―奪われたもの2―


「怯える必要もない、何のための薬だね、すぐ良くなる。そして君はこれでようやく盤戸へ戻ることができる。あの威勢の良い若者とよろしくやりたまえ」

「っっ!」

高みの見物なのか、年いった男のほうがこの状況を嬉々と見守っている。そして言った、あの威勢の良い若者、と。誰のことを言っているのかはすぐさま思い当たった、その若者も自分同様帝黒の引抜を拒否した男。ただ赤羽と経緯は違っていた。赤羽は親の都合で一足早く転入が決まっていたが、その者は後から帝黒に声を掛けられ、そしてその場できっぱりと拒否をしたキックチームである盤戸を愛してやまない者。

今回の大量引き抜きの事実を赤羽に突き付けた人物でもある。

―……そうだ…アイツの為にも俺は…何としてでも……盤戸にっ―

恐怖に震えている場合ではない、あと少しで自分の身体は解放される。そうしたらようやく盤戸に帰ってこられる。途中からでも秋季大会に間に合う、必ず自分抜きでもアイツなら勝ち上げっていける。この怯えを必死で打ち消そうと赤羽は下唇を噛んで、最後まで耐える決意を胸に抱こうとする。もう後には引けない、必死で涙は零さないとこの欲情する身体と戦う。

―盤戸で行くんだ、関東大会にもクリスマスボウルにもっ、こんな所でつまずく訳にはっ―

なんとか気を強く保とうと、これからの為に自分の身体くらいはと…
罠にはまった自分が浅はかだったのだと自身を戒めて…
盤戸に戻る為のこのくらいの犠牲…アイツに比べたら…

グッと奥に押し込めるように後方の男が先端を赤羽に突き立てる。そんな生々しい感触に、今日まで味わったことのない恐怖が赤羽を襲うが顔を伏せて必死に耐えようと自分を言い聞かせる。

―すぐに終わるすぐに終わる、盤戸の為だ盤戸の為だ、帰るんだ帰るんだ、だから平気だ…平気だっっ―

この屈辱に負けるなと、何かを失うような気になるなと。

「何をしてるんだ、早く入れろ」

「あれっ、ちょっと緊張してるのか上手く入っていかな…、うっ」

怖くない怖くない、もう自分に残された道はない。だけど……

心のどこかでずっと赤羽は怯えている、そこまで偽りきれない。

怖くない訳がないのだ。

―…うっ…ううっ……、うっ……コ、コータロー…っ!―

そして心の中で縋りを求めたのかその者の名を、赤羽は脳裏で叫ぶ。



すると突然場の空気が一瞬で遮断されるような、激しい音がこの応接室で鳴り響く。



ソファーに固まって存在した三者は一斉にその音のした方へ顔を向け、そして目の前の信じられぬ光景に帝黒側も赤羽も驚きを隠しきれなかった。

応接室のドアは開かれて、そこには修羅のような顔をしたコータローが立っていたから。

「テメーら…………」

完全に目が据わっており、その激しい怒りを帝黒の二人に向ける。すると帝黒側は慌てて赤羽から身を離す。

「ヒイッ!きっ君は佐々木コータロー君っ!!」

「こっこれは、そのっ…失礼する!」

言い訳も通用しないような場面に出くわされて、分の悪くなった帝黒側が慌ただしく乱れた衣服を整えながら、自分達の鞄を持ってコータローの立ち尽くすドアへと直進する。するりとすり抜けるつもりだったみたいだが、そんなことコータローが見逃す訳もなく…上司の方の男が咄嗟に襟ぐりを掴まえられる。

「ヒィッ、ぼっ暴力を振るってみろっ、お前もただではっっ」

「どこまで腐ってやがんだよテメーらはっっっ!!!絶対に許さねぇ!!!」

怒りに満ちたコータローにそんな脅しが通用する訳がなく、何の遠慮もせずにコータローは拳を振り上げる。そして怒りの鉄拳をお見舞いしてやろうとした時、意外な方向から制止の声が聞こえる。

「よせっっ!!」

それは紛れもなく被害を受けていた赤羽の声で、それに一瞬動きを止められたコータローは拳も寸での所で止まった。だがその隙を見て帝黒側はコータローを振り払いさっさとドアから一目散に逃げていく。逃げ足だけはかなり速い。

