―思わぬ来訪者3―


「っっ!!」

赤羽は閉じかけた瞳を瞬時に開けて、今自分の身に一体何が起こっているのか冷静になって確認しようとするが生憎の部屋の暗さにこの赤い瞳はなかなか慣れてくれなくて、視界で確認することは出来なかった。けれど目で見るより明らかなものもある。どう考えても自分に降りかかっている危険要素を生み出す人物は一人しかいない。

「コ、コータローッ!?」

まるで押さえつけに掛かるような圧力を背中から受けて、相手の思惑を自然と感じ赤羽は大人しくなどしていられないと抵抗しに掛かる。

「一体何の真似っっ、んん!」

声を上げようとすると手で強引に口を塞がれる。視界不良の中で背中から押さえつけられてしまえば相手の細かい行動は一切予測できない。だが突然耳元で小声で囁かれた。

「お前が暗さに弱いなんて百も承知だ、こうすりゃどうにもできねーだろ?あんまり騒ぐと妹起きるぞ」

「っ!…んんっっ!!」

そんな悪魔の囁きに赤羽は身体が硬直するどころかより活性化して最悪の事態を避けようと口を塞ぐコータローの手を無理やり引き離す。そして赤羽も小声で反論する。

「よせっ!何を考えてる…、妙な真似はしないと約束しただろうっ!」

「あー妹に関してはな、お前にしねーとは一言も言ってねぇよ、とにかく口は塞いでおいた方がいいと思うぜ?」

「っ!ひ、卑怯な…最低だな…、んっ!」

まるで揚げ足を取るように、細かく重箱の隅をつつくように、コータローは堂々とそう言い放ち、そして相手の抵抗が酷くならないうちにさっさと用事だけ済ませてしまおうと背中から寝間着を捲り上げて現れた肌を掌でいやらしく撫で回す。それからするりと前へ滑らせて、いとも簡単に胸の中心を摘んでしまう。思わぬ刺激に声を上げかけた赤羽は咄嗟に自分の手で口を塞ぎ、寝室で静かに眠る妹のことばかりが頭に過ぎって物音も極力立てられない。声は勿論不審な物音さえも立ててしまったら目を覚まされる危険がある。

「そうそう、ちゃんと口塞いどけ。ちょっと遅れたけどよ、俺からの誕生日プレゼントだ」

「なっ何…、んん!」

悪びれもなくそんな台詞を吐くとコータローは赤羽の背中に舌を滑らせて一気にこのままけしかけるつもりだ。とんでもない誕生日プレゼントだった。受け取り拒否したいくらいの生まれて初めてこんな最低なプレゼントを受け取らされる。非常に迷惑だ。
突起を弄る手も軽快に常に休む事なく赤羽を追い詰めて、相手の性的興奮を無理やり高めていく。だが赤羽もただ大人しく寝転がっているだけでなく、どうにか後ろを取られた状態から脱却しようと身体を反転させてる。そしてそのままコータローを弾き飛ばしてしまおうとするが、物音のことがネックなのか赤羽はいつもの力が発揮できない。

「暴れんなって言ってんだろ!?お前こんな姿妹に見られたいのかあ?う、腕さえ掴んじまえばっっ」

厄介な赤羽の腕さえ封じてしまえば例え仰向けの状態でも抑え込むことが出来るとコータローは、この暗さを利用していち早く赤羽の両腕を頭上に押さえつける。そして無理やり唇を奪った。上半身の自由を奪い、その唇の柔らかさにいつもコータローは没頭する。飢えた獣のように濃密に交わって、その感触に痺れるような快感を得ている。赤羽も少なからずこの状況のせいか、いつも以上に感度が良くて抵抗もままならない状態で、コータローは俺の一人勝ちだと天下でも取った気分になる。
赤羽がキスを拒んでも執拗に頭部を押さえつけて、また夢のような世界を浸る。舌で悪戯に相手の口内を突ついて滑らせ刺激して、その唇に吸い付く。好きなだけ自分の思い通りに堪能して、もう下腹部が猛烈に熱かった。思わず相手の下腹部に擦りつけたくなるくらい。

