*異変−3−*


慌しくバタバタとしながらコータローは部屋を出て行った、ガチャン…と重苦しい音が鳴って、一気に辺りは静寂さを増す。正しくは毎日赤羽が過ごしているまるで無のような空間、自分以外誰もいないのが当たり前だ、テレビをつけるかギターを弾かない限り確かな音は聞こえてこない。コータローの持つ賑やかさは時に人間らしい生活を思い起こさせた。

―………孤独を恐れてる訳じゃない…、ただ……慣れてしまうのが怖い…―

発熱して気が弱っているのか、そんならしくない事を心に思い描く。この賑やかさに慣れてしまうのが怖い…だがそんな寂しい事は無かった、一人の方が過ごしやすいだなんて誰が聞いても寂しい。まだ最低でも後一年はここで一人で生活していかなければならない、ペースを乱したくはないのだ。けれどコータローはそんな事お構いなしで土足で荒っぽく踏み込んでくる、決して迷惑ではないが余りに近くにい過ぎてしまうと自分という人間をを知られすぎる可能性があるのでついつい赤羽は警戒もしてしまう。だが最近はそんな警戒も解きつつあるのだが。

額に置かれたままのぬるくなってしまったタオルに触れてみる、こんな風に誰かが家で自分のことを心配して世話を焼いてくれる存在はとても懐かしかった。離れ離れとなった自分の家族を思い出す。とても優しい人たちで赤羽は心の底から大切だと思っている。
コータローは決して家族ではないけれど、ある意味家族よりも近い位置に彼はいる。家族にも見せたことのないような自分の一面を彼は何度もその目で見ている。


ガチャン。


玄関先で再びドアが閉まる音が鳴り響いた。

コータローが帰ってきたのだ。

そしてすぐにこちらには顔を見せず、何やらキッチンの方でごそごそと蠢いている気配を感じる。きっとサラダでは満足しない男がどこかで昼食でも買ってきたのだろう、彼は随分大食漢だから。体つきはまだまだ子供で鍛えが少し足りないと思うが。だが両脚の彼の筋肉は非常に逞しく素晴らしいバランスを誇っている。それは自分にはないものだ。キッカーとしてのコータローは誰もが認める超一流選手だ、上半身も同等に鍛えたら素晴らしい肉体になると思うのだが本人は驚くほど脚以外は無頓着だ。

「おい、粥買ってきてやったぞ、今温めたからほら食え」

すると突然話し掛けられて赤羽はほんの少し驚く、そしてゆっくりと上半身を起こした。まさか自分の食糧を買ってくるとは意外だった、てっきり自身の昼食を買いに行ってるとばかり思っていたから。

「…フー……、わざわざ買ってきてくれたのか…、ありがとう…」

いつものフーに比べて、体調の悪い今日は本当に苦しそうに吐き出される。話をするのも本当は辛いのだが、尽くしてくれるコータローを目の前に黙っていられない。

「おいっ、お前まだサラダ食ってなかったのかよ!ったくしょうがねぇな〜、俺が食わせてやる」

「…??」

「そんな不服そうな顔をしてダメだぜっ、ちゃんと食わなかったお前が悪い!おら、食えっ」

そして妙な展開に差し掛かり、コータローはスプーンで手に持っている粥を少し掬い、赤羽の口元まで運んでいく。それをジーッと不思議そうに眺める赤羽。先程はつい考え事をしてしまったから食さなかっただけで決して食べられなかった訳じゃなかった、勝手にコータローが誤解したのだけど、食べさせてもらうなんて過去赤羽の覚えている範囲内では一度もなかった事だ。だが拒否する気も起きなくて、素直に口を開く。少し塩味が濃いような粥の味が口内に広がった。

「おっマジで食った!!絶対嫌がると思ったのによっっ、ケッ!でもこうやって見るとテメーもまだまだ子供だぜっっ」

どうやら想定外だったらしい、赤羽が素直に口を開いたことは。そしてコータローも一口パクリと粥を自分の口に運んだ、そんな部分は相変わらずだった。

「…君は……何も食べないのか?」

「んんっ?……いや、食うぜ。弁当もあるしパンも三つほど買ってきた」

明らかに摂取オーバーなように思えるが、どうやらこれくらいは軽いらしい。もう我慢が出来ないとばかりに食糧を広げて豪快に食べ始めるコータロー、赤羽も渡された粥を何口か放り込む、けどやっぱり食欲は湧かなかった。身体が異常に熱く重く、体力が奪われていっている。

