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―サンタ&トナカイ3― ピチャッ。 秘部にまで獣の舌は及んだ。 表面を何度か舌が滑ったかと思いきや舌先が中にまで入り込んでくる。その味わった事のない不気味な感触に赤羽はほんの少しの恐怖をその身に感じていた。身体が徐々に侵されていく…熱で支配され理屈など通用しない世界に足を踏み入れる。 舌で濡らされ慣らされて、先の行為のための準備が施されているのだ。 「……んっ…、んん…っ」 ピチャピチャと卑猥な水音が身体の熱を高めて、思わず寒気のするような舌が内部を解かしていく感覚。 「こんなとこ舐められて…恥ずかしくねーのかよ…」 そんな愚問な声が聞こえて、舌の施しが止み、いつの間にか秘部には指が宛がわれている。そして突き立てられる。舌の感触ほど生々しいものではなかったが今度は一気に奥まで指が潜り込んできて赤羽はたまらず呻き声を上げる。第一間接を曲げられ内壁を引っ掻くように悪戯に指が遊び回っていた。また感じる部位に掠れると否が応でも赤羽は身体を揺らして相手にその変化を知らせてしまう事になる。 「何だよ、どこがいいんだよ…、お前ん中…意外と柔らかくて吸い付きも良さそうだぜ、もう指がこんなに動かさせる」 そう言って無造作に指を動かし始めるコータロー。普段は狭く閉ざされている箇所を無理矢理抉じ開け、指が何度も素早く往復してトナカイは大喜びだ。だが不思議な事に赤羽は自分でも、この愚かとも言える行為を止めさせようとはしないのだ。否定もする気はない。 「あっ、んんっ……んっ」 一つ妖しげな声が喉をつく度に理性の壁は破壊されていく。 二本目の指が加算され同時に出し入れが可能となった時、又一つ壁を越えていくのだ。 「ああー畜生!!もう限界だぜ!!ノンビリやってられっかっ」 しかし予想外の声に赤羽は素で驚かされ、指が適当に二本入りすぐ抜かれたと思ったら、もう獣の猛々しい生殖器が眼前に現れて思わず身が引けてしまう。だが逃げる気もないがここはソファーの上、逃げ場所はなく観念する以外に選択肢はない。 「マジで挿れるからなっっ!!後で泣き言言っても絶対止めてやんねーぞ」 脅しじゃないと抑制できない険しい表情で足を持ち上げソレを押し当ててコータローは一気に挿入を試みる。その瞬間赤羽の身体に激痛が走り、咄嗟に歯を食いしばった。無理に抉じ開けられていく感触は指の比ではなく、この行為の難しさと厳しさを知る。 しかし昂ぶった自身を突き刺している方は受ける側とは違って欲情を顔に浮かべ、慣れない行為で多少は痛みを感じているはずなのに全てが快感に直結しているのかコータローの表情は欲に醜く歪んで性交を望んでいる。 腰を掴み固定して、ペロリと上唇を舐めながら全て埋め込んでしまおうと力技で押し進める。ようやく見る事が出来た赤羽の苦痛を浮かべた表情に満足し、更に肉欲に飢えながら、ただ自分のしたいように強引に深く身体を繋げていく。相手の身体は本人の意思とは違って受け入れる事を拒んでいるのかきつく締め付けてきて、それ以上の挿入を許そうとしないが構う事なく突き立てる。 徐々に埋まっていく感覚に酔いしれながら、早くより強い快感を得たくて、無理でも何でも熱を全て捩じ込む。根元までしっかりと咥え込ませて、コータローが微かに起こした小さな揺れでも敏感に赤羽は身体を震わせる。 「あっっ…、う、ううっ…!」 「ほら全部入ったぞ…、はぁ…、感想はどうだよっ?」 「はあっはあっ…、んん…っ」 「何にも言えねーのかよ…、じゃあっ」 必死で何かに縋るようにソファーの背凭れを掴みながら衝撃に耐えようとしている赤羽に更なる追い討ちをかけようと、突然腰を使い始めて相手に一瞬のゆとりも与えようとはしない。コータローの些細な動き一つでも身体が跳ね上がり表情が変わって、よっぽど中の自分を鮮明にその存在を感じ取っているのだなと思うと余計に酷く攻め立てたくなってしまう。 何度も激しく性急に内壁を熱で擦りつけ男の持つ性感帯を刺激してやる。すると痛みに耐えているだけであった表情が少し熱を含んだような色気のある吐息を混じらせて、感じているのか綺麗な赤い瞳が震えて涙で潤ませている。 「んっ…んんっっ!」 