「んんっっ、ん!!」

キスを解いても首を振って嫌がる姿がこの暗がりでもコータローの目にはしっかり映っている、結構暗さには強い。赤い瞳の赤羽とは違って。しかし相手の決定的な弱点を突かなければこんな思い切った行動にも出れない自分の無力さには虚しいものがあるが。けれど案外楽しんでるんじゃないかとコータローは卑下た笑みを浮かべた。

「やべ、もうこんなにしちまったぜ…当然相手してくれるよな?」

両腕で赤羽の腕を押さえたまま今度は首筋に吸い付いてわざと痕をつけて回る。唾液で濡れた舌で嘗め回し、また噛み付くように吸い付く。赤羽は唇を噛んで必死に声を抑えていた。こうやって徐々に体力を奪い抵抗する気力すら失くさせて赤羽を術中にはめる。こんな優越感はめっぽうたまらなかった。喉から手が出るほど欲しかった。ついでに征服欲も湧いた。

「はぁっ…んんっ、よせ…っ!」

そんな声は丸々無視だ。コータローは畳み掛けるように、少し賭けでもあったが赤羽を拘束する腕を解いて素早く顔を胸の位置まで移動して、その綺麗な朱色のピンと立ち上がった突起をおもむろに口に含んでまた勢いよく吸い上げる。

「うぁっっ!!んぐっ…!」

その沸き起こる快感に身体がついていかないのか赤羽は思わず声を上げてしまうが、コータローがそれを塞ぐ。そしてまた執拗なほどの乳首攻めが始まる。元からここが弱いのはコータローも知っているので、加減なく攻め立てる。歯で噛み痛みを与えた後に唇で優しく包み込んでまた吸いその硬さを楽しむ。随分反応の良い赤羽に大層満足だった。自分が口を塞いでやらないと、とんでもない嬌声まで上げてしまいかねない。だからつい意地悪も言ってやりたくなる。

「お前いつもより感じてんな、あっちの部屋に妹来てんのによっ…随分な趣味だぜ!」

「んんっ!!んっっ!」

そんなプライドを刺激するような言葉を吐かれて、赤羽は反論したいのか必死で口を動かしている。けれど快楽の波に飲まれかけているのも事実だろう。抵抗する手が力の半分も出ない。
だが妹にセックスしているのがばれて困るのはコータローも同じなのでさっさと愛撫を進めていく。全て勢いで片付けて、もう逃げ出すこともできないように相手の下の寝間着を下げる。赤羽は隠したくてたまらないだろうが、そこはもうしっかりと今の赤羽の状態そのものを見事に表していた。
コータローは一方の手で赤羽の口を引き続き塞ぎつつ、もう片方の手で下腹部のそれを掴む。

「っっ!ん…っ!」

もう容赦なしに感じたくないと頭では思っているであろう赤羽の性器をもっと気持ち良くさせてやろうと上下に擦って快感を揺さぶってやる。もうその度に涙を浮かべて過敏に反応する赤羽の表情はいやらしくて、また嫌がる様が余計にコータローの興奮を煽り更にいたぶられる結果となる。もうここまでくればさすがの赤羽ももう逃げ出すことを諦めるはずだと後は自身の肉欲を満たしてしまいたかった。

「大人しくしてろよっ、妹にバレたくなかったらなっ」

頻繁に妹という単語で赤羽を縛り、さっさと相手の下の衣服を完全に剥ぎ取ってその剥き出しとなった両脚を大きく左右に開いてやる。膝で曲げさせて、片方の脚はコータローの肩に乗せた。そして唾液で濡らした指先をこの暗い室内でも器用に慣れた手つきで赤羽の秘所に挿しいれて、そこを乱暴に引っ掻き回す。けど指は強烈に締め付けられて、コータローは思わずゾクリとし舌なめずりをした。

