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―SPLASH!― 突然だがコータローは今、虫の居所が悪かった。 むかむかと腹を立てながら廊下を歩き、先程の授業で先生に理不尽に怒られたことを根に持つ。確かに元々ちょっと気分的なことで生徒にうっかり当たったり当たらなかったりする少々問題のある先生なのだが、それが運悪く今回コータローに白羽の矢が当たってしまい彼は大層腹を立てている。授業が終わった後もジュリに散々だったね、と気の毒そうに言われて、周りの連中からも似たような言葉が聞かれたがコータローはそれどころではなく、しかし無闇に当り散らす訳にもいかなかったので教室を出て一人ふらふらと彷徨っているのだ。 ちょうど今は昼休み、しかし一つ前の休み時間に持参のパンをさっさと食べていたことから、そんなに腹は減っていなかった。いつもならガツガツ食欲旺盛なところなのだが。 「チッ!!胸糞悪すぎる!!何で俺が……っ」 評判があまり良くない先生というのも知っていたが、いざ被害に遭うまでその有り得なさに気付かなかった。 そしてうろうろうろうろ公舎内を彷徨い、ふと目に付いた部屋があった。そこは資料室、現赤羽の私部屋だ。だがこんな気分の悪いときに、更に気分の悪くなるような奴の顔を見て一体何になるんだと足早に去ろうとする。しかしよくよく考えてみれば、赤羽なら無闇やたら当り散らしても大した支障はないな、と勝手な推測に及ぶ。ギャーギャーと文句の一つや二つ、日常的に行われてることであり、これはちょうどいいとコータローは資料室のドアをノック無しで開ける。 「おい赤羽ー、いんのかー?」 偉そうに声を掛けて、この資料で散乱した部屋内を移動する。目の前のテレビはついている、しかし椅子に赤羽の姿はない。 「なんだ、いねーのかよ、肝心な時に使えねぇ奴だなー!」 「ここにいるが?」 赤羽の姿が見えなくてコータローが吼えた時、意外にも近い場所から本人の声が聞こえた。思わず身体が後ろに下がるが、周りをキョロキョロ見渡してみる。するとすぐ隣から突然本や資料がバサバサバサと盛り上がっては崩れていって、そしてその中から赤羽は現れる。つまり本達に埋もれていたということだ。 「うぉわ〜〜っっ!!どっから現れるんだよお前はっっ!!」 その神出鬼没さに気味の悪い声を上げるコータロー、しかし赤羽は本に埋もれていても冷静で、パンパンと身体についた埃を払っている。 「突然本が雪崩れてきてな、上手い具合に身体が覆われてしまったんだ」 「普通もっとビビるぞ、そんな場面に出くわしたら」 ここは冷静にコータローがツッコミを入れておくが赤羽は特に気にしていない様子で、探していたらしいファイルを手にして所定位置へ戻っていく。コータローも一時なんだかマヌケなシーンで気が削がれてしまったが、やはり思い出すとむかっ腹は健在で睨み付けるような視線で赤羽を見る。 「どうかしたのか、そんなに恐い顔をして」 「ケッ!!俺はさっきの授業で噂の先公に理不尽なまでに怒られたんだよ!皆の前でな!あ〜もう腹が立って仕方ねぇぜっ、これも何もかもお前のせいだ!!!」 「俺は関係ないだろう、しかし噂の先生か…確かに唐突に変調が行われると耳にしたことがあるが…」 「ほーっ、お前でも知ってんのかよ、で…余りにも虫の居所が悪くてな、ここにきた」 「………(何故)」 どうやら赤羽にもこの手の話が通じるらしく、噂を知っているなら話は早いとそこからベラベラとコータローの愚痴大会が始まる。だが赤羽もファイルに目を通しながら耳は一応は傾けているようだが、どうも聞き流している様子だ。 「おいっっ!!お前聞いてんのか!!!人が一生懸命話してんのによ!!今度はお前が被害に遭ったらいいんだよ畜生ー!!」 「聞いているさ、随分酷い目に合わされたようだな、だが俺もその先生は少し知っているがそんな姿はまだ一度も見た事がないな、相当運がいいようだ」 しかしここで赤羽が聞き捨てならない言葉を吐く。その先生を少しは知っているが…と赤羽は言った。 