「ちょっとは気持ちいいみてーだな…、んな事サンタがトナカイにヤられて平気なのかよっ」 腰の振りは止めず抽送を繰り返したまま顔を赤羽に近づけて、話せる状態かどうかは分からないが少し質問をぶつけてやる。すると思ったよりは取り乱していなかった赤羽は声を震わせながらもきちんと受け答えをしてやる。 「うっ…、特に…っ気にしない、あっ…」 「まだそんな余裕あんのかっ!…でも、随分顔が赤いみたいだぜ…?強がってんのかよ…それとも恥ずかしくねーのかっ」 「……っ、恥ずかしく…ない…っ」 「っっ!!テメーッ!!」 「…訳がない」 最後にポツリと濡れた唇から静かに紡ぎ出された等身大の飾らない言葉に一瞬時が止まってコータローは思わず動きを止めた。何だか又裏を掛かれてしまったような…自分の行動の全てが幼稚に感じさせられ気付きたくもない敗北感に打ちひしがれる。やはり幾らどんなに酷く組み敷いてやったとしても赤羽は屈さずに、けれど信念を持った行動が取れて、気に入らなくても自分の上司であり主人で惜しみない面倒を見てくれるのだ。それが何よりも深い愛情表現である事は間違いなく、ムキになって半無理矢理こいつで湧き起こった欲情を満たしてやろうとする自分は子供以外の何者でもない。 「…クソッ、……畜生っ!!」 こんな惨めな自分を初めて感じて、悔しくもあるし歯痒くもあって、コータローは今の錯乱した自分の気持ちを自分の中でも上手く纏められなかった。どう足掻いたところで赤羽の上には立てない自分、また赤羽も嫌味な立ち振る舞いは決してせず、自然な心のゆとりと優しさを兼ね備えていてコータローを下になど見ようともしない。だがまたその赤羽の自然さがコータローには心の広さを見せ付けられるようで次第に劣等感を抱いてしまう結果となる。 まるで大人と子供のようだ。 「クソッ…、クソッ!!!」 正直、赤羽の事は嫌いじゃない。嫌いになりたくても本心までは偽れない。 「…コータロー?泣いているのか?」 ピタッと行為が止んで、色んな感情が胸を突いたのかコータローは不覚にも目に涙を滲ませる。元々直情型だから、すぐに感情が表に現れてしまうのだ。 「…どうして泣いているんだ…、好きにしていいんだぞ?」 またその赤羽の優しさがコータローにとっては辛い。 けれど今自分に出来る事は一つしかなくて…もうグチャグチャな感情のままでこの行為を最後まで終わらせるしかない。こんな状況でも身体は正直だ、疼いて疼いて仕方がない。答えられる言葉がないのなら行動で答えるしか…いや誤魔化してしまうしかない。 「クソッッ!!」 突如息を吹き返したように半分ヤケクソのような激しい抜き差しを開始して一心不乱に快楽を追い求める。何も考えたくなくて、ただ行為に没頭だけしていたくて、耳に入り込んでくる卑猥な摩擦の音と相手の喘ぎは妙に心地良かった。けれど中心で感じる快楽は強烈で今にも達してしまいそうなほどだった。 ―何でこんなに気持ちいいんだよ!!柔らかくて、でも締め付けてきて…っ、畜生!!― 「ん、んっ、クソッ…!」 「あ…っ、はぁっ…はぁ!」 絶妙な内側の絡みつき具合に文字通りセックスに没頭しながら、男のくせに艶めかしい身体のラインを持つ赤羽の首筋や鎖骨などに舌を滑らせて必然的に気は昂ぶっていく。交わり合う中心が眩暈を起こすほど熱くて、溜まった欲望をこれ以上体内に蓄積させる事は不可能で、おもむろに腰を動かし目の前に絶頂がちらついている。 「あっ…ああっ、コッ…んんっ!」 「はあっ、んっ!…んんっ!!」 相手の状態の事など頭に入らないくらい快楽を欲して、奥深く埋め込まれた自身から勢いよく精を吐き出す。その行為の激しさからお互い息を乱して、赤羽はコータローの全てを受け入れた。まだ赤羽は昂ぶったままだったがコータローが良かったのであればもういいと見て見ぬ振りをして熱をやり過ごす。だが少しコータローは納得のいっていない表情を浮かべていた。 「…ちっ、…ンだよ、クソ!!」 あれだけ好きにしても不完全燃焼を唱えるような表情の険しさに、着乱れた格好をしたまま赤羽は上半身を起こして、そっと手を相手の頭部に伸ばす。そして数回優しく撫でて見守るような目でコータローを見ていた。 「…っ!…マジで怒ってねーのかよ…、あんな事されてっ…」 「いいと言っただろう?お前が気にする必要は何もない…足りないのなら何度でも抱けばいい」 「さっきからムカツク事ばっかり連発しやがって!