「まっ待ちやがれテメーら!!クソッッ、二度盤戸に顔見せんな!!!」

このまま逃がしてなるものか!と勢いづいて追いかけようとしたが、応接室にこんな赤羽だけを残して出て行くわけにはいかないと、思いとどまる。ギャフンと言わせ損ねてコータローは満足しないが今は帝黒よりも赤羽が気掛かりだ。
応接室のドアを閉めて、赤羽の方へ視線をやる。改めて見てみると思わず目を逸らしたくなるくらい現状は酷い。相手も少し呆然とソファーにうずくまっている。

「っ……、お、おいっ、大丈夫かよ!なっ…なんでこんなっ」

「……いつからそこに?」

何と声を掛けていいか戸惑うコータローに、赤羽はこんな状況でも冷静な声を発していた。だが顔を伏せたままで少々身体も震えている。それもそうだ、あんな目にあったのだから。

「あっ………最初の方から、でも途中でドア閉められて声とかよく聞こえなくてよ…悪ィ、入んの遅れた」

さすが盤戸高校というべきか、学校中の防音設備だけは定評がある。案外これも計算済みで帝黒側も企んだのかもしれない。まさかコータローも中がこんな事になっているとは想像もつかなかった。けれど段々微かに漏れてくる声を聞いて感づいたのだ。同時に怒りも一気に湧いてドアを開けた。

「…そう…か」

「なっ何でお前こんな事っっ!!クソッ」

辛うじて耳に届いていた会話を思い出すと、きっと盤戸転入への再手続きで向こう側に主導権を握られていたと想像はつくが、あの赤羽がと思うと信じられない気持ちでいっぱいだ。けれど盤戸への思いを逆手に取られて、同じく盤戸に強い思い入れがあるコータローは腹立ちを抑えられない。
見るからに痛々しい後ろ手で縛られた腕と無理やり剥がされた制服、とにかく腕を自由にしてやろうと固く縛られていた紐を外す。またそうやって近づけば、見えなかったものがどんどん見えてきてしまう。はあはあ…と苦しそうに息を切らして、あちらこちらに飛び散る液体が生々しい。おぞましい事が確実にここで起こったのだ。しかも抵抗を封じて脅しをかけて二人掛かりで。

赤羽は紐を外されても制服を整える気力すらないのか、ぐったりとソファーに横たわったままである。あの気丈な赤羽が…よほどショックを受けたのだと鈍いコータローでも分かる。とてもこのままにしておくことはできない。

「アイツら絶対に許さねぇっ!と、とにかくここ出ようぜっ」

コータローはますます具合が悪化していく弱りきった赤羽などこれ以上見ていられなかった、せめて身体を起こして服だけでも着せないとこの汚された応接室を出ることは出来ない。しかし身体を支えようと赤羽の背に触れた途端、びくりと跳ねるような反応を見せる。そしていつもでならありえないこんなコータローの親切を赤羽は拒否をする。

「俺の事は…放っておいてくれ、一人にしてくれないか…」

「っ!なっ何言ってんだよ!!そんなことできる訳っっ」

何だか、らしくなく強情を張ってるのかコータローを頼ろうとしない赤羽にコータローは苛つく。確かに昨日は何も知らず酷いことを言ってしまったが、もう状況は変わった。帝黒との交渉を聞いて自分の誤解だと知った。特に今は異常事態だなのだ。
相手が何と言おうと見捨てられるかっとコータローはまた赤羽の身体に触れる。するとまた大きく身体が震えて赤羽は触るなっと訴えてくる。

「なっなんだよっ、畜生っ!そんなに俺のこと信用ねぇのかよっ!」

「たっ頼むから……っ、ここを出て行ってくれ……うっ」

「あ?お前なんか様子おかしくねぇか!?せめて服だけでも着ろよっ」

どうにか力になりたいと有り得ないくらい親身になっているのに赤羽の拒否が相当腹が立つし理解が出来なかった。けれど強がっているだけでないような、赤羽の吐息がより一層大きくなって震えも全く止まりそうにない。しかしコータローには赤羽の身体に何が起きているのか皆目見当もつかない。
仕方なしにゆっくりと顔を上げる赤羽、見た目が酷いのは分かっている事なので見られたくもなかったが出て行きそうにないコータローを説得する止むを得なかった。

「コータロー…」

「っ!………っ」

そしてようやく顔を合わせるが、ここもまた想像以上に汚されていた。まるで力を失われた赤い瞳に異常なほど紅潮する頬、そして顔全体に吐き出されたであろうあるものの痕跡、思わずコータローも頬に赤みが差してしまうほど赤羽の乱されようは異常だった。呆然と上からそんな赤羽を無意識に眺めてしまう。