「は?お前その先生のこと個人的に知ってんのか!?今の言い方だとそんな風に聞こえるぞ」 「ああ、少しな。以前何らかの行事で世話になったことがある、それから顔を合わすたびに声は掛けられるな、二・三言で済むが…どうやら相当精神的にムラのある先生のようだ」 「なんだお前、あのいけ好かねぇ先公に気に入られてんのかよ、しかも何だかあのヤロー偉いさんの息子とかなんとか聞いたことあるぜ?そんな奴にしょっちゅー声掛けられんのかよ」 「顔を合わせれば、の話だ。俺も挨拶くらいはするさ」 だが何だか臭うような話にコータローは食いつく。そういえば赤羽の成績はむかつくことに学年トップだったことを思い出す、つまりは優等生の上スター性もある生徒という訳だ。大抵の先生に気に入られるのはまあ分からない話でもないが、その噂の先公にはもう一つ変な噂も立っていた。 「さっすが優等生さまは違うんだな、あんないわくつきの先公に気に入られるなんざむしろ可哀想になるぜー、でもよ、アイツのもう一つの噂はお前知ってるか?美少年好きでホモっていう噂」 「?…それは初耳だな」 赤羽は涼しい顔でファイルを読み進めながらそう返事をする。でもコータローは口元に妙な笑みを浮かべたままで、にやついた様子で言葉を止めない。 「へーー、これはちょっと可笑しな話だよな、どう考えてもお前変な意味で目ーつけられてんだろ、つーかもう気に入られてるんだよな、さてはお前媚でも売ったろ」 「……??」 随分な言われように少し不快な顔をして赤羽はコータローの方を見る。 「いいのかよ、生徒が先生なんかと関係持ってよ、大問題だぜ?しかも男同士でな」 明らかに不快感を誘うようなコータローの発言に赤羽は乗せられることもなく、淡々と作業を繰り返しながら粗末な作り話を聞き流す。けれどどうやら先生のもう一つの噂とやらは本当らしい、それに関しては多少の驚きもあった。けれど特に思い当たる節もない。 「……妄言だな、まず俺のどこに媚を売る必要がある」 「その言い方だと必要があれば媚売ってもいいって風に聞こえるぜ?」 「フー、話にならないな」 最初から決め付けにかかる妙に面白がっているコータローの姿はただ単に憂さを晴らしているだけのようにも思えた。どうやら目的は最初からその方向だったらしい、虫の居所が悪く誰かに手っ取り早く当たりに来たのだろう。正直、赤羽にとっては迷惑な話であった。更に不快な空想まで並べ立てられ、明らかに名誉毀損だと心で思う。 相手にするだけ時間の無駄だと感じた赤羽はもうコータローを見なかった。 けれど不意に何かを引っ張られ、強制的に振り向かされる。 コータローが手にしたのは制服のネクタイだった。 「っ!?」 あの嫌な笑みは消えず、遊び足りない子供のような無邪気さとダークさで信じられないような言葉を吐く。 「俺にも媚売ってみろよ」 それからの彼の行動は早かった。呆気に取られているうちに唇を塞がれ、シュルッと器用にネクタイが解かれ、椅子に腰掛けている赤羽に圧力をかける。逃げられないように頭部を固定して目を見開いたまま二人はもっとも近い位置で視線を交し合う。最初はその行為の唐突さに困惑の色を見せていた赤羽の赤い瞳だったが、次第に時が経つにつれてすーっといつもの冷静で厳しくも美しい視線に戻る。それからは簡単にキスを解かれてしまった。 「悪い冗談だな、少し頭を冷やした方がいい」 「冷たいこと言うな、別にいいじゃねぇかよっ」 自分勝手にもコータローは不服を申し立てて、折角その気になったのによっと悪態をついている。そして更には、俺みたいなガキには興味ねぇのかよ、などと発言し、現実と空想が入り乱れているようにも感じた。 「まさか本気で先生と関係を持ったと…?」 「そんなの俺が知る訳ねーだろ!お前がないって言ったって嘘ついてる可能性もあるからな!口では何とでも言えるぜ、でも一般生徒には当り散らしてお前みたいな出来のいい生徒は溺愛してる先公なんざどう考えてもおかしいだろ?」 「つまり隠れて先生と関係を持ち、その見返りに何かと優位に働きかけてくれていると?」 