「そんな締め付けんなよ、別に妹来てるからってそんなに張り切らなくてもいいんだぜ?指だけで感じすぎだ…この淫乱」

ぎゅうぎゅうと何度も指を締め付け、感じる箇所に指の腹で擦らればまた赤羽の身体は大きく跳ねる。先程イかせることなく中途半端に弄った性器がヒクヒクと解放を求めているのが分かる、先端を濡らしてとても淫らな格好だと思った。嫌がりつつも感じてしまい自分を欲しがる赤羽を見て、本気でめちゃくちゃに犯してしまいたくなった。
これから実際そうするのだけど。

「ふっ…ふぅっ…んっ!」

何度も指が内部の行き来を繰り返し、指先で内壁を擦られて思わず腰を浮かせてしまう。コータローの指に全神経が向かってしまって、確かにコータローが言うとおり異常なほど興奮状態にある自分を赤羽は知った。こんな強姦まがいの仕打ちを受けていつも以上に感じてしまう身体がまるで自分のものでないようだった。けれど正直に反応する、どこもかしこも熱にやられている。そして早く挿れて欲しいとさえ願っている自分が……

―一体どうしてしまったんだっ、こ…こんな…っっ!!―

快楽に震える身体をコータローがジッと上から見下ろしている。全て見られている。何ももう隠せないと赤羽は絶望するが肉体は熱望している、その内精神まで犯されそうでそれに恐怖した。
二本の指が勢いに任せて挿し入れられ、もう堪らず秘所でそれを締め付ける。意図的に締め付けた。

「なんだよ…もう指だけじゃ満足しねーか?」

そう言ってコータローは指と口を塞ぐ手の両方を赤羽から離す。そしてぐったりとソファーに身を預けた状態の赤羽に自分の治まりのつかない破裂しそうなほど興奮しきったそれを衣服から取り出しまずは見せ付けてやる。それを暗さの中ではっきりと目にした瞬間、確かに赤羽は一度大きく震えた。抵抗もできないほど欲に駆られて、ましてや欲しいとさえ思っている。

「そうやって大人しくしてろよ、バレたくなかったら声は自分で何とかするんだな」

そしてまた赤羽の脚を開かせて中心の奥に欲望が膨れ上がったそれを宛がう。入り口に押し当てているだけで、その箇所が早くその肉の塊を求めているのが分かる。男が男の雄を欲しがっている。そんな風にいつの間にか調教してしまった。それとも最初からこういう素質があったのか…
もうコータローは止める事なく一気に挿入を開始した。突然突き刺さる圧倒的質量に赤羽は自分の両手で懸命に口を塞ぎ何とか声だけは抑えていた。どうにか無事にこのまま何事もなく過ぎ去るように…そんな思いを掲げながら。

「すっげっ…、きつっっ!」

そんな感想を漏らしながらコータローは一切の遠慮などなく、熱棒と化した自身の性器を赤羽の体内へ埋め込める。しっかり奥まで銜え込ませて、その熱さに感触に締め付けに魅了される。もっと深く、もっと激しく感じていたいと腰を無造作に振って抜き差しを繰り返せば面白いように赤羽の身体も揺れ動き今にも嬌声が漏れてきそうだった。酔いしれるように腰を掴んで何度も最奥に自身を叩き込んで、その摩擦にたまらない快感を覚える。また同時にきつく締め付けられて、また強い快感が味わいたく何度も同じ動作を繰り返す。

「うっ…んっ、んんっ…っ」

「おいマジでいつもより何感じてんだよっ、本当は見られたい願望とかあんのか?お前、そんなに俺の突っ込まれて気持ちいいか?気持ちいいんだよなっ」

「ぁっ…んんっ!んっ…」

相手を揺さぶりながら言葉でも攻め立てて、いやらしく何度も耳を塞ぎたくなるような言葉を耳の近くで囁く。赤羽がいつも以上に興奮しているのは一目瞭然だった。ぽろぽろと左右の目から涙が零れていくのが分かる、コータローは自分が赤羽をこんなにしたんだと思うと余計欲情してもっともっと虐めたくなる。直接性器を触ってやらずに焦らすように先程散々嬲った胸の突起に刺激を与える。すると身体を捩って何かを懇願する姿はとてつもなくいやらしい。