「…あまり、はぁ…見ないでくれ…、はぁ…っ」

そんな色気のある声で呟かれて、コータローは慌てて横を向く。

「………を、使用されている……」

「え?」

ぼそりと小さな声で、というより吐息にかき消されたのか、肝心な部分が聞こえずコータローは再度赤羽に耳を傾ける。すると怖ろしい事実を告げられた。

「く……薬を……使用された…、だから…っ」

「っっ!!…な、なにっ!?」

また新たな衝撃的事実にコータローも思考を乱され続ける。元々冷静な頭は持ち合わせていないが、もし持っていたとしても錯乱してしまっていただろう。そしてそんな事を言い出したのには何か理由があるのだ、赤羽はしきりに出て行けと自分に言った。つまりここにいられたら困るから…そして先程のあの過敏すぎる反応、少し触れた程度でも赤羽は身体を震わせていた。だから、薬がまだ体内で効いてしまっているのだ。

「早くここを……っ」

コータローを追い出そうとする理由は見えた。きっと今コータローが応接室を出て行ったら赤羽は自分でその身体の処理をするのだろう。やり過ごせないほどの性的欲求が体中を渦巻いているのだ、勿論そんな姿を他人に見られたいはずがない。コータローにも当然理解はできた、けれども本当にこのまま赤羽を見捨ててしまっても良いのだろうか。そんな疑問がずっと拭えない。
こんな苦しんでいる赤羽を置いてどこへ行けと言うのだ、それこそスマートじゃないとコータローはどうしていいか分からないのにそんな返事だけをする。

「嫌だ!こんなお前ここに一人で放っていけるかよっ!!」

それは精一杯のコータローの優しさだった、赤羽の事情を知って尚踏みとどまる。けれど一刻も早く自分のこの昂り続ける身体をどうにかしたいと自我さえ失いそうな赤羽にはとっては苦痛でしかない。もう早く快感を得たくて暴走してしまいそうなのに。
しかしコータローが出て行かないと言うのなら、もう赤羽が取れる手段は一つだけだった。

顔を上げて真っ直ぐコータローの顔を見つめ、縋るような視線ではなくいつもの鋭く厳しい…けれど潤みまでは隠しきれていない様々な感情が宿った瞳で、赤羽は声を強張らせる。


「なら、お前が抱いてくれるのかっ?」


とてつもない引力を感じて、そんな誘いのような切羽詰った声にコータローは言葉を失う。ビクッと思わず身体が硬直して、赤羽を戸惑いの目で見つめたまま一歩も動けなかった。こんな凄みのある赤羽を見るのも初めてだった。

―お、俺が…赤羽を……抱く?―

確かにここを動かないと主張するなら、人の自慰行為を見て悦ぶ変態でない限り手伝うという方向に向かうかもしれない。だが正直言ってそこまでコータローは何も考えちゃいなかった、ただ放っておけないからという理由でここに留まっているのだから。
いざ相手からそれを突きつけられると、まるで遠い次元の話をされているようで安易な返事など出来そうにもない。

「………っ」

言葉が一言も出ないまましばらく時間だけが過ぎる。すると赤羽の方から震えた声で沈黙を破った。

「んっ……早く、この部屋をっ…あ…、出ていって、くれ……んんっ」

もう耐えられそうにないとその声その態度が充分物語っている。かたかたと身体が震えて、両手を交差させ二の腕を掴んで、赤羽は限界だった。もう自制心を保っていられない、薬が完全に自分を支配している。早く快楽を身に刻みたくて。

そして目の前の赤羽がいつものあの澄ました赤羽でない事に本当の意味で気付き始めたコータローは、まだそんな赤羽を目にして動けないでいる。早く部屋を出ろと言うが、何故かその言葉に従いたくはなかった。盤戸のために犠牲になろうとした赤羽を俺がどうにかして救ってやろうという気持ちが消えない。もちろん事態が深刻なのは承知の上で。軽々しく踏み入れられる領域でないのも頭ではきちんと理解はしているつもりだ。

だからコータローも切羽詰った真剣な表情で赤羽にこう言う。


「俺が……お前を抱いてやりゃーいいんだろ!?じゃあ抱いてやるよ!!」


正気か?と思えるコータローの返事だった。けれど本人は本気で、ソファーの上に身体を乗り上げる。きっと赤羽もまさかこんな展開に差し掛かろうとは思ってもいなかっただろうけど、もう理性を失いかけていてそんなコータローをまるで拒む様子もない。むしろ余計に快感に打ち震えている、身体が勝手に期待してもうまともに思考も働かない。組み敷かれて身体が疼く。