「かもしれねぇだろ?清純そうに見えて意外とヤる奴なんて今頃珍しくもねーし、まあお前は清純そうには見えねぇけどな」 「…失礼だな」 何故ここまで落ちぶれた人間だと思われなければいけないのか、今までそんな人間だと誤解を受けていたのかと思うと赤羽は妙に哀しくなる。いやにしつこいコータローは既に憂さ晴らしが目的ではなく、どうにかして自分を陥れようと企んでいるようにしか見えない。 そしてそれは身体の要求…とでも言うのか。 「そんなことバラされたくなかったら俺にも相手してくれよ、慣れてるんだろ?」 きっとコータローもそれが真実だとは思ってもいない、しかしあくまでも妄想を押し付けてくる気でいる。今彼の脳裏にある目的を果たすために。そんなこと付き合いきれない、赤羽は心底そう思う。けれど妙なコータローの働きかけは胸騒ぎを起こす。まるで相手の世界に溶け込んでしまいそうな危機感、そして快楽。 すると精神がぐらりと揺れて飲み込まれかけたその時、コータローは瞬時に何かを嗅ぎ取って首筋に噛み付いてくる。制服を乱暴に脱がしにかかり、よせ、と声を掛けても知らぬ顔でそこに舌を滑らせられる。 ぺろりと濡れた感触が走り、思わず赤羽はゾクリと反応してしまう。 「随分敏感な肌だなー、男飢えすんのかお前」 まるで纏わりついてくるような感覚に毅然とした態度で臨めない自分が一番不思議だった。湿っぽい吐息が口から漏れて、おもむろに制服が脱がされ唇を宛がわれて、時折肌を強く吸われる。いつの間にか流されている、そう悟っても身体が妙に熱くてたまらなかった。 「んっ!よせ、触るなっ」 そんな声を上げても胸元まで服を広げられ、突起部に舌が触れるとピリッとした感覚が走る。いつの間にか精神的に抵抗を封じられた赤羽は与えられるがまま愛撫と呼ばれる行為に耐える。的確な反応を示せば示すほどコータローも執拗に攻め立てて突起を軽く歯で挟む。 「あっ……、っ…」 思わず素直な声が漏れて、手で口を塞ぐも体内で疼く熱には逆らえなく、相手の肩に手は添えるものの押し退けようとは働かない。意識的に求めている訳ではないが、本能的に快感を欲してる、言うなればそんな感覚だった。冷静になどなれなかった。 突起を嬲られる感触に身震いを起こし、するりと下腹部に伸ばされた手に気付けなくて、服の上から触れられた時、過敏といえるほど反応してしまう。膝立ち状態のコータローはその相手の様子に気付き一旦胸から離れた。 「こっちもちょっと反応してんな、ていうか何で俺がお前にこんなサービスする必要あんだよっ」 何に腹が立つか知らないが、そんなことをぼやきながらコータローは立ち上がり、あるものを衣服から取り出して、そして最も過酷なことを赤羽に告げる。 「ちょうどいい位置に顔があんな、これ口でしてくれよ」 「っ!?…なに…?」 突然目の前に中途半端に反応を示した男性器が差し出され、思わず赤羽をそれを凝視してしまうが我に返ったときに目を逸らす。何か悪い夢でも見ているのではと現実逃避してしまいたくなるが、拒否は選択権に無いと言わんばかりに性器を唇に押し付けられて半強制的に行為を急かれる。 「うっ…、んんっ…」 「ほら、さっさと口開けよ、お前ならこれくらい余裕だろ?」 ちなみに余裕とはサイズの問題ではなく、フェラくらい軽いだろう?という意味である。もうほぼ拷問に近いが、それでもまるで金縛りに遭ったように抵抗を忘れた赤羽は相手の望みどおり口を開き、それを口内へ導く。深く銜え込むことはできないが、舌先でそれを刺激し苦い味が広がって、自然と涙が滲んでくる。コータローの妄想とは違い、当然こんなことは初めてだった赤羽は良い方法が分からず手探り状態だったが、次第に行為に慣れていくのが自分でも分かるのか大きく口を開けて器用に奥まで熱棒を銜え込んだ。 「ンッ、ンンッ」 苦しそうな声とは言えない音が鼻から漏れて、不慣れだが手も使って全体を扱く。一度口から引き離すと、だらしなく唾液やら色んなものが混じったものが口端から零れるがお構いなく舌を突き出して表面を舐めていく。