「なんだよ、乳首好きなくせによ…っ、下弄らなくてもこっちだけでイけんだろ?」

まだまだ満足していないと赤羽の身体を弄ぶコータローは相当意地の悪い笑みを浮かべており、さすがに暗さの慣れてきた赤羽にもそんな姿は映し出されて、その視姦されているような居た堪れなさに何故か身体の性感帯は悦びを感じてしまって、気持ち良くなりたくてたまらなかった。
行為の激しさが増して、もう感覚が麻痺するくらい何度も貫かれて痛みは全く感じずに、犯されている感覚だけが残る。身体は既に限界を超えて、もう張り裂けそうな性器が痛いくらい敏感に快楽を得て弾けたがっている。

「んっっもう…っっ、んんっ」

「イきてぇのかよ…、正直俺ももう限界…っ、んっっ!」

そして何度も何度も赤羽を犯しきった後コータローはそのまま赤羽の中で精を全て吐き出し、その絶頂の瞬間に身体が危険なほどの快感を得て震え上がる。それを密接した状態で赤羽はコータローの絶頂を生々しく感じ、けれどその衝撃に悦びを見て赤羽自身も耐えられなくなり、性器を自分で扱いて強烈な快感を生み出し僅かな時間差で赤羽も果てる。

「…はあ…はあ、何とか見つからず無事に終わったな、すっげー気持ち良かったぜ?お前も感じすぎだろっ」

「…はぁはぁ…はぁ…、早く…抜いてくれ…」

「あぁ?随分冷たいこと言うじゃねぇか…ちょっとくらい余韻に浸らせろよ…最後自分で弄ってたくせによ!」

「断る……もう離せ…」

行為を一通り終えて少し赤羽にも余裕ができたのか、もういつもの調子で現実的に動く。自身の欲望が満たされたのなら次は一時も早くこのどんな言い訳もできない状態の身体を離してしまいたかった。こんな淫らな行為をする仲だと決して妹に悟らせてはいけない、誰にも知られてはいけないのだ。

「ああ…もしこの状態で見られたらお兄ちゃん超幻滅だよな。恥ずかしいどころじゃねぇよな?男のもん銜えて悦んでるんだもんな?やらしいよな、お前って」

しかしまだコータローが冷め遣らぬ様子で、もうしばらく離してもらえそうになかった。一通りの言葉を言い終えた後にやっとコータローは身体を離してくる、もう神経を切り詰めすぎて疲労が絶えない赤羽は早く明日のために眠ってしまいたかった。そして誰よりも先に目覚めてシャワーを浴びて証拠隠滅を図りたい。けど今はもう動く気力がなくて、服を整えた後赤羽は死んだように眠りにつく。
それからコータローも非常に満足したのか向かいのソファーに帰っていき、当初の目的を果たせて嬉しそうにすやすやと眠っている。一体どんな神経をしているのだろう。無理やり抑え込んでそれが誕生日プレゼントとは…けれど身体が悲鳴を上げるほど快楽を得たことは確かで、皮肉にも今日頂いたプレゼントの中では一番衝撃的だった。というより衝撃そのものだった。
妹が手洗い等で目を覚まさなかったのが唯一の救いだった。




そして朝になりようやく明るさを取り戻した部屋で予定通り真っ先に目を覚ました赤羽。目の前でガーガー鼾を立てながら気持ち良さそうに眠っているコータローを尻目にすぐに浴室へ向かった。適度な温度でシャワーを浴びて、身体に不快感が残らないよう丁寧に洗い落とす。昨夜のことを思い出すだけで、何たる失態だと赤羽は悔やんでも悔やみきれない。まさか妹が泊まりに来ている時にこんな生々しい騒動が起こるとは本気で頭になかった。やはりコータローは泊めるべきではなかったのだ、自分の常識が一切通用しない相手に何を言っても無駄だということを学習し切れなかった。これでもし妹が昨夜のことに気付いてしまっていたら…もう想像するだけで赤羽は眩暈がした。

