤羽さんの変人具合がかなり酷いネタが多かったもので(笑)
たまにはコータローの無茶さ加減に振り回されてもらおうと、
今回こんな話が出来上がりました。勢いだけで2〜3時間で書きました(笑)
でもよく考えてみればサイトSS二作目でたまにも何もあったものじゃございません!
しかし赤羽に「…フー…言葉がないよ、君には…」なんて言わせられるのは、
後にも先にもコータローしかいませんね!凄い!コータロー!!偉大!
普通にコタにベッ(ギャーン!)に押し倒される赤羽さんは想像すると何だか笑えます(笑)
もっと大人のしっとりラブ系になっていかないと身体の関係は厳しいね!
まだコータローが子供過ぎるから(笑)でも突然奴はカッコイイ攻めに…
雨の中のシーンのようなコタさんは反則ですよね、惚れた……赤羽が(笑)私も。
あれじゃあ普通に抱かれてもいいよね(笑)たまらんです!!!
★水瀬央★


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