「ん?また顔色悪いぞ、熱冷ましの薬とか飲んどけよ、どこにあんだよ?」

「……はぁ…、向こうの部屋の…戸棚の引き出しに……」

それだけを聞くと一目散にコータローは去っていく、よく片付いている部屋だがどの戸棚の引き出しかがいまいち分からなかったので適当に漁り出す。すると運良く見つけて、水と一緒に持っていってやる。これで少しは楽になるはずだ。

「おら…飲め、でっ…さっさと治せよ、お前がいなきゃ部の練習になんねーだろ」

粥を置いた赤羽は薬と水を受け取り、朝飲まなかった熱冷ましの薬を胃へ流し込む。すると何だか安心したのか急激に身体から力が抜けたのが分かった。

「…なあ、医者に診てもらわなくて平気なのかよ、別に連れてってやってもいいぜ?」

「……フー………、安静にしていれば、大丈夫だ…」

見かけの割には柔な身体はしていない赤羽なので、きっと驚異的な回復力を見せつけるのだろう。だが今が苦しいことに違いはない、平気だと本人が言ってもコータローは俄かに信じがたい。

「本当だろうな?」

疑うようにそんな言葉が吐かれたけれども赤羽にだって安静にしていれば治ると言いつつも身体のことなので当然確証はない。そんな言葉は気休めだ。だから何も答えようとはしない。だが逆にコータローはどうにかしてやりたいと強く願っているのか、打開策を何とか見出そうと手探り状態だ。

「熱か……まあ汗かいたらいいっていうよな?ほら、汗かけ、汗」

「……ああ」

だが見ての通り赤羽はじんわりとだが既に汗はかき始めている、とにかく辛抱強く布団の中で安静にしているしかない。けれど何故かコータローは考え込んでいる様子だった、どうにか楽にしてやれないものかと…汗をかかせてやれないかと。

「…うーーん……………ん?そうだ!もっと大量に汗かけばいいんだよ!よし!!俺に任せろ!」

名案を思いついたと顔を輝かせる。しかし赤羽は何だか嫌な予感がしていた。まるで子供のようにわくわくと好奇心旺盛な顔をしているコータローが。

突然次の瞬間、赤羽にかけられていた布団が捲られ、何とのっそりとベッドの上に身を乗り上げてきた。

「っっっ!!!」

そして不審な目を向けるが全く気にする様子はなくコータローは衣服のボタンを一つずつ外していく。至極楽しそうに。さっきまでは誤解するな〜と叫んでいたのに。

「まっ待て…っ、一体何の…真似だ…っ」

正常に働かない思考回路で必死に赤羽は問いかける、頼りない自分の右手を何故か脱がそうとするコータローの手に伸ばす。だが今の状態で押し退ける事など不可能に近かった。赤羽の制止をまるで無視するコータローは妙に手際良く前を全て開けさせた、悪気のない顔で突然胸に顔を埋めてくる。

「…っ!よ…よせ…っ」

汗は既に充分かいている…そう続けたかったが熱がそれを阻む。こうすれば十二分に汗をかくだろうという至って単純思考でコータローは行為に移してしまってる。だが立派に間違いを犯していた。こんなコンディションが最悪な時に激しく性行為などしてしまえば…

「心配すんな、丁寧かつゆっくりやってやるからよ、ついでに優しく」

しかも優しくがついで…そんな自分勝手な物言いに赤羽は眩暈を起こしそうになりながら、どうにかこの愚かな行為を止めさせようと身体を捩り必死で制止の手を伸ばすがいつもの十分の一も力が入らない。両方の胸の突起を舌と指で刺激を与えられて赤羽は震える、ただでさえ意識が朦朧とする中で+α余分な熱を与えられ、閉じていられない口から更に熱っぽい吐息が吐き出され、苦しみの声か敏感に察知しすぎる嬌声なのか、もう赤羽には何も分からなかった。ただ熱に浮かされ、抵抗もするだけの余力がない。

そんな赤羽の事情など露知らず、ぴちゃりと音を立てて立ち上がった突起を衝動的に吸い付ける。それから身体のラインを辿っていた掌が徐々に下がり、衣服の中へ潜り込ませて遠慮なく性器を掴む。

「うあっっ……ハァ…ハァ…、やめろ…」

今の自分に強い刺激や快感など植え付けないでくれ、そんな切実な思いを言葉に乗せたいが上手く伝わらない。危険に震え出す自分の身体の行く末が心配で心配でたまらなかった、何も考えていないコータローが怖ろしくてたまらない。先程まではとても献身的で見直していたというのに。