あまり長くシャワーを浴びずにすぐ浴室を出た赤羽は、このままもう制服に着替えてしまおうと腰にバスタオルだけを巻いている。まだ妹もコータローも目を覚まさないだろうと仮定して。
しかし……

「お兄ちゃん?おはよう、いつも朝からもシャワー浴びてるの?」

頭をタオルで拭いて俯き加減だった赤羽に突然妹が話しかけてくる。思わず慌てて横を向き、今ちょうど目覚めたらしい妹と顔を合わせた。赤羽は心情的に何となく顔を合わせづらかったが妹は昨日と変わりない笑顔で接してくる。どうやら昨夜の事は何も勘付いていないらしい。赤羽は心底安堵した。

「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「うん、もうぐっすり!お兄ちゃんのベッド寝心地がいいね、今日の朝食は私が用意するからね」

「そうか……ありがとう、着替えてくるよ」

赤羽はほぼ裸のような状態であったから、あまり立ち話はせずに足早に制服の置いてある部屋へ入っていく。まさかこんなタイミングで顔を合わすことになるとは思っていなかったので正直驚きもした。格好にもう少し気を遣えばよかった、バスローブでも羽織って出て来れば良かったとほんの少しの後悔もする。
だが過ぎてしまったことは仕方ないと赤羽は制服を着て、髪はまだ濡れた状態だったが雫が落ちるほどでもなかったので今はそのままリビングへ顔を出す。すると妹が朝食準備してくれているのか、食欲がそそられる匂いが赤羽を和ませた。
だがソファーに座っても向かいにまだ熟睡しているコータローの顔を見ると一気に腹立たしくなってくる。一体どうしたものか…

「…コータロー、そろそろ目を覚ませ、時間に間に合わなくなるぞ?」

そんな風に平静を装って声を掛けてみてもコータローはまるで無反応だった。けれどいい加減起こさない訳にもいかない、一体どんな神経で昨夜の今日でこんな熟睡が出来るんだと呆れてしまう。少しも罪の意識を感じていないらしい。

「コータロー、起きろ」

手のかかる男だと赤羽は身体を揺すって起こしにかかる。すると後5分…などどと寝惚けた声が返ってきた。思わずフーと息が漏れてしまう。

「ダメだ…今理沙が朝食を作ってくれている、早く起きて顔を洗ってくるんだ、そして着替えろ」

「う〜〜ん…まだねみぃ…、じゃあ目覚めのキ…グハッッ!!」

寝惚けて余計なことを口にする前に赤羽は容赦なくパァン!と眠っているコータローに対し手荒な方法で口封じをする。すると痛みには耐えられないのかガバッ!とコータローは起き上がる。

「イッテー!何すんだよっっ!!朝っぱらからテメー!!」

「ようやく目を覚ましたようだな、早く顔を洗ってくるんだ」

いつもの冷めた様子で赤羽はもうコータローには構うまいと朝刊を広げて寛ぎ(オヤジ)モードに入る。当然怒ったままのコータローも文句は山ほどあるが、まあ昨日の今日だしとここは意外と素直に赤羽の言うことを聞いた。そして台所に顔を出して妹に対して気さくに「おはよう」などと声を掛けている。赤羽は思わず眉間に皺を寄せた。

それから三人で朝食を取り、昨日と変わらぬ雰囲気で場の空気は流れる。赤羽もグッと怒りを抑えて妹の手前何事もなかったように振舞っている。コータローはコータローで素のままで、たまに赤羽の方を向いては少々意地の悪い笑みを浮かべるくらいだった。妹は何の不審も抱いていない、また楽しそうにコータローと会話を交わしている。

「でももう皆学校に言っちゃうんのよね…寂しいなあ、私も帰らなきゃいけないし…今週末も試合なんでしょ?」

「何だったら土日までここに泊まりゃーいんじゃん、んで試合の応援に来てくれたら部の皆も喜ぶぜ〜?」

「そうしたいんだけど…今日中には帰るって言ってるし、お兄ちゃんは忙しい時期だし邪魔はしたくないから…」

「理沙…邪魔だなんて…」

「いいの、今日帰るって決めてここに来たんだから、お兄ちゃんとコータローくん見送ったら私もあっちに帰るね?すごく楽しかった」

賑やかだった赤羽の部屋もこの朝食が終わればまたいつもの静かな部屋に戻る。けれどコータローがいるから兄は大丈夫だと妹は安心した。自分が残らなくても兄は決して寂しい思いはしない。それは少し妹にとっては寂しい事実のように思えるけど、兄にはいつも元気でいてほしいと願っているから。