ああー足りねぇよっ全然足りねぇ!!」 「なら…もう一度、俺を抱けばいい」 コータローが何を吠えても訴えても自分を崩さない赤羽の冷静な態度は一見冷たさを含んでいるようで、でも本当はとっても温かさと優しさに満ち溢れていた。 お風呂上りとは思えないほど二人の身なりはグチャグチャに乱れ、精液が付着し、悲惨な状況とも言えよう。けれどそれでももう一度抱けと赤羽は言う。身体に負担が掛からない訳じゃない、恥ずかしくならない訳じゃない、自分の大切なパートナーの為に全てを捧げられるのだ。 「……本当にテメーは変わり者のサンタだぜ、お前みたいなサンタどこ探してもいねーよ…」 「お前も…どこを探しても見当たらないトナカイだ…」 究極の変わり者同士、変に認め合って二人はソファーに乗り上げたままで口を閉ざす。足りないと喚いていたコータローも少し落ち着いてきたのか。もう無理に相手を突然押し倒すようなマネはしなかった。言葉を失い、今日の年に一度の大仕事を改めて思い出す…気は合わなくても何故か息は合って騒ぎながらの聖夜の舞は思いの他楽しかった。 ―…こいつ以外と仕事する自分の姿が何でか想像つかねー…― あれだけ反抗して義務である毎日の生活も半分放棄して自由気ままに生きてきて、それでも見捨てられぬ自分の存在は相手にとってどう映っているのか非常に興味深いものではあった。だが素直に問えれば最初から悩みもしないのだけど。 「…来年もよろしく頼む、お前がいないと仕事にならない」 「っ!」 思いも寄らぬ沈黙を先に破ったのは赤羽の方で、しかも自分を必要する言葉を自然と声に乗せてコータローは最後の最後で完全なる敗北をその身に感じた。だがそこにあるのは絶望感ではなくて… 「お、俺でいいのかよ…、またサボろうとするかもしれないぜ?」 「その時は今度こそきちんと叱ろう…仕事が終わったら世話もしてやろう」 心の頑なな蟠りが融けていくのをコータローはこの時切に感じていた。自らが遠ざけた赤羽という存在をこんなにも身近に感じている。結局絆されてしまったと言う事なのか… 「じゃあまあ…仕方ねぇから俺もお前の面倒見てやるよ…、って…ちょい待てよ?仕事が終わったら世話してくれるって………まさか年一っ!?」 年一=年一回。 上手く纏まりかけたところで重要な事に気付いたコータロー。 実質サンタとトナカイが一緒に仕事をするのはクリスマスの日だけ。 「年一はねーだろっ年一はよ!せめて週三だぜ!」 「随分と増えたな、帰ってくる全ての日に求めてくる気か…それともそれだけの為に帰ってくる気なのか…、まだ週に三度しか帰ってこないつもりなのか?」 「えっ…それは〜…、まあもうちょっと増やしてやってもいいかなーっとは…」 鋭い指摘を受けて、ある程度はパートナーの関係修復に努めてもいいと思えたコータローは一応もう少し帰ってくるとチラリと相手の様子を窺いながら恐る恐る勝手かも知れないが告げてみる。別に世話うんぬんかんぬんはさほど重要じゃない。 しかしそれを伝えた後、ビミョーにだが嬉しそうな表情を浮かべてビミョーにだがあの赤羽が微笑んだような気がした。それはコータローの気のせいだったかもしれないが、また頭を撫でられて決して嫌な気をさせた訳じゃなかった。そんなに帰ってきて欲しかったのか…と思えると妙に何故かこのタイミングで忘れかけた肉欲が体内に渦巻いて、未だきちんと赤いバスローブを羽織りなおそうとしないまるで誘っているかのような格好をした赤羽を再びその場に押し倒す。 「……好きにしていいんだろ?」 「………ああ、これが終わったら又身体を洗ってやろう」 「っ!…それは止めといた方がいいと思うぜ、どうせすぐ汚れる事になるからなっ」 「……そうか、残念だな…、洗っている時のお前の反応が実に面白かったんだが…」 「何っっ!!テメー遊んでやがったのか!!なめやがって〜〜〜!!!」 結局普段のペースに戻ったコータローはガルルと威勢良く、開けばロクな事を言わない赤羽の唇に自分のを押し付けて言葉諸共飲み込んでやった。 とりあえず元気の戻ったコータローを見て、赤羽はフッと笑みたい気分にさせられて両手をそろりと背中に回し、今日はどこまでも精一杯世話をしてやろうとサンタがトナカイに感謝の意を示す。 そして何物にも変えがたい愛情を贈ろう。 END. |