「一回出しちまえばすっきりするんじゃねぇか?熱が発散されてよ、いいアイデアだぜ!」

助けてくれ、赤羽は心から救済を求めていた。

コータローの確かな意思を持った指先は本人が嫌がっているのにもかかわらず性器を刺激し始める、衣服の中でごそごそと怪しく蠢いてそれを扱く。もう止められないと放心状態に陥っている赤羽は声を抑える力も残されていないのか、あ…あっ、と口先から喘ぎが漏れる。またそれをいい風に勘違いしたコータローが執拗に手を動かし解放を早々と促す。いつの間にか下の衣服もずり下ろされて、安静にしていなければいけない病人が淫らな格好で喘がされている。まさに拷問だった。また悪気がないのも痛かった。

そして抵抗する力もなく声を抑えることすらできない赤羽にこの衝動は抑えられず、与えられるがまま素直に身体は反応して中心から熱が全身に広がって視界すらぼやけていた。ただ条件反射的に肉体だけは確かに官能を得ていた。逐一びくびくと背中が跳ね上がる。

「あ…ああ…、ん…っ…あっ……っ」

いつもなら抑制できる声が今日は全て口からこぼれた、しかもそれに対してコータローが少し嬉しそうでこれほど赤羽にとって腹立たしいことはない。絶頂を迎えてしまえば、間違いなくこの身体は燃え尽きると…赤羽は確信していた。今すぐにでも止めたい、止めたいがもう自分の身体も熱で悲鳴を上げている割に快楽には非常に正直で、途方に暮れる。

口元からいっそう大きな喘ぎ声と身体を多大に震わせた時、赤羽は精を放った。べっとりと相手の手を汚して。

「はあっはあっはあっ、あっ…はぁ…っ」

急激に脱力した身体は既に自分の意思では動かせなくて、文字通りベッドに倒れ込む。シーツに身を預けて今にでも疲労で意識を失ってしまいそうだった。そして身体は大量に汗をかいていた。

「おい、大丈夫か?随分汗かいたようだな」

大丈夫な訳がない、だがそんな反論も頭の中ですぐ消える。一応の目的の汗をかかせることはどうやら無事終了したらしいので後はゆっくりと本気で休ませてもらいたかった。

だが…赤羽の災難はこれで終わらない。

次の瞬間、ひょいっと足を持ち上げられた時一瞬頭の中が真っ白になった。

―まさか…まさか…まさか……っ―

最後まで行為を続けるつもりなのだろうか?そんな怖ろしい考えに行き着いて。

「はあっはあっ…コ、コータロー……ま、まさか…っ」

「ん?ああ…痛くねぇようにするから安心しろ」

そして普通に吐き出された末恐ろしい台詞はとってもお門違いなものだった、そんな事を赤羽は危惧してる訳じゃない。もう耐え切れず頭を左右に振る、ダメだと。しかしやっぱり「心配するな」と声が掛けられて、その次に指が挿入されたのが分かった。

「っっ!!ハアッハアッ…!!」

相手に何を言っても理解してくれない、この大きな溝をどう埋めようかと珍しく赤羽は混乱状態だ。濡れた指が滑り良さそうに奥まで入ってくる…夢なら早く覚めて欲しいと思った。

「うわっっ、あっついぞっお前ん中っっ!!」

そんな分かりきった感想はいらないと激しく息を切らしながら赤羽は手を伸ばす。するとその手はそっと優しく握り締められて分かってもらえたのかと顔を上げた。しかし妙に自身有り気な表情は赤羽が望む方向へと進まないことを意味していた。
先を急ぐように指の抜き差しが行われ、もう呆然とする。

―ダメだ……コータローは本気だ……止められない……―

この有り得ない見解の相違はどうなったら起こるというのだろう…赤羽流に例えると、音楽性の違い、としか言い様がなかった。様々と見せ付けられた格好だ。何故こんなことになってしまったのか…悔やんでも悔やみきれない。
…と、そんなどうしようもない悲しみに暮れていた赤羽に最後の試練が待ち構える。いつの間にか二本に増やされていた指が引き抜かれたと同時に代わりのものが入り口に押し当てられる。それは何か…言わずとも知れたコータロー自身であった。