玄関のドアの前で学校へ向かう二人と見送る妹とで別れの挨拶を交わす。ちょっと寂しそうな笑みを浮かべた赤羽は「いってくるよ」と声を掛けた後、就寝前に妹にそうしたようにまた額にキスをする。すると今度は妹も兄に同じ動作をしてあげた。
そしてそんな外国みたいな光景に当然一人ビビっているのがコータローで、そんな行為も極自然にやってのける赤羽家を不思議な目で見つめる。やはり慣れない人が見ると、キスは挨拶代わりだと簡単には思えないらしい。

「うおっっ、ここは日本だぞ?いきなりビックリするじゃねーか!!」

「ふふふ、ねえコータローくんも」

「え?」

そしてコータローの額にも同じように妹のキスが落とされる。すると途端純情少年のように真っ赤になったコータローは嬉しさに口を押さえてしきりに感動している。そして妹もそれを望んでいたことからコータローからも妹の額にキスをした。もう幸せの絶頂のような顔をしてにやけが止まらないでいる。

「じゃあ二人ともいってらっしゃい!練習、無理しないで頑張ってね!試合も応援いけなくてごめんね?」

「ああ、理沙も気をつけて帰るんだ、ありがとう」

「んじゃ行ってくるからなー!またこっちに遊びに来ることあったら俺にも連絡くれよ!じゃあな!」

こうして妹の理沙は二人を見送った。見送って二人で歩き出した瞬間、何か言い合いを始めてしまった二人を見て思わず笑みが零れる。本当に仲がいいんだな〜と微笑ましくてしょうがなかった。思わず負けてしまいそうとうっか悲しんでしまうくらい。

「…はあ、行っちゃった。私も帰る支度しなきゃね…」

理沙は一人部屋の中へ戻ると、昨日今日の短い時間ではあったが様々なことを思い出す。どれもとても楽しくて最高の思い出になった。でも朝にシャワーを浴びた直後の兄をふと思い出し、自分と一緒に生活をしていた時以上に逞しさや美しさが増していた兄の裸はとても見ていて恥ずかしかった。更に濡れた髪で雫が髪の先から落ちている状態も、女の自分が見ても色気があるなあと自分の兄のことながら惚れ惚れした。しかし一つ妹は不思議に思っていることもあって…

「…でもお兄ちゃん…首筋に何か変な痕があったけど前々からそんなのあったかなあ…」

厳密に言えば首筋だけじゃなくて背中を向けた時にも何か赤い痕がついていて…あれは一体何だったのだろう?と妹は頭を傾げる。けれどまあいっか、と深く考えずに機嫌良く鼻歌を交えながら帰り支度をするのであった。天然に感謝だ。



そして登校中の二人はと言うと…

「コータロー、昨夜は一体どういうつもりだ」

「あぁ!?別にあんなのプレイの一環だろ?妹に見つかった訳じゃねぇんだからいいだろうが、お前も感じてたくせに後からゴチャゴチャ言うなっ」

「…もう二度とあんな事はしないでくれ」

「つーかあんな事出来るチャンスがもう多分ねーだろ、でもよ…楽しかったよなー見つからないように冷や冷やすんのがよっ、俺ちょっと子供がいる夫婦の気持ちが分かったぜ〜?」

「最低だな、君は…」

むしろ冷や冷やしていたのは赤羽だけで、やっぱり何も悪いことなんかしていないとコータローは開き直るというよりか全く反省もしていないし、困った者だと赤羽は首を横に振る。
けれどあれだけ昨日は妹妹と浮かれて部屋で騒いでおいて、いざ夜になると自分に手を出してくる辺りコータローの本心が見えなかった。確かに妹の安全に気を取られすぎて自分自身のガードなど忘れて油断してしまい、そこに付け込まれて昨夜の出来事は起きてしまったのだが。