けど全く性交渉の経験がないコータローは、更に男相手でどうしたらいいのか組み敷いたものの迷いを見せる。しかし不謹慎にもこんな赤羽の姿にいつの間にか欲情した身体は熱く燃え上がる。とにかく身体に触れようと胸板に顔を埋めるが赤羽からは意外にも制止の声が発せられる。

「いいっ!何もしなくてっ!…はっ早く…いれてくれっっ!」

だが行為自体を止めたのではなかった、もう深い接触を望む声。そして何故か赤羽同様興奮状態に陥ったコータローは赤羽の指示通りに一旦身体を離して手荒く自分のベルトを外す。もう勃ちあがった性器を取り出し、二・三回手で扱く。仰向けでソファーに身を預けた赤羽の脚の衣服を完全に脱ぎ取り、膝で折り曲げて大きく左右に開かせる。

先程までは見えていなかった部分が露にされ、その下腹部の淫らな濡れ具合にコータローは息を呑む。性器からは先走りがかなり零れており、そして奥は何やらねちゃねちゃとしたような液体が塗り込められている。全て帝黒の奴らが残していったものだ。

「なんか濡れてる…マジでもう入んのかよ…っ」

半信半疑ではあったが、自分の下腹部の疼きも堪らず、赤羽がそう望むならと自身を入り口に押し当てる。ゴムも何も着けていないがそのまま食いつきが良さそうな内部へ腰を進ませる。ギュッギュッと先端部分だけでも締め付けられて、その感触に早速酔いしれるがまだ全部を埋めきらないうちに赤羽の身体が一度大きく弾けた。

「あっあっ…ああっっ!!」

気がついた時には既に果てていた、しかしまだまだ足りなさそうな様子だ。よほど強い刺激に飢えていたのだろう、まさかこの程度で果てられるとは予想外だった。

「うう……っ、んっっ…」

虚ろな目、だらしなく開かれた口元、何も隠さずに全てをコータローに委ねている。
まるで不意打ちのような絶頂だったが、中途半端に挿入した自身を今度はもっと奥深く捩じ込んでいく。けれど意外と突っ掛かりはなくて、あの謎の液体が潤滑油として機能しているようだ。内壁が擦れていく感覚にコータローも無我夢中となる。序盤だけどもうセックスの気持ち良さを知ったつもりになって、もう一気に自身を全て体内に埋め込んでやった。

「ああっ、あっ!ああっっ、ンンッ!」

「もうちょっと声抑えろ!外に聞こえるぞっっ」

あまりの素直な反応に思わず危機感を感じてコータローは咄嗟に赤羽の口元を塞ぐ。苦しそうに唸っているがここは学校の応接室、そのくらいは我慢してほしい。これも全て薬のせいだと分かっているけれど。この赤羽の痴態全てが帝黒のせいだと思うと腸が煮えくり返りそうになるし、また妙な嫉妬心を感じてしまう。ただ処理の延長上に自分は立っているだけなのに、こんな赤羽を目にしてしまうと元々愛情を持って接しているかのように錯覚する。

赤羽の口を押さえつつ抜き差しを繰り返して、より反応が良さそうな場所を故意的に擦り付ける。赤羽の乱れ様は異常だった、声を出せないせいか必死に首を振って赤い瞳を潤ませている。今にも涙が零れ落ちそうでただの脆い人間に見えてしまう。
充分今のままでも気持ちいいのだろうが、コータローは腰を揺らすと同時に赤羽の性器を掴んで、少し軽めに刺激を与えてやる。するとまた赤羽はいとも簡単に精を吐き出した。

「ううっ…ん、ンンッ!!」

しかしまだまだ快感を欲している。コータローも初めての性交に理性を奪われて、また赤羽の内部との摩擦で射精を我慢できそうになかった。赤羽もただ受け入れてるだけじゃない、コータローを取り込んで精を吐き出させようと締め付けてくる。そんな淫乱ぶりに振り回されていた。
どうせなら最奥でと望んだコータローは激しく突き入れて、赤羽の身体を折り曲げながらより深い場所で達する。するとそんな振動を感じるのか、赤羽も快感で打ち震えている。

何もかもが狂い始めていた。

病み付きになるほど濃厚に交わりあって、もう完全にここが校舎内の一室という事実を忘れそうになる。だがコータローまで溺れてしまう訳にはいかず、どうにか自我を保ってはいるが目の前のだらしなく喘ぎ何度も果てる赤羽を見ては興奮もしてしまうし逆に心が締め付けられるように痛かった。自分の知っている赤羽でなくなってしまっているから。
こんな奴は知らない、と何度も自身を奥に貫きながらコータローは思う。