躊躇なく押し進められたものは身体に力の入らない赤羽の体内にいとも簡単に挿入してきて、そしてその熱さに燃え尽きてしまいそうな感覚を覚えた。また痛みもある、あることはあるが痛みよりも怖ろしいものが差し迫っていると赤羽は生まれて初めてその恐怖を味わう。

―…殺されるっっ!!―

元々の熱のせいもあるが、本気でそんな事を脳裏に描いて寒気すらする。だがここで自分が死んでしまったらコータローは殺人犯、及び性犯罪者としてこの世界では生きていけなくなる、そんな目にあわせる訳にはいかない!とぐるぐる遠のく意識の中で必死に庇おうと気を強く持とうとする。
だが大きく脚を広げられたその中心に熱棒が何度も何度も激しく出し入れを繰り返す度に現実に突き戻され、はたまた死後の世界が脳裏にちらつく。

「うっうあっっ、あっっ!ハァッハァッ、ああっっ」

悲鳴に近い嬌声が寝室に響き渡り、二人以外誰も存在しない空間だからこそ容赦ない腰の動きに翻弄される。あまりの熱さに身体自体が発火しそうで正気ではいられなくなる。今自分がどんな状態であるのか、微かに耳に聞こえてくる自分のだらしのない声だけが少し教えてくれる。もう目も開けていられないほど赤羽は何もかもが限界だった。
ひたすら獣のように抽送を繰り返され、その衝撃に無抵抗に身体は揺さぶられ、徐々に意識を失う。一体いつになったら解放されるのかと…神に祈りながら………

・・・・・

・・・・

・・・

・・




「……おい?」

そして赤羽の様子がおかしいことに今頃になって気付く愚か者。

「あれっ!?ひょっとして気ー失ってんのかっっ!?おいっちょっとっっ…赤羽!!」

ぐったりと意識もなく真っ青な顔で異常に汗をかき、どう見ても大変な事態だった。それと同時に一気に熱が冷めていったコータローはようやく身体を離し必死で呼びかける。

「やべっっちょっと調子に乗りすぎたなっっ、おいっ大丈夫かよっおい!!しっかりしろ!」

頬を軽くペチペチと叩き、呻き声は聞こえてきたことから命に別状はないと安堵する。大体異常が起きて焦るくらいなら最初からやらなければいいのだ、何故わざわざ後悔することを考えなしに勢いだけでやってしまえるのだ。けれど本気で赤羽を心配するコータローは偽者でもなんでもなく、労わるのが元より当然だが(病人だし)一応過ちには気付いたようだった。

「おいっ、おいっ!死ぬなよ!?頼むからっっ」

慌てて全身を水で絞ったタオルで拭いてやり服も正してやる、額のタオルも絞り直して、ようやくまともな状態へ戻ってきた。ベッドの傍らでおろおろと情けない姿のコータローが本気の本気の本気で心配そうに赤羽を見つめていた。勿論責任も感じている、間違いなく病状は悪化した。

「あークソッ…やっちまった……、悪ィ……」

頭を抱えて、そのままその頭を顔面からバネのあるベッドに沈み込ませる。珍しく大いに反省している様子で自分の浅はかさを呪っているようだ。とりあえず気を取り直して真面目に看病を続けて、目が覚めるまで側を離れないでいようとコータローは決心した。また汗をかき始めた赤羽の顔や身体をこまめに拭いてやりながら、辛そうな顔が少し穏やかになると心底ホッとする。

そしてまた仕事がなくなり、ちょうど昼食も食べて(一運動してしまったが)うとうと眠気MAXの時間がやってきた。普段の学校でなら間違いなく5限目は睡眠タイムだ、強烈な眠気に勝てないうえ勉学にも匙を投げている。だが今日は気合を見せて落ちそうになるけれど必死で頬をつねり赤羽を見守り続けている、それはあんな目にあわせといて当然の事なのだが褒めてやるべきとこでもあった。

「絶対寝ねーぞ………っ、寝ない寝ないっっ!!」

ここで挫けてしまったら自分は一体何のためにここまで嘘を吐いてまでやってきたのか分からなくなる。起きる…起きているのだ……



こうして数時間が経過した。



時刻は既に夕方、未だもって赤羽はすやすやと気持ち良さそうに眠りについている。しぶとく起き続けていたコータローはようやく眠気のピークも過ぎ、時には部屋中をうろうろする事もあったが大半の時間は赤羽の側にいた、何とか責任を取らなければ…そんなことをずっと考えていた。