その絶妙な舌使いにコータローも興奮したまま赤羽をいやらしく見下ろす。 「なんだよ…っ、やっぱ得意なんじゃねーか…、すっげーイイぜ…っ」 赤羽をこっちの世界に引き込むことに成功したコータローは調子に乗らんとばかりに相手の髪に手を埋めて頭部を掴み、また銜えるようにと先端を口先へ押し付ける。そして開かれていく口元を見つめて、タイミングを計りつつコータローは赤羽の頭を引き寄せて無理やり性器を銜えさす。苦しくてもそこから離れることを許さず更には口腔で上下運動まで始めて相手の頭部を自由自在に操って感度を高めていく。 頬を赤くした赤羽の苦しみつつも自分のものを銜え込む姿は絶品だった。 「フッ、ンンッッ…ハッ…!」 「マジで…っ、やべー本当…、病み付きになりそっ……ん!」 お互いここが学校だということを忘れて、ぶるぶると快感で震え上がり濃密な空気を作り上げて、コータローはもう我慢できずにそのまま赤羽の口内で射精する。そしてそれにビクッと反応した赤羽は舌に棒を乗せながらも口からは引き抜き、けれどそれが返って顔射を招くことになってコータローが放つ精液を顔にも存分に浴びることになる。 「んっっ、はぁっ…!」 「おい…っ、はあ…はあ…、そんなに顔にかけてもらいたかったのかよ…っ」 もうべっとりと付着させて、呆然と心ここにあらずのような、身体も脱力して身動きが取れないでいる。しかしコータローは追い討ちをかけるように休む暇を与えず、今度は相手の性器を素早く衣服から取り出しておもむろに手で扱いてやる。既に先の自らの淫らな行動で反応を見せている性器は快楽にも正直で、必死で触らせまいと赤羽は手を伸ばすけれども、もうそんな次元の話ではなかった。もう瞬時に何かが弾けてしまいそうだった。 「ちゃっかり勃たせやがって、はぁ……、十分エロイぜお前…」 「あっ待てっ、あっ…ああっっ!」 まともな思考が働かないまま身体だけ異様に昂ってギャップについていけないもようだ。このままあっさりと手の中でイかされた赤羽はまたぼんやりと状況を飲み込めきれず、一種の錯乱状態であった。それに比べてコータローは冷静で、目の前であの赤羽が見たこともないような姿を晒して声を上げて露まみれにされて、それがまた異常なほどの興奮作用を働かす。とてつもない支配欲に襲われて、征服欲も生まれて、もう椅子に座っているのがやっとの状態の赤羽の手を引きそこから下ろさせる。 そして身体を反転させて、そのまま椅子にしがみつかせる。 「…っ!?…コータロー?」 「やべえ…、俺本気になりそうだ…」 そんな切羽詰った声を境に下の制服をずり下ろさせて、腰を突き出す格好となっている赤羽の奥を濡れた指で突き立てる。それから性急な手つきで局部をこじ開けるようにかき回し、その味わったことのない感触に戸惑っているのか後ろを振り向いて不安そうな表情の赤羽。 「なっなにっっ、コッ、コータローッ!」 「心配すんな慣らしてるだけだ、一応これしとかねーと…っ」 グチュグチュと卑猥な音が鳴って、赤羽は思わず耳を塞ぎたくなる。自分の身体を隅から隅まで暴き立てられて、最後すら成立させようと動くコータローにやはりもう抵抗する気は起きないが、その未知の世界に一抹の不安は覚える。この貧弱な椅子だけを頼りにしがみついて熱くなりっぱなしの身体を早くどうにかしてしまいたかった。けれどどうにかしてしまった後が想像つかなくて、本当にこのままで良いのか疑問も湧く。けれど今の自分に選択権はないので、ひたすら耐えて行き着くところまで行くしかない。物欲しそうに指を締め付けている欲に溺れた自分が分かる。 「もういいなっ?もう挿れんぞっ…、んっ…」 「あっ!!、うっ…ううっっ!!」 指を抜かれたかと思えば、突然熱された杭のようなものが宛がわれ、広げられる秘部に少しずつ確かな質量のものが体内に入り込んでくるのが赤羽には分かった。その痛みも半端ではなかったが、けれど不思議と引き抜いてほしいとは思わなかった。繋がりあう身体に残された僅かな理性も消え去ってしまう。 