「妹を…気に入っていたんじゃなかったのか?」

そして気が付けば、それはどういった意図の質問だ?と自分自身の発言に驚かされる。何だろう、妹をあれだけ守りたかったはずなのに…自分に矛先が向けられるとそんな調子のいい言葉を吐いてしまえるのかと自分を戒めた。

「んん〜?ああそりゃーお前の妹は可愛いぜ?でも夜のお前の可愛さに敵う奴はいない!」

「!!!…お、お前は…そんな真面目な顔で一体何を言っているんだ……?」

余りの恥ずかしさに…その発言の恐ろしさに、鳥肌が止まらない赤羽は思わず顔を真っ赤にして手で額を押さえながら身悶えそうなほどの言葉の威力にもう何も言い返せはしなかった。もう何も聞きたくないと、歩くスピードを上げる。けれどそんな珍しく照れすぎて冷静さを欠いた赤羽はコータローの絶好の獲物で当然逃がしはしない。

「あれ?お前何顔真っ赤にしてんだよ?そんなに嬉しかったのか〜?俺の褒め言葉が?でも嘘は言った覚えがないぜ!昨夜のお前はやばかった」

「もっもうやめてくれ!鳥肌が止まらない」

「つーか首筋の痕、見えてんぞ?しっかり隠しとけよ」

「な、何…?あっっ!」

そして今日朝一番で裸のまま妹に遭遇したことを思い出す。ひょっとしたらあの時この痕を見られてしまったのかもしれない。そう考え始めると赤羽はもうスーッと血の気が引いていった。

「おい?どうしたー?」

「………………もう君とは口も聞きたくない」

「はあ!?突然なんだよ?別にそんなこと言われなくてもお前と普段から話すことなんて何もねーよ!」

もう赤羽は怒りが収まらなかった。身勝手極まりないコータローの横柄な態度に、人生で重要だと思うもの『冷静さ』を失いつつあった。こんな振り回されている自分にも腹立たしいともう赤羽は形振り構わずギターの弦を弾いてしまいたかった。

ギャーン!!と大きな音を響かせて、どうかこんな苛立ちが一時でも早く消えてしまうように。

だが学校に着くまでは我慢…と、隣にいるコータローの存在をまるで無視するように精神を集中し始める。

けれどコータローの子供のような(内容は意外と大人だけど)罵倒の数々に、赤羽は終始精神が乱されっぱなしだった。


思わず、平穏を返せ…と空に向かい赤羽は心で叫ぶ。


END.



長くなりましたが妹初お目見えSSでした。そして赤羽の誕生日お祝いSS!(どこが!)
エロが一応それなりにあるので、作品のエロ頻度は少ないですがこっちに置いておきました。
完璧オリジナルキャラですが(笑)赤羽の妹、とても楽しく書けました!一応二歳下設定。
兄と妹はあれくらい仲が良いといいと思います!街でも平気に腕組んで歩いてそうですね(笑)
家族である妹を大切にする赤羽と、家族でない外の世界で知り合ったコタと等身大で接している赤羽。
妹からすればコタロの位置は羨ましくて、コタロからすれば妹の位置が自然で特別に見えるんですね。
なんだか凄く愛されてる赤羽だー(笑)エロも私が調子に乗ってあんな感じでしたが、
コータローはうまいことやったな!と思います(笑)赤羽を屈服させるいい手段だ!!
夜の可愛さはマジで赤羽に敵う相手はいませんよ!色気たっぷりお兄様。妹が天然で良かった。
本当は妹がトイレに行きたいんだけど、リビングがあんなことになってるから行けない…とか
そんな感じにしようかと思っていたんですが、あまりにも赤羽が可哀想なのでバレてないことにしました。
色々人の内面も書いた気がしますが、最後まで一本の話で上手くまとまっていればいいなと思います。
それでは長々と作品もコメントも書きましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!
★水瀬央★

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