「………ん…、……んんっ…」

すると赤羽からそんな声が聞こえてきて慌てて顔を見ると、身体を揺らし目覚めの時がようやくやってきたみたいだ。コータローは途端身体を緊張させて、冷や汗混じりに目が開くのを待つ。そして数秒後…赤羽はゆっくりと瞼を上げた、赤い瞳が見える。

「よ…ようっ…、そのー…気分はどうだよ……」

「……ん、…………………………!!」

最初は寝惚けた様子の赤羽だったが、徐々に意識が覚醒し始めるのと同時に先ほどの忌々しい記憶をどうやら呼び起こしてしまったらしい。顔つきを見ればすぐに分かる、あまり表情に大きな変化はないにしろそれでも簡単に見て取れるほど赤羽の怒りの感情がオーラを纏ってコータローに牙をむいている。

「……っ、えっと…そのだな………、さっきは悪かった」

とりあえず責められる前に謝罪の言葉を述べる、一応真面目な顔で心を込めて言ったつもりだ。だが赤羽はそんなコータローをジッと鋭い目線で見つめていたが謝罪の言葉を聞いた後でも何も話そうとはしなかった。まだ具合が悪いからかもしれないがきっとそんな理由ではないのだろう。
とりあえず言い訳をするわけには当然いかないのでコータローは看病を続けることにする、そういえば熱は引いたのだろうか?と単純な疑問が湧く。

「ねっ、熱引いたか?」

無言の赤羽が何より怖かったが、無言なのはいつもの事だと暗示をかけて、そっと首元に触れようとする。だがさっきあんな怖ろしい目にあわせておいて、触れたら怒るだろうか?と寸前になって焦りが生じる。だが手を引くにも引けなくてそのまま首元に触れた。赤羽は拒否もしなかったし逃げもしなかった。

「…やっぱまだちょっと熱あんな……、でもマシにはなったか…」

少し熱が引いたり理由が自分の強いた行為でないことはくらいはバカなコータローでも分かっている、昼に飲んだ薬が効いているのだ。


「…………………初めて俺は………死を覚悟した」


「っ!!」

そしてようやく言葉を発した赤羽だったが思いの他強烈な一言だった、もうコータローは深々と頭を下げて謝るしかない。

「悪かったっ、本当に俺が悪かった!!考えなしだったかなり!!!」

「………君は一体ここに何しに来たんだ…」

「そっそりゃ〜…勿論『看病』」

物凄く冷たい言葉の言い回しに氷柱のようなものが何本もコータローの心臓に突き刺さる、赤羽が本気で怒りを覚えていることはよく分かる。冷や汗が止まらない。

「あっと、責任はしっかりと取らせてもらうぜ〜?俺のせいでこんなことになったんだからな」

「…責任?」

「ああ、本気で反省してんだからな、今日は泊まりでお前の面倒を見る!」

「断る!!」

速攻で赤羽に拒否られてしまった。

ずっとどう責任を取ろうか考えていたコータロー、その答えがこれなんだろう。そんなの嫌がられるに決まってるじゃないか。まず自分が何をしでかしてしまったのかよく考えるべきだった。突然、看病のつもりだったとはいえ病人相手に盛ってきた男と一晩中更に一緒にいたいなどと思う訳がない。

「なっ!何だよっっもう何もしねーよっっ!!信用しろよ!!マジでだ!!だってお前一人だろう?心配じゃねーか!!」

「フー…、俺にとっては獣と一晩中過ごすことの方が心配だ」

「この分からず屋めっっ!!お前が何と言おうと絶対俺はここに残るからな!!面倒見るっつったら面倒見る!!」

「はっきり言わせてもらう、迷惑だ」

「だーっっ、やっぱまだ色々誤解してんじゃねぇか!!!」

誤解されるようなことをしたのだ、まあ当然の結果である。だけどコータローはとても執念深い男…一度こうと決めたらやり抜くまでその場を離れない男だ、幾ら赤羽が冷たい言葉を吐いて帰るよう仕向けたとしても通用しない。こういった部分は非常に厄介であった、確かにあの行為以外は…あのコータローがとても優しく看病してくれたことは赤羽も認めている。感謝もしている。しかし全てあれが台無しにしてしまったのだ、自業自得である。