コータローにとってはもう今か今かと待ち構えた瞬間で、相手を気遣うよりも先に目先の欲に駆られそうで、押し進めるものも次第に強引に抉じ開けるように中を進んでいって、そしてあっという間に全てを埋め込ませる。 「ああっっ……ふぅっ…、ん!」 「すっげー締め付けられる……っ、はぁ…はぁ…っ、マジで…我慢、できねーっ」 信じられないほどの赤羽の具合の良さに惚れ惚れして、それからはもう獣の行いだった。コータローは相手の腰を持ったまま何度も後ろから赤羽を貫き、その麻薬のような快感に、セックスの気持ち良さに没頭して赤羽を犯し続ける。勢いよく何度も抜き差しを繰り返すたびに赤羽からも喘ぎが漏れて、感じているのか無意識に腰が揺れ動いている。ガタンッと椅子が途中で行為の激しさに赤羽の身体を支えきれなくなったのか床に転げ落ちる。仕方無しに床に這う赤羽は更に腰が高く突き上げる格好となって、コータローに何度も激しく突き立てられる。もう目の前の視界も虚ろとなって、涙を零しながら快楽に身を呑まれる。 「んっ…んんっ、あっもうっ…、コッ…コータローッ…」 「名前呼ばれんのやべえ…っ、どんだけいい声してんだよ…っ」 元々生まれ持った天性のセクシーなハスキーボイスに悦びの声を上げられ、もうこれ以上は我慢できないと若さを見せてコータローは一気に中で精を流し込む。ドクドクッと容赦なく中で放って、赤羽もそのまま達していた。同じく放った精で床を汚して二人はようやく現実に帰る瞬間を見る。 はぁ…はぁ…と互いに息を切らしながら、あれだけ豪快に熱くなって弾けてしまった分身体の熱が冷めるのも急激だ。しかしまだ余韻に浸っているようで、どちらも何の言葉を発しようとしない。 「…はあ…、はあ……」 そんな妙にに重苦しい空気が漂い始めたとき、瞬時に二人を現実へ帰す大きな音が部屋のスピーカーから流れ始めた。 チャイムだ。 『!』 それは午後の授業が始まる5分前の予鈴で、それを聞いてコータローは自身を赤羽から引き抜いた。するとその箇所からどろりと自分の放ったものが零れ出して、思わずその様を見てコータローは再びやばい具合に興奮しそうになった。だが学校だということも先程のチャイムで思い出されて、さすがにここで欲情するのはまずいともう手遅れだがそう思った。けれど夢のような時間が流れたと、先の行為に対しては後悔していない。 赤羽もゆっくりと腰を下ろして、その悲惨な現状にまだ呆然として我に返れないらしい。 「………とりあえずここに…いた方がいいな…無理だろ授業なんて」 「…………………ああ」 コータローは素早く衣服を直せるけれども、赤羽のまずさは折り紙つきで、とりあえず部屋に置いてあったティッシュとタオルで残骸を拭い取ってやる。けれどよく見れば髪にも付着しており、辺りにあった資料にも例のアレが飛び散っている。赤羽はそれを見て思わず資料を手に取り顔を近づけて驚いた様子を見せる。まずは自分の身体を心配した方がいいような気もするが、それはそれで赤羽らしいとコータローは納得した。 「何て言ったらいいか、その…とにかくあの先公には気をつけろってことだ」 「これが忠告だったとでも?」 あの黙りこくっていた赤羽が突然はきはきと喋り出して、その威圧感から思わずコータローは逃げ腰になるが、ここは男らしく決める場面だと思い直し、思い切ってこう発言する。 「もしも余計なちょっかいかけてきたら「俺がいるから」ってちゃんと言えよお前」 セックスし終えた直後に、調子よくそんな俺のもの宣言に身勝手だと罵られる覚悟だったが、意外にも赤羽は冷静で返事も予想外のものだった。 「……分かった、俺とお前の身体の相性が最高だったという訳か…」 「それマジで言ってのかよ…、まあ本音で言えば…すっげー良かったけどな」 今度は何故か妙に肯定的な空気が流れ始めて、それは非常にコータローにとってはありがたかったが、何だか素直な赤羽にも慣れない。 そして今度こそ午後の授業開始の合図がなり、二人は息を潜めてこの資料室で時を過ごす。しかしちょうど資料室に蛇口が備え付けてあって助かった、赤羽は静かに顔を洗い髪も汚れた部分を洗い落とす。