抱けば抱くほど壊れていくような赤羽をこの位置で見守らなければならないのが辛かった。自分のせいではないけれど、自分が激しく抽送を行うたびに快楽をその身体に刻み込んでいる。

「クソッ!!アイツら……っ!!」

先程逃げていった二人に対しての怒りが抑えられない、心にとどめておくことが出来なくて声に出る。しかしもう赤羽の耳には届かない。まるで独り言を叫んでいるかのようだった。

「あっっ、んん…っ!」

赤羽はもうこれが何度目の射精かも覚えていないであろう。痙攣を起こす身体は確実に暴走している。あのプライドの高そうな人間がここまで堕ちてしまうものなのだろうか。

「全部メチャクチャにしていきやがってっ!」

これは奴らの後始末で赤羽に協力しているだけだと自分に言い聞かせても、もうどこかでこの行為に自分も溺れてしまってるんだとコータローは自分のそんな醜さにも反吐が出そうになる。しっかり愉しんでるんじゃないか?と笑われたって仕方がない、実際恐ろしいほどの快感を得ているのだから。

全てが終わるまでは止められない、赤羽に対しても徹底的に付き合ってやらないと薬の効力も弱まらないだろう。

「盤戸をっ、よくもっっ!!」

土足で踏み躙られ、ほぼ盤戸は壊滅状態に追い込まれた。心無い卑劣な連中が全てをメチャクチャにしてしまったのだ。もうコータローは悔しくて仕方がなかった、感情が昂ぶっているせいかじわりと涙が滲んで、そんな打ちのめされ掛けている自分にまた悔しい思いをする。

「全部、全部奪っていきやがったっっ!!」

辛うじて取り返せたものは、こんな踏み荒らされた状態で。赤羽は既に赤羽でなくなっていた。身体を繋げて真上から赤羽を見下ろしてその存在を確かめても、昨日校門前で待ち伏せて顔を合わせたあの時の赤羽の欠片すら残されていない。何故こんな目に遭わされてしまったのだ、盤戸に戻りたいと願っただけで。

「畜生ーっ!」

何もかも奪われた、夢も仲間も絆も…そして赤羽も。いつの間にか流れていた涙は赤羽の頬にポタポタと落ちていく。そんな雫の冷たさにふと赤羽は目の前のコータローを見る。行為は続けながらもあの自信に溢れかえる瞳に力が失われていることに気付いた。今この瞬間、赤羽側から見たらコータローの方が崩壊してしまったように思えるだろう。実際は二人ともボロボロだったが。

だから赤羽は自分の意思でそっと腕を上げて、コータローの頬に掌で優しく触れる。するとコータローも我に返ったのか真下の赤羽に視線を向けた。


「…コータロー、俺はここにいる」


いつもの声色でいつもの顔色で、赤羽は静かにそう呟いた。コータローはもう涙を止めることができなかった、決してこの存在を奪われた訳ではない。赤羽だけはどこにも行かずここにいるのだ。この自分に触れる手は壊されてなどいない。

自分にはたった一つ、残されていた。

それは手を伸ばせばすぐそこにある。


赤羽という…かけがえのない仲間の存在を。


END.



ただのエロ話じゃなくて最後コタ赤でシリアスに収まって良かったです。
帝黒の人たちをこんな風に書いてしまって罪悪感は勿論あります。どうかお許しを…
赤羽がピンチでコタが助けにくるという受け大ピンチ展開に見えて実際はそうじゃないんですよね。
コタの方が感情が表に出やすい分脆かったりするので、精神的に強い赤羽が救いの手を差し伸べます。
コタを泣かせるのが好きそうにみえるかもしれませんが、(まあ好きですが・笑)
きっと泥門との試合が終わるまでコタは泣かなかったと思います。泣いてる暇なんかなくて、
ただ一生懸命に頑張ってたと思う。でも今回はさすがに赤羽がこんな目にあってショックだったと。
赤羽だけは奪われることはなかった、むしろコタが守りきったのですこの存在を。
まだ不安定な関係の二人だからこそ不器用に寄りかかり合ってると思います。

まあ一つだけツッコミを入れるとならば…コータローはもっと早くに出てくるんだ!
明らかに聞こえてただろう!さては壁に張り付いてたな!?遅い、遅いよ!
まあ作中にあったあの言い訳で、勘弁してやろうと思います(笑)
★水瀬央★

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