「反省してんだからな!!だから残る!!帰らない!!!」

もうこうなったらテコでも動かないつもりだ、まだ熱のある赤羽もいつものように強気な態度を保ち続けられない、もう早速頭がくらくらして何となく息が苦しい。どうにかして追い返さなければ。だが本当のところはコータローを信用していない訳じゃない、今日こんなことがあってしまって、ここで甘い態度を取ってしまえば幾らでもこの男は増長する、きちんとした躾の意味も込めて厳しい姿勢を崩してはいけないのだ。
もしあれがなければ、ひょっとしたら自分は今晩ここに残るといってくれたコータローを、口には出さないけど歓迎していたかもしれない。実際嬉しくない言葉ではない。
けれどもやはり今日のところは引き帰らせるのが今後の為の得策と言えよう。
なので赤羽は少し考えた、何かいい方法はないかと。

「…………!……コータロー、悪いが俺の携帯を取ってくれないか」

「携帯…?はっ!お前まさか!!さっきのこと親に告げ口する気じゃねーだろうなあ!!」

そしてまた、とんでもない発言がコータローから飛び出す。今度はさすがに神経を疑った。

「…っ!!…もしもお前が俺の立場だったとしたら、親にそんなことが話せるのかっ、もう少し物を考えて発言してくれ」

「俺はそんなことにならねぇからいいんだよ」

「そういう問題じゃない、早く携帯を…」

もう一刻を有する…と携帯を受け取った赤羽はある人物に電話をかける、その人物が電話に出るとすかさず彼はこういった。


「忙しいところ申し訳ないが、引き取りに来てくれないか?」


そして電話の向こう…


「…了解」


酷く冷めた声で放課後の練習であったジュリはそう赤羽に返事をした。

それから30分後、無事にコータローはぶつくさ文句を零しながらも幼馴染の手によって連行されていく。

こうして赤羽の平和は守られた。

当然、翌日…彼は大事を取って学校を休む羽目となる。
その翌日には完治して学校に姿を現したがしばらくコータローと口を聞かずマンションも資料室も出入り禁止にして(資料室のドアには赤羽直筆『コータローお断り』の注意書きが…)、事実上獣を禁欲させた。かなり不服そうに暴れ始めるが一切聞き入れず…一ヶ月経った今も尚、赤羽の報復は続く。

しかし身から出た錆で、コータローに文句を言う資格など有りはしなかったのだ。

だが赤羽の身体異常を見抜いた時、嘘の早退で赤羽を追いかけていった時の非常に男らしい姿のコータローも確かにこの世に存在しているのだ。


END.



ひ、非常に長くなりましたがようやく終われました…、とりあえず頑張ってみました。
だいぶ調子に乗って色んなエピソードを入れまくりました。そしたらこの長さでした…
シリアスだったりギャグだったりエロだったり忙しいSSだ…でも書き終えた時は嬉しかった!!
赤羽が具合を悪くして、でもそんなのお構いなしで登校してくる話は前々から書きたいなと
思っていました。そしてコータローにだけ悟られるというラブネタ(笑)素晴らしき直感力!
凄く厚い二人の絆を書きたくて、二人にしか見えない糸があると言いますか…
普段から仲良くないのは相変わらずで(コタが一方的に)、でも既に繋がりあってます(笑)
ちょっと早退した赤羽を意地になって追いかけるコータローが我ながらカッコいいとお気に入りです。
エロシーンまでは確かにカッコ良かったはずなんですけどね(笑)やっぱバカだったか。
でもそんな単純バカ具合もコータローの可愛さで魅力ですよね!赤羽は死に掛けたけどさ!!(笑)
きっと一人で生きていけるくらい赤羽は強い人なんだろうけど、非常に分かりにくく隠されている
赤羽の弱い部分とか、本能で嗅ぎつけて、支えてやれるいい奴コータローが大好きだ!!
赤羽が一人で生きられなくなったら絶対コータローのせいだよ!!でも人間らしくていいですよね。
ちなみにこのSSの赤羽は天然赤目です!あっ何、原作設定無視してんだよー!とお叱りを食うかも
しれませんが、赤羽の天然赤目は私にとっては『夢』であり『浪漫』なのです!!!
どうか少しだけ夢見させてください(笑)天然赤目でもいいじゃん!キレイじゃん!!(笑)
オチ的には突っ走ってしまったコータローが身から出た錆で罰を受ける過酷なものでした。
でもちょっと赤羽は多分楽しんでるよね、反応見て(笑)ああ超ラブいコタ赤vうはうはvv
良かったら、チラリとでも感想などありましたらお聞かせくださいませ〜。
★水瀬央★


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