コータローのせいで髪型が崩れてしまったが、一応この状態だったら次の授業には出られそうだと赤羽は安堵した。コータローは何となく次もさぼりたい空気を出していたが、そこまでは付き合いきれない。 そして重苦しい沈黙を長々と過ごし、ようやく授業終了のチャイムが鳴って、赤羽は立ち上がった。コータローも仕方ないと一緒に立ち上がって二人は資料室を出る。赤羽は敢えて部屋のドアを閉めようとはしなかった。空気が篭っているからだろうか。無用心にも思えるが、あまり人気のない場所にあるのでまあ平気かとコータローは頭を掻く。後ろから、歩く姿の赤羽を見つめていて本当に冷静沈着な奴なんだなあと感心した。もっと責められるかと思ったが、赤羽だって精神的にはめられたとは言え自分で動いた訳で… ―…でもやっぱ次はヤらせてもらえそうにはねぇよなあ〜― 相当後悔しているに違いない、そんな仮説を立てる。 するとコータローは正面からやってくる今日一番見たくない奴の顔がそこにあることを知る、また腹が立って煮え繰り返りそうだった。もちろんまだ忘れちゃいない、理不尽な怒られ方をした事を。そして少し赤羽と顔見知りらしく、ホモだとかいう噂。 当然コータローよりも前に歩いていた赤羽のほうが先に先生と顔を合わせるわけで、コータローはそれをジーッと嫌味なほど見つめ倒した。 「やあ赤羽君、今日は随分浮かない顔してるじゃないかー」 もう声を聞くだけで血管が切れそうになったコータロー、しかしここは我慢我慢。 赤羽も声を掛けられて礼儀正しく頭を下げて挨拶をしている。 やっぱり所詮噂は噂なんだろうか?まあそう簡単にホモ先生なんて存在してたまるか、とそれはそれで安心して学校生活を過ごせそうでありがたい。だが目の前の先公は妙にいけ好かない笑みを浮かべている。 「元気なさそうだねー、何だったら今日学校が終わったら食事でも連れて行ってあげようかー」 ―っていうかっ、思いっきり誘われてんじゃねぇか〜〜〜〜っっっっ!!!!― 普通こんな状況で飯など堂々と誘う訳がない、いかにも怪しい例の先公。というかきっと前々からこんな会話が繰り広げられていたのではないか?と疑問にも思う。 「申し訳ありませんが今日も練習がありますので」 しかも赤羽は今日も、と言った。やはり前にも誘われたことがあるらしい。充分怪しい!! 「練習が終わってからでいいじゃないか、一人暮らしだし厳しい練習の後で夕飯作るのも大変だろう?」 しかも当然の如く赤羽が一人暮らしなのも知っている。明らかに狙いのある証拠だ。しかし何だかアメフト部まで悪く言われているような気がして、コータローはムカムカと妙な怒りがこみ上げてくるが、一言ガツンと言ってやる前に突然赤羽がこちらを振り返った。 「ん?」 そしてコータローの手を取り、そのまま赤羽は先生に… 「申し訳ありませんが僕は彼のものになりましたので」 ブハッッッ!!! ―何を言ってんだっ赤羽あああ〜〜〜!!!ていうか本気でこいつ言いやがった!!おいっっ― 確かに何だかそんなことを言えと話したような記憶もある。しかしコータローは赤羽に腕を組まれた状態で真っ白になり、そしてはっきりとフられた先生も白髪化が進んでいた。まさか真に受けて本気でそんなこと言うわけがないと甘く見ていた。というか別に自分まで巻き込んでくれなくても良かったんだ 。俺のもの云々は別に言ってくれて構わなかったが。 そして先生の憎しみが篭った視線がコータローに注がれ、これで完全に目をつけられてしまった。目の敵にされてこの先きっと更に理不尽なキれ方をされるだろう。非常に迷惑な話だった。 「それでは失礼します、行こう…コータロー」 何だかもういつものあの表情でノリノリのようだが素の赤羽は一体何を考えているのか意味不明だった。コータローは動かなくなった身体を無理やりずるずる引き摺られて、でもこの様子なら二度目も嫌がりそうにないとそこだけが唯一の救いだった。 というより…ものすごく…愛されてしまった気が…… コータローはこの先、何も考えることはできなかった。 END. |